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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第2章

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27:お別れ

 少し休んで食事をお腹に入れたので、体力(と魔力)はわずかだが回復していた。

 子虎を思えば、できるだけ早く試したい。

 私は親虎の死体のそばに立ったまま、胸の前で両手を重ねた。


(霊珠よ)


 手の中に熱と固い感触が生まれる。まずは一個。

 でも、まだ足りない。

 体の中から力を絞り出すように、もう一つ作り出した。


「……っ」


 無理をしたせいで、ぐらりとめまいが襲ってきた。この感覚も久しぶりだ。


「大丈夫か、プリムローズ」


「うん、平気」


 倒れかけて、シルヴァが支えてくれる。

 彼は私の手にある小さな珠に目を留めた。


「それが霊珠か。改めて見ると、神殿にあるのにそっくりだな」


「ウェスタ神殿に行ったことあるの?」


「ああ。母の伝手で魔力属性鑑定に行った。結果は属性どころではなかったが」


 シルヴァは皮肉に笑って肩をすくめる。


「それよりも何をするつもりだ?」


「うん、試したいことがあって。見ていて」


 彼に一歩下がってもらって、私は親虎の前に立った。

 岩の地面に膝をつき、両手を白い虎の毛皮の上に添える。


「ミャア?」


「大丈夫、危ないことは何もしないよ。助けたいだけ」


 子虎が心配そうに鳴いたので、私は微笑んでみせた。


 先ほどのドラゴンとの戦いで気づいたことがある。

 シルヴァの杖で魔力がよく流れる状態では、複数の漢字に繋がりが生まれていた。

 ただ手のひらで握り合わせるよりもずっと強く、漢字同士が共鳴していた。


 それを見てふと思ったのだ。

 漢字は一文字だけではなく、熟語として使ったらどうだろう? と。

 熟語は似た文字の組み合わせも多い。そうなればより意味を強化して、より強力な効果を発揮できるのでは?


(……『蘇生』)


 片手に一つずつ握った霊珠に、文字が刻まれたのが分かった。

 蘇る。生きる。どちらも命に関わる漢字だ。


「お願い、戻ってきて!」


 残りの魔力をありったけ注ぐ。カッと二つの霊珠が光った。

 それは春の木漏れ日のような優しい光となって、もう動かない親虎に降り注いでいく。

 光が注がれ、舞い落ちて――やがて止まった。


 親虎がぴくりと動いた。

 虚ろに開かれていた瞳に光が戻る。


「な、馬鹿な……!?」


 背後でシルヴァの声がする。


「ミャウッ!」


 子虎が思わずという様子で飛び出してきて、親虎の顔を舐めた。

 親虎は目を細めると、大きな舌で我が子の頭を舐めてやった。


 でも……そこまでだった。

 親虎は身を起こすことはなく、視線だけを私に向ける。

 そこには確かに、感謝の念が浮かんでいた。


『ありがとう。……この子を頼みます』


 そんな声が聞こえた気がした。

 親虎は目を閉じる。


「ミャーッ!」


 子虎が必死に鳴くけれど、もう答えはない。


 そうして今度こそ、二度と動くことはなかった。





「そんな。どうして……」


 蘇生は確かに成功したのに。目を開けたのに!

 一度は上手くいったのに、結局駄目だった。その結果が信じられず、思考がぐるぐると回る。


「怪我をしたまま蘇生したのが良くなかった? 治療してからにするべきだった? それなら、先に『癒』の霊珠を作って……!」


「プリムローズ。もうやめるんだ」


 取り乱す私の肩をシルヴァが掴む。


「いくらお前の魔法が規格外でも、死者を蘇らせるのはやりすぎだろう。一時的に命が戻っただけでも、奇跡なのだから」


「でも、あの子がいるのよ! 子供を残して死ぬなんて、親はどれほど無念か……!」


 前世の私が死んだ時の光景が目に浮かんだ。

 もっと生きたかった。生きてあの子たちが大人になるまで見届けたかった。守ってやりたかった!


「魔獣の世界は過酷だ。あのスノータイガーは死ぬべくして死んだ。お前の助けを借りたとはいえ、ドラゴンから子を守った。十分だろう」


「でも!!」


 子虎を見る。小さな虎は親の顔を舐め続けている。まるで必死に呼び戻そうとするように。


「私がもっと早く、ドラゴンから助けていれば。もっと上手に蘇生を行えば!」


「お前は十分にやった。これ以上は不可能だ。だから落ち着け」


「…………」


 落ち着いてなんかいられない。

 けれど先ほどの親虎の眼差しが心に浮かぶ。

 あの魔獣は短い蘇生の時間の中で、わざわざ私を見た。

 感謝の念が見えたのは、錯覚ではないと思う。

 蘇生を行ったためか、一時的にあの虎と何らかの繋がりができたような感覚があった。


『ありがとう』


 と、魔獣は言った。


『この子を頼みます』


 と。

 もしかしたら親虎は、それを私に伝えるために戻ってきてくれたのかもしれない。


「……シルヴァ」


「うん?」


「この子、野生の世界で一人で生きていけると思う?」


 親に寄り添い続けている子を見て、シルヴァは首を振った。


「無理だろうな。小さすぎる。自力で狩りができるとは思えない。飢えて死ぬか、他の魔物に襲われるか……どちらかだ」


 その言葉を聞いて、私の心は決まった。


「じゃあ私が引き取って育てる」


 シルヴァは目を剥いた。


「は……? スノータイガーだぞ!? でかくなるし、凶暴な魔獣だ。持て余すに決まっている!」


「いいよ、持て余しても。手のかかる子を育てるのは、初めてじゃないから」


「はぁぁ!? 何を言っているんだ、お前は!」


 わあわあ言っている彼は無視して、私は親虎と子虎の横に膝をついた。


「この子のこと、頼まれました。大きくなるまできちんと面倒を見るから、安心して」


「ミャ……?」


 子虎が不安そうに見上げてくる。

 その頭を撫でてから、親虎の頭も撫でた。


 心なしか、親虎の表情が和らいでいるような気がした。


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