表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/44

35:訪問者

 小屋に戻った後のシルヴァは、脇目も振らずに研究に没頭し始めた。

 何枚もの木板に大量の書付けをして、足りなくなって表面を削ってはまた書く。

 書いて書いて書いて、紙は貴重品だから清書にだけ使う。そんな繰り返しだ。


 私は霊珠を貯めながら、ドラゴンのお肉の元に戻れる日を夢想している。

 さすがに今の状態のシルヴァには、遠出をしようと呼びかけられない。

 仕方ないので身の回りの世話をしてやる。掃除をして食事を作って、だ。


「この箱はシルヴァが使う?」


「いや、今まで通りプリムローズが使えばいい」


「ご両親のものなのに?」


「より重要なのはこの金属の板だ。箱は入れ物にすぎん」


 ということで、霊珠入れとしてありがたく使わせてもらっている。


「ミャー!」


 そうそう、コタローの世話もあった。

 コタローは好奇心旺盛元気いっぱいを絵に描いたような子で、毎日賑やかに過ごしている。

 小屋の中だけでは運動不足になってしまうから、外に連れ出して走らせてやる。


「ミャッ!」


 広い森の中を駆け回って、大きくジャンプ。木の幹に取り付いてするすると登っていく。


「ミャー、ミャン!」


 得意げな顔をしているが、私はこの後の展開を知っている。


「はにゃ? ミャ……」


 案の定、コタローは木から降りられなくなって困り始めた。

 この子は木登りは上手なのだが、降りるのが下手すぎる。

 他のことでは物覚えが良くて賢いのに、毎回失敗してしまうのだ。


 まあ、良く考えてみれば降りるのが難易度が高いのは分かる。

 ハシゴを想像してみてほしい。

 登るのは人間も虎も同じように手をかけて登る。

 しかし降りる時は人間は後ろ向きに足を下ろしていくが、虎はそうはいかない。

 頭を下にして降りようとすると、バランスが悪くなってしまう。


「はいはい、今行きますからね。よっぽど木登りが楽しいのねえ」


 大きな樫の木の上で、コタローはミャアミャア鳴いている。

 私は靴を脱ぐと、よいしょっと木登りを始めた。

 前世で息子と木登り競争をしたので、割と得意だ。

 幹の次は手頃な枝に足をかけ、コタローのいる場所までたどり着いた。


「ミャッ!」


 コタローが飛びついてくる。

 まだ赤ちゃんとはいえ、元が大きな魔獣だ。大きさは柴犬くらいで、体重も十キロくらいはあるのではと思う。

 霊珠でブーストしなければ、十歳の少女の体にはなかなか重い。


「こら、危ないから。大人しくして」


 せっかくなので太い枝に腰掛けて、森の様子を眺めた。

 そろそろ冬になり始めた森は、薄っすらと雪が積もる日も増えた。

 冬になれば獲物が減る。干し肉の在庫はまだあるが、隙を見て確保しておきたい。

 コタローにも狩りを教えてやりたい。

 大人になるまでは責任を持って育てるが、その後のことは決めていない。

 もしも野生に帰るのがこの子のためであるならば、そうしたいと思っている。そのためには今から準備しておかないと。


「うーん、足が寒い」


「ミャ」


 靴を脱いだ裸足は、冬の冷気に晒されて赤くなっている。

 そろそろ戻ろうかと思った時、見慣れないものが視界に入ってきた。


 小さな荷馬車だった。

 町の方角の道から、ゴトゴトとのんびりやって来る。

 道は細いので、小さいとはいえ荷馬車が通るといっぱいになってしまっている。


 私はコタローを肩に乗せて、地面まで戻った。

 地面まで最後の距離を飛び降りて靴を履く。


 一応、警戒して木の陰に隠れた。

 あまり危険そうには見えないが、万が一のことがあっては困る。盗賊とか山賊とか。


 荷馬車はゆっくりした速度で進んでくると、シルヴァの小屋の前に止まった。

 御者台に乗っているのは、フード付きマントを目深に被った人だ。

