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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

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42:運送問題

 私はさらに考える。


「貴族やお金持ちにはお肉とレシピをセットで売ってもいいね。お抱えの料理人がいるから」


 実家の食事風景を思い出してみる。

 アートライト伯爵家にもコックがいた。

 料理自体は割と単純なものが多く、前世のようなバリエーションはなかった。

 パーティなどでは豪勢な鳥の丸焼き、お腹にオムレツ詰め、みたいな料理が出たが、毎日食べるわけではない。


 つまり日本の家庭料理レベルでも、付け入る隙は十分にある!


「なるほど……」


 話を聞いたヴィオラの目が、すうっと細められた。

 何だか肉食獣みたいな鋭さで、ちょっと怖い。ロバはビビリ散らかしている。


「単価の安い商品と、付加価値を付けた高額な商品。元は同じ肉だけれど、違いを出せる……」


「そう! 安いお肉で平民をお腹いっぱいにして、ちょっと付加価値のあるお肉で貴族からむしり取る。どう?」


 私が言うと、ヴィオラはにっこりと笑った。

 上品な笑顔だが、目がギラギラと輝いている。


「いいでしょう、話に乗ります。この商機を逃してなるものですか。詳しく内容を詰めさせてください」


 私もニヤリと笑顔で応えた。


「よしきた。そうこなくちゃ!」


 私とヴィオラは再びハイタッチをした。

 パシン、という音が岩山に響く。


 なおシルヴァは少し離れたところでコタローを抱っこして、


「なんだあれ。あいつら怖すぎだろ……」


 と呟いていた。







「さて。基本方針は固まったけれど、具体的にどう売っていくかよね」


 私はドラゴンのお肉を詰め込んだ洞窟を見た。


「この岩山までは、シルヴァの小屋から片道徒歩二日。シルヴァの小屋から最寄りの村までは、片道三日だっけ?」


 ヴィオラが頷いた。


「ええ、そうです。最寄り村は小さな田舎村で、人口は数十人程度。そこからさらに二日ほど街道を進むと、少し大きな町に出ます」


「なるほど……」


 この森と岩山がかなりの辺境だとよく分かる。

 シルヴァはよくもまあ、こんな人里離れた所に住んでいるものだ。

 それだけ魔族の技術が表に出せないせいかもしれないが。


 さて、岩山を基準にすれば、小さい村に出るだけで五日もかかってしまう。

 冬の寒い時期ならまだしも、夏になれば冷凍を解除した状態では村に着くまでに溶けてしまいそうだ。


「本音を言えば、もっと便利な場所にお肉を移して、そこを拠点にしたいけれど」


 私は考えながら言った。


「下手にお肉の在り処がバレると、厄介だよね。争いが起きたり、悪人に奪われたりしそう」


「そうですね。肉はもちろん、劣化したとはいえドラゴンのウロコや牙の素材もありますから。宝の山ですよ。当然、狙われるでしょう」


「加工と出荷の拠点を分けるしかないか」


 私の考えは、こうだ。


 まずはこの岩山を、お肉加工の拠点にする。

 料理して、何ならフリーズドライとかの冷凍弁当にして、商品として出荷できる状態に加工する。


 次に出来上がった商品を、もっと便利な場所に移す。

 せめてシルヴァの小屋付近か、できればもっと村や町に近い場所だ。

 まとまった量をそこに保管して、近隣の村へヴィオラが売りに行く。


 ヴィオラが言った。


「私の役目は売りさばくこと。プリムローズは肉の加工。問題は、この岩山から出荷の拠点まで、どうやって商品を運ぶかです」


「そうよね。森の中の道は細くて、馬車は通れないし。ロバだけではそこまで多くの荷物を運べない」


「さっきの『剛』の霊珠を使って、手作業で運び込むのはどうだ?」


 シルヴァが口を挟んだ。


「でかい背負子しょいこやカバンを作れば、それなりの量が運べるだろ」


「うん、それも悪くない。ロバを何頭か増やして、私やシルヴァも荷物を持つのはいいと思う」


「は? 僕もか? ごめんだが?」


 言い出しておいて何言ってんだこいつ。

