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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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この領地の現状

メイドを探すために、再度玄関ホールの方に向かう。


廊下は確かにボロボロではあるが、

ホコリや塵が積もっている様子はなかった。


「掃除は、ちゃんとされているみたい」


ホールに辿る着いて、一階の方を見下ろしても、

あのメイドはどこにもいなかった。


「困ったわね」


次に、どこを探せばいいかと思考していると、

食堂の扉が開いて、中からお母様が出てきた。


「丁度いいわ」


階段を足早に駆け下りて、お母様に声を掛けた。


「お母様、領地に行きたいのですが?」

「リズが、領地に行きたいというとは⋯⋯」


あれ?なんかおかしいことでも言ってしまった?


「なにか、問題でも?」

「うぅん、なんでもないわ。

ただ、子供1人で行くのは心配だから、アシュを連れていきなさい」


ちょっと待っているように言われた。


お母様も待っている間に、玄関ホールを観察したが、

ここも例外無く、大理石の床は一部が木に変わっていたりした。


「一番人目に触れるのに、この状況はまずいわね」


お母様が戻ってきた。


お母様の後ろには、さっきのメイドが付いてきていた。


あのメイドがアシュね。


「アシュ、リズが領地に行きたいと言うから付き添いをお願い」

「かしこまりました。奥様」


軽くお母様にお辞儀をして、アシュは私のところに近づくと、

そっと手を出してきてくれた。


私はその手を、なんの躊躇もなくつかんで屋敷を出た。



領主邸はちょっとした丘にあった。

領地までは、歩いて10分ほどの場所にあるらしい。


デコボコの道をアシュと歩きながら、

領地までの道のりを観察した。


ただ本当に、何もない。


領地へと続く道と木しかない。


当然、歩いて行くってことは車とか自転車なんてないんだろう。


屋敷の外観や着ている服などから推察すると、

中世のヨーロッパ系よね。


「ねぇアシュ」

「どういたしましたか」

「イギリスとかフランスって国を知っている?」


私の手を握っていない、反対の手の人差し指を顎に当てながら、

「イギリス、フランス⋯⋯」とつぶやいた後に、


「申し訳ございません、そういった国は聞いた覚えがございません」

「ううんいいの、じゃこの国の名前は何ていうの?」

「ユーラルド王国でございます」


ユーラルド王国?

私が知らないだけで、そんな国が地球にあるってこと?


仮にあったとして、なんで私はその国の領主の娘になっているんだ。


状況がわかれば、逆にわからなくなる、

悪循環に陥ってしまっている。


首を何度も左右に振りながら、色んなことを考えていると、


「お嬢様、着きました」


アシュの声で、下を向いていた視線を上げた。


「これが⋯⋯領地なの」

「⋯⋯はい」


はじめて見る領地に私は言葉を失った。


目の前にあるのは、文化レベルが低いとかっていう話ではない。


1本の道の左右に、木造の平屋が並んでいるだけの、

スラム街と言われてもおかしくない場所だった。


昼間なのに往来がない。


いや、活気というものが全く感じられず、

人が生活しているとは、到底思えない。


「お進みいたしますか?」


アシュの問いに、即答できなかった。


なんとなく、リズの記憶に領地がなかった理由がわかった気がする。


アシュと握った手を強く握り直して、


「案内してちょうだい」


領地の中に行くことを決断した。



領地を縦断している、中央の道幅は5mほどあるが、

それ以外に、道らしい道はない。


領民が暮らしている家は、どれもツギハギだらけで、

台風が来れば根こそぎ飛ばされてしまいそうだ。


「領民は、今はなにをしているの?」

「今の時間ですと、ほとんどの領民は農作業に出ていると思います」


やっぱり、メインとなる労働はそれなのね。


ほとんど代わり映えをしない道を歩いていると、

家の前に、何かを並べている家があった。


「アシュ、あそこを見たいわ」


近づいて見てみると、

りんごが5個置かれていた。


「あらリズ様いらっしゃい」


家の奥から、老婆が私に気づいて挨拶をしてくれた。


「こんにちは、今日の品揃いはこれだけですか?」

「いつも通りです、とは言っても客なんて居ないけどね」


と言って、笑いはじめた。


「でわなぜ、売るのですか?」


唐突な質問に老人は目を大きく開いてから、困った顔をした。


「そりゃ売れれば御の字で、売れなくたって自分で食べればいいだけだからね」


困った顔が少し寂しそうに変わっていた。


「変なことを聞いてごめんなさい」


頭を下げお店を離れた。



領地の中心付近部まで来ると、

唯一のレンガ造りの建物が目に入ってきた。


「あれはなにかしら?」

「領主様が運営しているパン屋です」


お父様がパン屋を?


