最終章 真堂守哉と神掛ゆんと奮闘記(前編)その3
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「……そういえば、なんで爺やは俺がIQ160超の人間だって知ってたんすか?」
ダイニングで待つ明歌とゆんの元へ行く途中、守哉が思い出したように言う。
それもそのはず、自分の「特例」扱いを知っているゆんならともかく、彼女以外の神掛家の人はその断片も知らないはずなのだ。
すると、爺やは優しく微笑んで、
「そんなこと、神掛家の人間なら誰でも知っていますよ」
「……?」
「お嬢様、ですよ。あの方が我々と話すとき、話題はいつも守哉殿のことでしたから」
「な、なっ」
守哉の顔が一気に赤く染まる。それを面白そうに眺めながら、爺やは続けた。
「ここがすごい、ここが好き、守哉殿のことを、さも自分のことであるかのよう自慢げに、そしてとても楽しそうに話していましたよ」
ぼふん、と守哉の頭上に湯気が湧き上がる。ここで思考ストップ。
そうやって階段を降りていると、ちょうど良くダイニングからゆんが顔を出した。
「おお。お嬢様」
「あっ。じいやん、かみや。おかえりーっ」
「お、おう」
「? かみや、顔赤いよう? どしたの?」
「う、うっさい! お前のせいだろうが!」
「ええ!? なんでえ!?」
守哉の言葉に、ゆんはズザア! と後ずさりをする。
「訊くな! 分かってるくせして! このやろう!」
「なんか知らない間に恨まれてる!」
がーん、と絶望するゆんを、心配して出てきた明歌がダイニングへと彼女を促す。
「あら、守哉君、爺や。無事で何よりです」
「はい、明歌さんのほうは、なにかありましたか」
「いえ」と明歌は笑顔で返事をし、ダイニングに入っていく。守哉と爺やもそれに続いて行こうとしたその時。
彼らの真後ろにある玄関の扉が、勢い良く開け放たれた。
「――……っ!」
もしや、犯人か! と思い、全員がそちらに振り向いた。守哉と爺やは、反射的にゆんの前に、庇うようにして立つ。
だが、そこにいたのは、今回の事件の犯人とは到底思えない人間だった。
「よ~っ! 脳木遙、ただいま参上だあ~!……ん? どうした? なんで皆そんな険しい顔してるんだ~?」
ズシャアア! とバランスを失って倒れる神掛家一同。
「ど、童顔教師! またお前かー!」
「な! またって何だまたって~!? あれ、なんかこの会話デジャヴ!」
「なずきん……さすがに空気読まないとだめだよう」
「うわあ! 可愛い子ちゃんにそれ言われると終わりな気がする! だ、だいたいなあ! あたしはこの時間に来るって前もって連絡していたぞ~?」
「へ? なんで?」
「そりゃあ……」
「あ、やっぱりいいや。今それどころじゃないし。お前に構っている暇ないし」
「放置プレイ!? 自分から聞いたくせに!?」
「じゃあお前はこの状況を打破できる方法を今から言えるってのかよお!」
「ぎゃ、逆ギレ……。うう、そこまで言われると自信ないぞ~。ってか今どういう状況!?」
脳木の言葉に反応したように、ゆんが守哉たちの前に現れた。そして人差し指を天高く突き上げ、
「この中に犯人がいる!」
「えええ!? ていうか何の!?」
「俺もそれは初耳っ!」
「えへへ。一度言ってみたかったんだー」
冗談かよ! 守哉が突っ込む中、なぜか明歌は安堵の息を漏らしていた。
「……バレたかと思いました」
「いた――ッ! まさかのここで一件落着!」
「えへへ。一度こういう演技やってみたかったんです」
「明歌さんまで!?」
まあ、よく考えると、ゆんと明歌はこれがどういう事件なのか知らされていない。だが、それでも……。
「あの、いたずらに俺の心拍数上げるのやめてもらえます……?」
事件の内容を把握している守哉が、今までにないほど切に願いをこぼすと、さすがに可哀想になってきたのか、ゆんと明歌は「ご、ごめんなさい」と頭を下げた。




