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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第2章

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15:ファーストコンタクト

 私は姿勢を低くしつつ、そうっと小屋に近づいた。

 あの小屋に住んでいる人がどんな人物なのか分からない以上、用心はした方がいい。

 まあ、こんな人里離れた森の中に住んでいる以上、ロリコン変態ジジイの可能性は低そうだが……。


 小屋の近くの畑を通り過ぎる。

 草花の他にニンジンや大根、カボチャなどの野菜類も植えられていた。

 ちょうど収穫時期に差し掛かっているようで、大根は白い根本を土から覗かせている。

 カボチャも小ぶりながらしっかりした出来で、土の上に鎮座していた。


(野菜だ! あぁぁ、食べたいなぁ)


 何せここしばらくの食生活は、森の木の実とお肉ばかりだった。

 そろそろ野菜や穀物が食べたいではないか。

 ほっこり甘いカボチャに、煮込んでトロトロになった大根。はあ、想像するだけでヨダレ出そう。


 しかし今はちょっとだけ我慢だ。

 先にあの小屋を確認しなければ。


 小屋に近づくと、窓が薄く開けられていた。

 窓には窓ガラスが嵌っていない。雨戸のような木製の戸が外向きに開けられていて、支え棒で支えられている。

 この世界ではガラスはまだ高価で、庶民の家には普及していないのだ。

 ましてやこんな森の中ではそうだろう。


 少し開けられた窓の向こうからは、暖気と薬っぽい匂いが漂っている。

 何やら怪しい雰囲気だ。魔女でも住んでいるとか……?

 この世界は魔法があるから、魔女も実在する。

 まあでも、魔法は割と普通なので魔女も別に伝説上の怖い魔物ではなくて、普通の人が多い。


 私はこっそりと窓から小屋の中を覗き込んだ。

 部屋の中は雑然とした様子で、机やベッドの上に紙や木板が散らばっているのが見えた。

 それらには何やら複雑な設計図(?)のようなものが描かれている。


(何だろう。魔法の研究者とか? でもこの世界の魔法は、あんな設計図は書かない気がする)


 私はこの世界においては十歳の子供なので、魔法やその他の技術の詳しいことは知らない。

 魔法を学ぶのも本来は魔力鑑定の儀式の後になる。

 実家で冷遇されていたこともあり、学ぶ機会はなかった。


 少ない知識で知っているのは、この世界の魔法は詠唱と神への祈りをミックスしたようなものであること。

 技術的と言うよりは、宗教的な側面が濃いような印象がある。


 さらに視線を動かしていくと、机の前に誰かが座っているのが見えた。

 この位置からは横顔が見えるだけだが……彼はまだ年若い少年だった。

 年ごろはせいぜい十四歳くらいだろう。前世の息子と同じくらいの年齢だ。


 さらさらとしたきれいな金の髪を、肩口くらいまで伸ばしている。

 整った顔立ちで、鼻筋はまっすぐに通っている。少し薄い唇は固く引き結ばれていた。

 髪の隙間から瞳の色がちらりと見えた。深い森を思わせる緑色だった。


 服装は膝下まであるローブ。

 前世の感覚では魔法使いのようにも見えるが、この世界において魔力持ちイコール、魔法使いとは貴族になる。

 少年の身なりは質素で、貴族には見えない。


 と。


「……誰だ!?」


(あ、しまった)


 じっと見ていたら、視線を感じたのだろう。

 少年が振り返って、ばっちり目が合ってしまった。


 逃げるべきか迷っていると、少年は小屋の外に飛び出してきた。

 手には野球バットくらいの木の棒を握っている。明らかに警戒されている。


「子供……?」


 彼は訝しそうに私を見た。

 こういう時、子供の外見は便利である。十歳の子供相手だと割と警戒を解いてもらえる。

 少年もやや緊張を緩めつつ、それでも警戒の眼差しで私を睨みつけた。


「子供がこんなところで何をやっている。迷子か?」


「ええ、まあ、そうです」


 迷子といえば迷子である。何せ森に捨てられて以来、迷い続けている。

 今も町に出られずに困っているのだから。


 少年はまだ完全に警戒を解かずに、あごで脇の道を示してみせた。


「ふん、そうか。町はその道を三日ばかり下っていけば出られる。ここに残って魔物に襲われても僕は知らんぞ、さっさと帰れ」


 三日はけっこう遠い。

 そして少年は案内してくれるつもりはないようだ。冷たくない?