 その人は馬車から降りると、シルヴァの小屋の扉をノックした。


「こんにちは、お父さん。お久しぶりです」


「お、お、お、お父さん!?!?」


 隠れていたのをすっかり忘れ、私は大声を上げた。





「あら? どなたかしら。あなたもお父さんの子供?」


 馬車の人がフードを落とす。

 現れたのは、二十代前半と思しき若い女性だった。

 すらりと背の高い人で、柔らかそうな茶色の髪をしている。瞳はいたずらっぽいハシバミ色だ。


「いや、あの、えっとぉ」


 何と言っていいか分からない。

 モダモダとしていると、小屋の扉が開いた。


「何の騒ぎだ、うるさいぞ。今、いいところだから邪魔するな」


 顔を出したのは、寝不足でくまを作ったシルヴァである。眉間にシワを寄せてとても不機嫌そうな顔をしている。


「相変わらずですね、お父さん」


 フードの女性はくすくすと笑っている。

 身なりこそ質素だが清潔感がある。口調も立ち振舞いも丁寧なものが感じられた。


 私は思った。


(待てよ、シルヴァは見た目は十四歳だけど、実年齢は六十二歳。それを考えれば、娘の一人や二人や三人いてもおかしくないかもしれない。むしろ孫がいる年頃!)


 何ということだ。

 ついつい見た目通りの子供扱いをしていたが、彼も立派な人の親だったというわけだ。

 となると、母親は誰なんだろう。

 やっぱりシルヴァにもロマンスがあったのだろうか?

 人嫌いで気難しい性格だと思っていたけれど、恋のストーリーがあったのか!

 お相手は一体どんな人なの!?


 唖然としながらシルヴァを見ると、ますます不機嫌な顔になっている。


「おい、ふざけているのか。その呼び方はやめろと言っただろう、ヴィオラ」


「あら、そうでしたっけ。貴方が育ての親なのは事実ですから、つい」


 お? 育ての親と言った?

 実の子ではない……? ロマンス、ない?

 微妙にがっかりしてしまった。


「プリムローズ。何だその残念そうな顔は」


「いや、別に。シルヴァにも恋人がいたのかと思ったのに、肩透かしで」


「はあ?」


 うわ、めちゃくちゃ睨んでくる。


「ふふっ。シルヴァは変わりませんね。その子もずいぶんしっかりしているようで」


 ヴィオラと呼ばれた女性が微笑んだ。

 私に向かってふわりとお辞儀をする。何気ないようでいて、洗練された動きだった。


「初めまして、プリムローズさん。私はヴィオラ、行商人です。小さい頃に森に捨てられたのを、シルヴァが拾って育ててくれたのですよ。だからつい小さい時の癖で、お父さんと呼んでしまうの」


「絶対わざとだろ。僕が嫌がるのを知っていて、わざとやっている。そういう奴なんだよ、こいつは」


 シルヴァは悪態をつくが、その態度に遠慮や壁は感じられない。

 本当に育て親と子なのだろう。仲が良いのが伝わってくる。


「あれ、もしかして」


 ふと思い出して言った。


「知り合いの商人って、この人のこと? 私を預ける予定の」


「ああ、まあな」


 彼は肩をすくめる。


「あら、そうでしたか。シルヴァの頼みであれば、私は構いませんが……」


 ヴィオラが首を傾げたので、私は焦った。

 シルヴァの方を見るが、彼はスンッとした顔をしている。


 そりゃまあ、シルヴァが私を他の人に預けようとしたのは、子供がいつまでも人里離れた森で暮らしているのは良くないと思ったからだろう。

 出会った当初は厄介払いしたいという気持ちもあったかもしれない。


 でも今は?


 え? まさか本当に預けるつもり?



第3章スタートです。

目標だった10万字に達したため、今後の更新は1日おきにします。


やる気をなくさないようブクマや評価で気合を入れてやってください。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