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女社長、転生したら貧乏令嬢!?貧乏領地を立て直します 〜現代知識で異世界経営戦略〜  作者: 冬馬


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1/18

異世界転生先は貧乏でした。

その日も、特別なことはなかった。


売上報告に目を通し、明日の打ち合わせの資料に目を落とす。

数字は悪くない。むしろ良いほうだ。


「私、今日はもう帰るわ」


秘書に伝えて、部屋を出た。

すれ違う社員たちが「お疲れ様です」と声を掛けて来て、

「無理はしないでね」と労いながら会社を後にする。



あまりに順調だった。

だからこそ、気が緩んでいた。


横断歩道を渡る途中に、背後で誰かの叫び声が聞こえた。

衝撃が全身に伝わり、次の瞬間、地面が上に見えた。


「⋯⋯終わった」






目を開けると、見慣れない天井⋯⋯

いや、ベッドの天蓋が目に入った。


ここはどこ?と起き上がろうとして、身体の軽さに気づく。

視界に入った手は小さく、髪は金色だった。


「⋯⋯え?」


声が高い。

口を抑えた瞬間、知らない記憶が蘇った。


名前、家族、領地――


(これは、領主の娘リズの15年分の記憶だ)


知らない記憶と知らない世界に、鼓動が早まり汗が吹き出す。


部屋を見渡すと日本ではないことが分かる。

窓から見える庭は荒れ放題だった。



早まった心臓が落ち着きを取り戻して部屋を出てみた。

そこには、異様な光景があった。


「ここは領主邸のはずでは⋯⋯」


あまりにも違いすぎた。

部屋の中は、天蓋付きのベッドに大きな鏡、大きいぬいぐるみがあり、

手が行き届いている部屋だった。


しかし、廊下は壁紙が一部剥がれていたり、窓も板で塞がれている場所まである。


「どういうこと?」


とりあえず、右へと進んでみる。



先には、玄関ホールが有った。

そこでは、1人のメイド服を着た女性が慌ただしく動いていた。


「ちょっと⋯⋯」


女性は、声に気づいてこちらを振り向いた。


「お嬢様!!!」


私を見て驚いた声を上げ、階段を駆け上がってきた。


「起きられて大丈夫ですか?頭は痛くありませんか?」


彼女に話を聞くと、昨日高い場所からものを取ろうとして、

足を滑らした拍子に頭を打って気を失ったらしい。


何度も自分の不注意で怪我をさせてしまったと、

謝られたが自分の不注意だから気にしないでと伝えた。


「それよりも、お父様とお母様は?」

「旦那様と奥様、シルク様は食堂で朝食を召し上がっております」


(あぁ――朝だったんだ)


「私も朝食を貰えるかしら?」

「すぐにご用意いたします。リズ様が目覚めたことを知ればお二人も安心します」

「お願いね」


彼女は、小走りで走っていった。




食堂に入ると、父親たちが食事を取っていた。


「リズ、身体は大丈夫かい?」


案の定身体を聞かれ、問題ないことを伝えながら、

自分の席に座った。


すぐに食事が運ばれ、私の前に並べられた。


並べられた料理は、パンに野菜入りのスープとちょっとした肉だ。


(この世界の朝食はこれが普通?)


隣りに座る弟シルクの皿には、私と同じ料理が並んでいた。

だが、父親と母親の前には、パンしか置かれていない。


(2人は少食?)


いや、パンのみが大量に置かれていた。

節約しているんだ。


それに気づいて、自分の服とシルクの服を確認する。


(ほつれや、ましては修繕された痕はない)



それに対して、父親の服はよれかかっていて、

母親のは、ところどころ縫い痕がある。


領主であるとは到底思えない身なりをしている。



そしてこの食堂だ。

廊下同様に、古いのではない。


正確に言うなら、維持ができていない。


子供部屋や私たちの食事と服に対して、

廊下や食堂、両親の身なりのギャップがあまりにも気になる。


何かが、おかしい。


領主と言えば、税を使って優雅に暮らすものじゃないの?


しかし、眼の前にあるものはそうじゃない。

この世界の領主はそういうものなのか?


わからない事だらけだ。



とりあえず、パンを口に運び噛み切ろうとして違和感を感じた。


(なに!?この硬さは?)


手で千切ろうとしてもびくともしない。

指で押してもパンだと認識できない。


(こんなん食べたら歯が折れるわ)


どうやって食べるか悩んでシルクを見ると、

彼はスープにつけてから食べていた。


お父様たちは、水につけて食べている。


(あーふやかさす前提なのね)


クソ硬いパンの食べ方を理解して、

スープにつけて食べてみたが、木の板から硬いフランスパンになっただけ。

しかも、まずい。


スープも肉だって香辛料が使われていなく、

素材の味を楽しむと言えば聞こえはいいが、はっきり言えば味がない。


(これが、領主の家で出る食事なの?)


どうにか、喉につまり掛けながら食べ終えて部屋に戻った。


屋敷の様相や食事にショックを受け、

ベットの上でリズの記憶を辿る。



記憶の中では、物心ついたときの屋敷は綺麗に維持されて、

食事や服装もちゃんとしていた。


でも、次第に屋敷は今の様相へと変わりはじめ、

メイドだって、5人居たのがいつの間にか1人になっていた。


なぜ、そうなったのかはリズの記憶の中にはなかった。


「うー⋯⋯気になってしまう」


記憶だけで言うなら、徐々に困窮していっているようだった。


ただ強く記憶に残っているのが、

「領民が幸せならそれでいいんだ」と言ったお父様の姿。





この世界に来てから、1週間が過ぎた。


はじめは、自分がこの世界に来た理由などを考えたりしたが、

夢に神らしきものが出たりなどはしなかった。


そして、もう一つわかったことは領主邸の貧しさだ。

正確には、鮮明になった。


不必要ものを削ぎ落とした上で、

大切なところにも手が回っていない状況。


前世でたくさん見てきた倒産間際の会社と同じ。


ただの延命経営がこの領主邸の実情だろう。

やることはある程度わかっている。



大きく深呼吸をして、ベッドから起き上がった。

覚悟なんてきっとなかった。


でも、私はほっとける性格ではなかったこと。


「帳簿を見れば全体像が見えるはず」


お父様のところに向かうため、部屋の扉を開けた。




読んでいただき、ありがとうございました!


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