 シルヴァは偉そうに腕を組んだ。


「僕の第一目標はあくまで魔族の技術の研究だ。今回はお前たちがどうしてもと言うから付き合っている。今だって帰りたくてたまらないんだが?」


 まあ、シルヴァは何だかんだ言ってお人好しなので、今後も頼み込めばやってくれそうではあるが。


「ううん、待てよ? 背負子?」


 私はふと空を見上げる。一つ思いついた。


「ねえシルヴァ、あの魔族の杖は、絶対に杖の形じゃないと駄目なの?」


「いや。杖の形が効率的なのは確かだが、お前の霊珠と例の金属板のおかげで、柔軟性が生まれている。形状は杖でなくても作れそうだ。それが何か?」


「それなら、背負子のように背中につける形はどうかな?」


「背中に? まあ、不可能ではなさそうだが」


 私はぐっと手を握った。


「それなら霊珠で空を飛んで、大量輸送ができそうよ!」


「はぁ?」


 シルヴァとヴィオラの驚きの声が重なった。





 森は道が細くて、起伏もある。お世辞にも歩きやすいとは言えない。

 また岩山のこの場所も、下から少々登った場所にあった。

 人一人が登り降りするだけならまだしも、荷物を持って行き来するには不便なものだ。


「だから思ったの。飛んでしまえばいいって」


『飛』の漢字があれば、飛行自体は実現すると思う。

 けれどこれは動詞なので、持続時間が短い。

 加えて空を飛ぶとなれば、できるだけ安定性もほしい。

 それに手に霊珠を握った状態では、荷物を持つのがやりにくい。


「そこでシルヴァの杖……杖じゃないから魔道具って言おうか。魔族の技術の出番よ。いくつかの漢字を組み合わせるような回路を作って、背負子の形にすればどうかな?」


「相変わらず無茶な発想をする」


 シルヴァは呆れた顔をしながらも、興味を引かれたようだった。


「飛ぶための漢字の当てはあるのか?」


「あるある。まずそのものズバリの『飛』。熟語にするなら『飛翔』や『飛行』かな。『翼』なんかを組み合わせると安定するかもしれない」


 何かしらの形容詞を組み合わせれば、持続時間もアップするだろう。

『速』『滑』『悠』『軽』とか、『飛』と相性の良さそうな漢字はいくつか思いつけた。


「飛行が上手くいけば、短時間で大量に荷物を運べるはず。森の細い道も岩山登りも関係ないもの」


「素晴らしい。まずは確かめなければいけませんが、霊珠の力があれば不可能ではないのでしょうね」


 と、ヴィオラ。


「では私は、出荷拠点を考えておきます。村や町から近すぎず遠すぎず、万が一その場所がバレて襲われるようなことがあっても、切り捨てられる場所がいいでしょう。なので、シルヴァの小屋からは距離を取った方がいい」


「確かに。危険があったら大変だものね」


 ヴィオラは行商人として、この地域を何年も巡ってきた。

 地理には詳しいだろう。任せることにした。


「飛んでいく時はなるべく低空飛行にするけれど、誰かに見られる可能性はある。当面は秘密重視で、慎重にやりたいね」


「ええ。商売の手応えを見て、信頼できるパートナーができるようであれば、少しずつ手を広げていきましょう」


 だんだん商売の目星がついてきた。


 それぞれの得意分野を活かして、力を合わせて目標に挑む。


(何だか楽しくなってきちゃった)


 根本の思いは、貧しさのせいで飢える人を減らしたいためだけど。

 それでも彼らと協力しながら、漢字の可能性を追求するのはとても楽しい。


「冷凍状態で出す料理も、いくつかアイディアがあるの。平民向けなら簡単でガッツリ系がいいよね?」


「はい。反対に貴族はオシャレで見栄の張ったものが喜ばれます」


 ここでシルヴァが口を出してきた。


「よし、試食用を作れ。お前の料理なら美味いに決まっているからな」


「でも今はさすがにお腹いっぱいでしょ」


「別に今とは言ってないだろ。とりあえず今日の晩飯で、だ」


「ミャオ!」


 私とシルヴァが言い合いをしていると、コタローがコロンと転がって楽しげに鳴いた。


 作りたい料理がいくつも浮かぶ。

 試したい漢字もたくさんある。


 さあ、何から始めようかな。


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