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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第2章

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22/24

22:遠足出発

 遠出に出発する朝がやって来た。


 簡単な旅支度を整えたシルヴァと私は、玄関の前に立っていた。


 私は腰から下げる霊珠の袋を三つに増やして、合計九個を持っている。

 シルヴァは例の杖のような木の棒を手に持った。


「片道二日、現地で採集一日。合計五日程度の行程だ」


 彼が言って、私は頷く。

 森を一ヶ月も旅してきた身としては、ちょっとした遠足気分だった。

 何より一人ではなく、道案内のパートナーがいるのがとても頼もしい。


 それぞれ背負った荷物には、干し肉と残り少ないパンが入っている。

 まだ森の木の実は多少はあるし、食べられる草もある。道中で見かけたら確保しながら進むことにする。


「忘れ物はないな? 行くぞ」


「おー!」


 そうして私たちは出発した。

 西の岩山は木々の梢の向こうに見えているが、なかなか近づいてこない。

 私たちは時々お喋りをしながら、せっせと歩いた。


「お、食用キノコがあるな」


 シルヴァが言って手を伸ばしたのは、赤い地に白い水玉模様の傘のキノコだった。


「え、えー。いかにも毒がありそうだけど、大丈夫?」


「大丈夫だ。ただし、よく似たもので毒ありもある。……見ろ、傘のここが反っているだろ。こういう形のやつは食える。ここがまっすすぐなのは毒だ。見分けるのに自信がなければ、手を出さないことだな」


「うーん。もう少し勉強します」


 毒キノコは恐ろしい。前世でも死亡ニュースが毎年必ず流れていた。


「あっ。緑の実がある」


 私はその木に駆け寄った。

 なっている実はいつも食べている例のあれに似ているが、木が蔓草ではない。普通の低木だった。


「これ、食べられる?」


「そいつはマタタビだな」


 一歩遅れて来たシルヴァが言ったので、私は目をぱちぱちとさせた。


「マタタビ? 猫が酔っ払うやつ?」


「そうだ。そのままだと辛味が強くて食えないが、塩漬けにするとうまい。果実酒もいいな。場所を覚えておいて、帰りがけに採ろう」


「へぇ~、いいね!」


 シルヴァはさすがに詳しい。


「ねえシルヴァ、こういう知識は誰かに教わったの?」


「…………」


 すると彼は少し黙った後に続けた。


「母さんが教えてくれた。母さんは薬師だったから」


 しまった。また不用意に踏み込んでしまっただろうか。

 私がしゅんとしたのに気づいたのだろう、彼はポンポンと私の頭を叩いた。


「気にするな。両親のことはもう諦めがついている。四十年も連絡一つない以上は、そういうことだろう」


 事故か、事件か。

 詳しい背景が分からないから何とも言えないけど、無事ではないのだろう。


「それにしても、人間である母さんの方がエルフの父さんより草花に詳しいなんて、今思い出しても笑えるな」


 いかにも可笑しそうに、彼はそんなことを言い出した。

 私に気を遣っているのかもしれない。


「お父さんはどうして詳しくなかったの?」


 話題に乗るつもりで聞いてみる。


「母さんいわく『ズボラだから』。父さん自身は『俺は草より肉が好きなんだ』と言っていたが」


 なんと、肉好きエルフだった。

 エルフと言うと菜食主義みたいなイメージがあったが、あれも作品によるのかな。


「じゃあシルヴァのお肉好きも、お父さんに似たのね」


 正直言えばズボラなところも似ているが、それは黙っておく。


「そうかもな。プリムローズのおかげで、最近は腹いっぱい肉が食える。そこは感謝している」


「えー? 他のところも感謝してほしいな。お料理もお掃除もばっちりでしょ?」


「あーはいはい。感謝してる、してる」


「誠意がこもってない!」


 言い合いをしながら、笑い合いながら、私たちは歩いていった。





 こうして一日目の行程は問題なく過ぎていった。


 夕暮れ時になると、野宿の準備をする。

 シルヴァは地形をちゃんと知っていて、野宿に適した大木の根本まで案内してくれた。

 すぐ近くに川もあったので、そこから水を汲んできて簡単なスープを作る。

 秋の冷える時期、温かい食事をお腹に入れておくとずいぶん違う。


(『暖』の霊珠を使った方がいいのかな)


 私はこの期に及んでまだ悩んでいた。

 霊珠の話は言い出す機会がなく、今でも秘密のままだった。


「プリムローズ。こっちで寝ろ」


 シルヴァが自分の隣の地面を叩く。

 そこはちょうど張り出した木の根と彼に挟まれて、一番暖かい場所だった。


「私が外側でいいよ」


「生意気言うな。大人しく言うことを聞いていろ」


 ジロリと睨まれてしまったので、私は従っておくことにした。

 森での立ち振舞いは、彼の方が慣れているのも本当だ。


 荷物からそれぞれの毛布を取り出して、くるまる。

 シルヴァと身を寄せ合うようにして座った。


「今日は疲れたか?」


「ううん、平気」


「それなら、いい。明日も早いからな。さっさと寝てしまえ」


「そうするね。……おやすみ」


「ああ」


 毛布越しに彼の体温が伝わってくる。

 そっと上目遣いで見てみれば、すぐ間近に彼の顔がある。

 小屋では距離を取って寝ているので、一瞬だけドキリとした。


 エルフの血を引くだけあって、とても美しい顔立ちだった。

 髪と同じ色の金のまつ毛は長くて、翠緑色の瞳に濃い影を落としている。

 鼻筋はまっすぐで高い。気難しそうな薄い唇でさえ、彼の美しさを損ねていなかった。


 でも、それよりも。

 シルヴァの頬は少年らしい丸みが少し残っている。

 大人になりきる前の、柔らかな子供の面影が。

 年齢は私よりも――前世の年を足したとしても――上なのに、こうしていると年相応の少年にしか見えなかった。


(前世の息子の寝顔も、こんな感じだった)


 思い出すと胸が苦しくなる。

 娘にも息子にも、私は親としての責任を果たしてやれなかった。

 そして目の前の彼は、親を亡くして長く孤独に暮らしている。


(分かってる。この子は私の息子じゃない。代わりになるようなものではない)


 息子と彼では性格も見た目も違う。

 取り違えるのは、双方にとって失礼なことだ。


 それに現状、助けられているのは私の方だ。

 住む場所を与えられ、物資を分け与えてもらっている。

 足手まといになっているつもりはないが、親が子を庇護するのとは逆の立場になる。


 ――それでも。

 どうしても彼を放っておく気になれなくて。


 私はそっと、彼の肩に頭を預けた。


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