「あそこも見てみたいわ」



中に入ると数名客が居て、

子連れの母親が私に気づいた。


「リズ様ではないですか!」

「こんにちは、パンをお買い求めですか?」

「はい、毎日買っています」


店内はあまりに簡素な作りをしていた。


カウンターと一斤のパンが複数置かれているだけ。

なんて寂しいパン屋なんだろう。


「今日も硬いパンなの?」

「もうこの子ったら!」


母親が慌てて子供の口を抑えた。


私の方を見て頭を何度も下げてきたが、

どうしていいかわからず、苦笑いを浮かべてしまった。


子供は5歳ほどに見えるが、

どう見ても、栄養が足りていないのが明白だった。


小枝のように細い手と足が、

この領地の実情をなによりも物語っている。


母親の方も、叩けばすぐに折れてしまいそうにか細い。


自分の腕を見て、なぜだか申し訳ない気持ちになった。


このパン屋では、一斤ほどのパンを100イェン?で販売していた。


朝食に出ていたパンと同じだから、

領主邸もここから仕入れているようね。


客が居なくなったのを確認し、店員に声を掛けた。


「ごめんなさい、工房の中を見てもいいかしら?」


店員は慌てて職人に確認しますと言って、裏に行ってしまった。


数分待っていると、確認が取れたようで工房に案内してくれた。


「ちょっと中を見させていただきます」


工房に居た男性にお辞儀をして中に入った。


中は、大きな窯と生地をこねるであろう作業台がある、

こじんまりとした工房だった。


「私はリズよ。お名前を聞いてもいいかしら」

「バンズです」


緊張した様子で男性が返事をしてくれた。


パンは焼き終わった後のようで、窯の火は消され、

作業台も綺麗に片付けられていた。


「パン作りはどこで学びましたか?」


何気ない質問をする。


「学んだっていうか――元々は親父の店でして、

俺は親父からちょっと教わった程度で⋯⋯」


2代目ってことね。


「じゃ、普段はお父様が作られていると?」

「親父は10年前におっちんじまって、

どうにかこうにか俺がパン屋を続けているわけです」


質問をしながら工房内を見て回った。

調理器具などは見慣れたものが並んでいる。


窯の横に無造作に積まれたパンが目についた。


「このパンはなにかしら?」

「それは、出来損ないですね」

「廃棄するってこと?」

「いや、捨てずに領主様のとこに納めているのと、

後は俺と販売しているリリィで持ち帰ってます」


えっ!?じゃ、私たちは出来損ないを食べていたってこと?

さっき食べてきたパンは⋯出来損ない⋯⋯。


あり得ない現実に思考が一瞬止まる。


「きょ、今日が特別多いとかではない?」


あまりの衝撃に声が上ずってしまった。


「どうしても、このくらいは毎日失敗してしまいますね」

「ごめんなさいね、お父様のときもこのくらいは失敗されていました?」


この問いかけに、職人の眉間にシワが寄った。


「それはあれですか?こんだけ失敗するのはおかしいって言いたいんですか?」


悪気があって聞いたわけではない。


「いえ⋯⋯そういう意図で言ったわけではないのですが⋯⋯」


口が滑ってしまった。


「お嬢様は失敗を責めているわけではありません。ですがよく考えてください。

3人分の食事を作るのに、毎回5人分作らないといけないのは普通のことでしょうか?」


これまで静かにしていたアシュが、間に入ってくれた。


「そう言われると、そうだけどよ⋯⋯」


アシュの問いに、職人が俯いて視線を逸らした。

別に責めたいわけじゃない。


「もう一度聞きますが、お父様のときも失敗はされていたのですか?」

「親父も多分⋯⋯あんまり変わんなかったと思う。

それに、昔に親父と領主様とのやり取りで、これでいいって話に」


お父様公認って訳か。


バンズの怠慢によるものではなさそうだ。

それは、工房内を見ればわかる。


領地を見て、領民を見たから言える、

これを放置する余裕があるとは思えない。


当たり前のように出来る山積みの出来損ないパンに、

無性に血が騒いでしまう。



私はバンズに問いかけた。


「もしこれを減らすなら、手伝う気はあります?」

「そりゃ、今の話を聞いたら減らすべきだと思うますけど、

やり方を知らないんです」


やり方なんて、私がいくらでも教えられる。


「単刀直入に聞きます。やる気はあります?」


必要なのは、変化を受け入れる勇気だ。


「領主様のためになるならやりますぜ」

「いえ、それは違うわ」

「どうしてだ?」

「領民のために、やらないといけないことよ」


お父様の意図はわからない。


ましてや、失敗をなくしたからといって、

さっき見た親子を救えるわけでもない。


それでも、やれることをやらないと、

私なのかリズなのか今はわからない。


だけど、これを放置できない私がいる。


「とりあえず明日、作ってるところを見させてください」


まずは、出来損ないを無くさないと、

こんな無駄、理由がなければおかしい。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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