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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第2章

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20:秘密を抱えながら

「……仕方ない。近場で子供が凍死体になるのも気分が悪い。しばらくの間、この家に滞在するのを許可する」


「え! それじゃあ!」


 私がぱっと顔を輝かせると、彼は眉間にシワを寄せて手のひらを前に突き出した。


「勘違いするな! あくまでしばらくだ。何年も、ではない!」


「えーでも、私が町に出たら危ないのは変わらないし?」


「僕は人付き合いがあまりないが、それでもゼロではない。行商人に知り合いがいる。そいつはそのうちここに来るから、その時にお前を引き渡す」


「えっ、ひどい! 厄介払いする気!?」


 私が詰め寄ると、シルヴァはぎょっとしたように後ろに下がった。


「当たり前だろ! 厄介者以外の何様のつもりだ、お前は!」


「お役立ちお手伝い様でしょ! 食料調達オッケー、家事オールオッケー、お給料無しでオッケー。こんなに良い物件、他にないよ?」


「自分で言うな、自分で! そういうところだぞっ」


 私たちはそれからもワーワーと言い合って、やがてどちらともなく「ぷっ」と吹き出した。


「あはは、もう何だかどうでも良くなってきちゃった。とりあえず、しばらくは住まわせてくれるんだよね?」


「ふふっ、まあ、仕方ない。いくら僕でもガキを寒空に放り出すほど薄情ではないからな」


 シルヴァも言って、そこで笑顔を無理やり引っ込める。


「ただし、本当に詮索は無用だ。紙や板に書いてある内容は、外に持ち出せばろくな結果にならない。絶対に口外しないと約束できるか?」


「うん、約束する。冬の寒さから助けてくれた、命の恩人だもの。約束は守るよ」


「それならいい」


 そこでようやく、彼はもう一度表情を和らげた。

 六十年以上も生きてきた人とはとても思えない、見た目相応の無邪気な笑みだった。


「これからよろしくね、シルヴァ」


「こちらこそ。肉を頼りにしているぞ、プリムローズ」


 あ、やっぱりそこなんだ。


「それはもう、任せておいて!」


 要は食料調達係。家族を食べさせる重要な役目だ。

 前世でもしっかりとその役目を果たしていたもの。今度もやり遂げてみせよう。


 私は二カッと笑って、親指を立てた。





 そうして話がまとまった後、ふと思い出したようにシルヴァが言った。


「そういえば、お前は何属性の魔法使いなんだ? 狩りが得意というからには、攻撃魔法系統だろうが」


「あ、えっと」


 別に隠すつもりは、もうなかった。

 ただ言い出すタイミングを迷っていただけで。

 だからここで言ってもいいはずだったのに。


 ふと、私を森の奥に追いやった時のクソ父の顔が浮かんだ。追従していた継母と義妹の態度も。

 たとえ火属性になっていたとしても、彼らの態度はそう変わらなかったと思う。せいぜい、政略結婚の待遇が少しマシになる程度か。


 シルヴァが彼らと同じだとは思わない。

 この子はちょっとひねくれ者だが、根は優しい。

 文句を言いながら、見ず知らずの私を受け入れてくれた。


 でも思うのだ。

 私の霊珠と漢字の能力は、この世界でどれほどの異端なのだろう、と。

 霊珠の力は絶大。まだ使いこなせていないが、可能性の塊と言っていい。

 反対にシルヴァは、ハーフエルフという出自のせいで魔法が使えないと悩んでいる様子だった。

 そんな彼に霊珠の力を見せつけて、傷つけることにならないだろうか。


「……私の力は、ちょっと特殊で」


 色々考えた結果、私は慎重に言った。

 嘘はつきたくないし、隠し事もしたくない。

 けれど今、やっと信頼を結び始めた時期に不用意に投げ込む情報ではない気がする。


「そのせいで家族は私を捨てたの。だからまだ、あまり言いたくない。そのうち折を見て話すから、待ってくれないかな」


「……そうか」


 シルヴァはそれだけ言うと、黙った。

 重たい沈黙になってしまったので、私は慌てて手を振ってみせた。


「大したことじゃないんだ。私もちょっと、どう捉えていいか分からなくて。でも使える力だから、そこは大丈夫」


「ふん、そうか。まあ僕としては肉を獲ってくてくれればそれでいいからな」


 これは彼なりの気遣いの言葉だろう。ありがたく受け取っておくことにした。


 こうして異世界転生者とハーフエルフという、あぶれ者同士の同居生活が始まったのだった。





 シルヴァの小屋に住めることになった私だが、そうなると一つだけ問題が出る。


 霊珠の保管場所だ。


 机に向かっているシルヴァの背中を眺めながら、考える。


 霊珠は今、一日三個のペースで作成できる。

 以前は『暖』を一日一個、最近は二個使っていたが、小屋は岩屋よりよほど暖かい。霊珠は不要だ。

 けれどこの不思議な玉を、あまりシルヴァに見せたくない。

 この玉はウェスタ神殿の大きな霊珠に質感が良く似ている。

 彼もそうと気づくかもしれない。それは避けたい。


「手持ちは二、三個は持っておきたい。それ以上はどうしようかな」


 一人きりだった頃のクセで独り言を言うと、シルヴァが振り向いた。


「プリムローズ。独り言、多すぎだろ」


「うっ。一人でいた時は、むしろ声の出し方を忘れないように独り言言っててさ。今度から気をつける」


「そうしてくれ」


 シルヴァはまた机に向かって、書き物を始めた。例の設計図だ。

 私に積極的に見せるつもりはないが、隠すのもやめたようだ。まあ、この狭い小屋の中では隠しきれないし。


(私の霊珠は、やっぱり岩の洞窟の箱に入れておこう)


 肉を狩ったり木の実を集めたり、一人で行動する機会はこれからも多い。

 こっそり作成をしておいて、手元に置く以外は箱にしまっておけばいい。

 手持ちの分は蔓草を編んだ巾着に入れるとかで、何とかしよう。


(今朝のノルマも、さっそくやっておこう)


 ぎゅっと手を握って意識を集中させると、少しの脱力感と引き換えに霊珠の感触が生まれた。

 最近は作成も文字を刻むのもすっかり慣れて、消耗は少なく素早く行えるようになっている。

 いつぞやのイノシシのように突発的に戦闘になったら、判断の早さと文字刻みのスピードが戦況を分ける。

 そう言った意味でも、訓練を重ねてきた。


「シルヴァ。私、岩屋に残してきたお肉を回収してくるね。あと、木の実があったら集めてくる」


「うん、頼む」


 たった一晩かつ少量とは言え、干している途中のお肉を放置してきてしまった。

 動物や魔物に食い荒らされていないか、ちょっと心配である。


「これを使え」


 シルヴァは棚からバスケットを取り出して、渡してくれた。

 しっかりとした籐で編んだカゴだった。持ち手もついていて、肘のあたりでぶら下げるのにちょうどいい。

 私は早速持ち手に腕を通した。


「わあ、助かる。便利」


「今まで物の持ち運びはどうしていたんだ?」


「スカートをたくし上げたり、拾い物のマグカップに入れてたりした。不便だった」


「そりゃそうだろうな……」


 シルヴァが微妙な顔をしている。


 文明の利器は偉大だ。

 私はウキウキとバスケットを抱えると、かつての岩の家へと足を向けた。


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