ああ、待つの廊下——デュークお前もかっ⁉
デュークらは共生知生体連合差し回しの地上走行車に乗り、屋上屋な違法建築物――もとい銀河補完機構本部に近づいていました。
「よいしょと。こんなものかな」
デュークが生きている宇宙船専用の共生宇宙軍服を付け直しているのですが、地上走行車は随分と大きな車両なので、着替えをするのにも広々としているのです。
「ま、要人警護のために疑似縮退炉をガン積みした戦闘装甲車両ですからな。一個師団分の個人装備が買えるくらいのお値段だそうで――ゴロッロ、ゴッロ!」
第一軌道降下団の正装に身を包んだゴローロが嬉し気な鳴き声を上げました。
「で、ヘルダイバーズの正装って……装甲服なんだねぇ……」
「そうなのです。装甲服に、ヘルメット、それに銃剣がヘルダイバーズの印なのです。ゴロロッ!」
ゴローロは「共生の旗の元、戦士の心と誇りを抱いて、地獄の果てまで突き進め! ガソリン缶があったら火種をぶち込め! ウーラー!」とかなんとか、非常に危うい歌を歌うなど、物凄いご機嫌がよろしいようでした。
「まぁ、護衛を兼ねてるからこれで良いのかもだけど……あ、キョウカ、なにそれ頭に付けているのはなに? あとそのタスキみたいなのは」
デュークがキョウカを見やると、彼女は腰に反りの深い大太刀のような物を佩くだけで、それ以外は常の姿——美しい甲冑を纏ったような、素のままなのですが、頭部に豪奢な冠をつけ、緋色の帯のような物を片掛けにしていました。
「セルヴィーレ皇家に伝わる王冠と儀装じゃ。セルヴィーレは、基本、武具しか付けぬが、今回は押し出しを強くと、オコート教官が申すのでな」
「ははぁ、確かに立派だよね」
「立派に見せる技術というかのぉ……ふふっ」
「ん……いいと思うよ」
美しい甲冑の姫がそのような姿をしていると、いかにも皇族とわかる上に、何とも言えない荘厳さがあり、「ありがたやぁ~」と思わず拝んでしまうような雰囲気を醸し出すのです。
「うーん、僕の正装はちょっと地味かなぁ」
デュークがそんなことを漏らすと――
「素のままでよい、素のままで」
軍服にトーガに元帥仗という前執政官元帥なフルセットを装備したオコートが諭すように、こんなことをいいました。
「龍骨の民、生きている宇宙船は、それだけで脅威だからな。わかる者にはわかる。ミニチュアの姿が丸まっちくて、いかに愛らしいものだとしても、だ」
「まぁ、そんなものかもしれませんけど」
デュークの活動体は、いささか丸っこく、愛嬌のあるシルエットをしています。でも、その本体は少しばかり離れたとしても、全高が数百メートルはありますから、ドカン! とした威圧感を醸し出すものなのです。
「それで、ニャルは……うん、いつも通りか。あ、いつも通りでいいよ」
「にゃ?」
ニャルはと言えば、完全にネコです。そのまんまネコでした。
「そのままでいいから、素のママは止めてね……」
「にゃ(諒)!」
でも、その身は恒星系超高爆熱反応体です。溢れんばかりのサイキック能力により、それを押し込めていますが、素のままでいたら、恒星の核融合が暴露するようなものですから、エライことになるのは言うまでもありません。
「まぁ、銀河補完機構本部は個人用遮断フィールド完備であるから、多少は核融合したとしても問題ないのだがな」
「ふぇっ?! そんなものがあるんですか。まさか――」
「ああ、上代人の技術ではない。本部にはそれをやれるだけの縮退炉が設置されておるのだ」
「ああ、艦外障壁の建物、しかも内部用ってことですか」
どうやら、向かっている先には、随分と穏やかではない仕掛けがあるようです。
「……テロ対策とかですか?」
「察しがいい、と言いたいところだが、半分正解で半分は違う」
「と、いいますと?」
「昔な、キーラという異常なまでに高慢な種族とアサノーという魚類族がいたのだが、アレコレあった末に、片方が憤懣やるかたなく――」
オコートは、「ええいこの鮒種族(田舎者)が! から始まり、この間の遺恨覚えたるか! と激発、ライトセーバーでバサリと進んで、殿中でござるぞ! と言った流れだ」と、経緯を説明しました。
「待機室前の廊下で起こったことから、これを”待つの廊下事件”と言う」
多分、その後、四十七人の精鋭がキーラの本星に殴り込みを掛けたことは、想像に難くないでしょう。そして、カンエイ・テンプルなどという寺には、なぜかその時の法被だの血判状だのが残っているに違いありません。
「なるほど……種族同士のいさかいを物理で止めてるんですね」
「本来不要なものだがな。世に、そのような事が起きるのであれば、必要なものなのだろう。まぁ、暗殺防止という意味合いもある」
「暗殺……」
「うむ。評議会、元首、皇族、軍高官、宗教指導者、その他もろもろ。銀河には、刺してはならん相手を刺したがる者が、昔から一定数おる」
そう言ったオコートは、急に胸を押さえるような仕草をして――
「デュ、デューク、お前もかっ⁉」
苦しそうな顔をしながら芝居めいたセリフを漏らしました。
「僕は、暗殺なんかしませんよ……」
「……それくらいの腹黒さは持ち合わせるべきだと思うが?」
「や、です」
「うむ、そうか……」
デュークの言葉にオコートは、なんだか残念なような、安心したような、それでいて妙に納得のいく表情をみせたのでした。
もっとも、デュークが誰かを暗殺する時は、たぶん正々堂々と主砲を使うでしょうから、それはもはや暗殺ではなく、宣戦布告なのでしょう。