「待ってください!」


 私は思わず言った。


「あの、私、お腹が空いていて。そこのお野菜を分けてくれませんか」


「駄目だ。もう秋も終わりが近い。作物は貴重だから、分けてやる義理はない」


 はぁぁ!?

 こんな可憐な美少女が頼んでいるのに、大根一本分けてくれないわけ?


「あ、あのっ! じゃあ一晩だけでも泊めてもらえませんか? 野宿は危ないから……」


 先ほど覗き見したベッドが脳裏に浮かぶ。

 ベッドで寝るなどという贅沢は、森に入ってから無縁だった。

 ふかふかのベッド。ぜひ寝たい。


 しかし少年は冷たい口調で答えた。


「知らん。見知らぬ人間を家に入れるわけないだろうが。とにかく、町はそっちの道だ。帰れ、帰れ」


 しっかりしていると言うべきか、薄情と言うべきか。

 少年はジロリと私を睨むと、さっさと小屋に戻ろうとした。


 その時、彼の金色の髪がひるがえって、横顔があらわになった。


(あれっ? あの人……)


 私は内心で目を見開く。

 ひるがえった髪の下にあった少年の耳は、明らかに人間よりも長くて尖っていた。


 この世界にエルフが実在するのは知っている。

 滅多に出会うことはないが、稀に人間の町にやって来るエルフもいるからだ。

 けれど少し違和感もあった。

 ずっと以前、お母様がまだ生きていた頃、町で見かけたエルフに比べると耳が短いのだ。それでも人間よりは尖っているが……?


「耳が……」


 私が言うと、彼は顔をしかめて髪で耳を隠してしまった。


「見世物じゃない。見るな」


「あなた、エルフなの?」


「答える義理はない。うるさい奴だな」


 取り付く島もない。

 しかし前世いい年まで生きたオバさまパワーを舐めないでほしい。

 せっかく悪人ではなさそうな人に遭遇したのだ。このまま関係を断ってたまるか。


 私はなるべく愛想の良い笑顔を浮かべた。


「まあまあ、ちょっと待ってくださいよ。野菜もタダでくださいとは言いません。お肉と交換でどう?」


「は?」


 少年は胡散臭そうな顔で振り返った。


「お前みたいな迷子が肉を持っているわけないだろ。嘘つきは嫌いだ。さっさとどっか行け、しっしっ」


 犬でも追い払うように手を振られた。だいぶ失礼な子である。

 前世の息子が見知らぬ人にこんな態度を取ったら、叱ってやるところだ。

 いやでも、相手から見れば私は正体不明の子供なので、警戒心は持つべきか。難しいところである。


「お肉、ありますよ」


 私は手に持っていた蔓草製の巾着袋を開けた。

 今日の探索のお弁当用にと、干し肉を少し持ってきていたのだ。

 これはウサギの肉だ。

 ウサギの肉、脂身が少なくてあっさりとした味で美味しいんだよね。オススメです。


 小さな干し肉のかけらを差し出すと、少年はゴクリと唾を飲み込んだ。

 肉と私の顔とを交互に見ている。


「お前、どうやってこれを手に入れた。元々の持ち物か?」


「いいえ。私が狩りました」


 ついでに私が干し肉にしました。

 ドヤ顔で言い切ると、少年は黙り込んでしまった。


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