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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
92/131

24 俺がパパになるんだよ!

「うわ、気持ち悪い」


「叔母さんの話通りってわけか」



 見えてきたドーム状の巨大な結界。その内部にはカノンが言っていた通り、とんでもない量の負のエネルギーが渦巻いていた。

 速度を落とすことなく突っ込んでいき、結界に衝突。することはなく、すんなり内部へと進入することができてしまった。呆気ないと思った次の瞬間、サクに触れた負のエネルギーが消滅し始める。

 天敵と言える存在の侵入をまるで生物のように理解した負のエネルギーは目にも止まらぬ速さでサクたちの進む先から避けていく。結界内において、サクたちがいる部分だけがよどんでいないという不思議な状態が生み出されていた。

 わ~気が避けてる~、といった某パヤオ作品のセリフを一部改変して思い浮かべたが、くだらなすぎて勝手に自分で苦笑いしてしまう。そんなことを考えられるだけ、余裕があるとも言えた。

 とりあえず眼下は陸地となった。負のエネルギーによって荒廃しているかと予想していたが、平凡な普通の大地が広がっている。平原があり、山があり、森があり、湖もある。しかしながらそれらの風景とは別に、決定的に違うことがあった。



「サク、すごい一杯いるね」


「だな。大量発生とかが可愛く思えてくるわ」



 至る所に魔物がいる。暗くて目による判別は出来ないが、無数のむき出しの敵意を感じることができた。群れて行動する小さなものもいれば、山のような大きさを誇る巨大な存在もいる。

 人間にとっては地獄ともいえる大陸だ。というよりも、魔物しかいない。ここは奴らにとっての楽園ともいえる場所なのかもしれない。

 最高に居心地の悪い空を飛んでいけば、進行方向に明らかに人工物だと思えるものが見えてきた。闇夜の中であっても、ぼんやりと白く発光する超巨大なかまくらのような物体。開けた場所にポツンとある光景は、異様だった。

 違和感たっぷりのその前に降り立ち、1つだけあったサク3人分ぐらいの巨大な扉の前に立つ。美女に戻ったハクも横に立ってそれを眺める。ド派手な装飾などは一切なくシンプルな木造の扉なのだが、見た目では分からない凄まじく高度な呪術と封印魔法が施されていた。

 絶対に中に何かありますやん。ワーも使う似非関西弁を心の中でつぶやきつつ、隣のハクと顔を見合わせる。そしてお互いに決心がついたところで、恐る恐る扉に触れてみた。



「サク!?」


「んおぉ、だ、大丈夫だ」



 指先が触れた瞬間、扉の膨大な量の魔法を吸収したサクは体をぐらつかせてしまう。何とか踏ん張って耐えたものの、体に異変が起きるほど量に驚きを隠せない。

 ハクに心配をかけさせないためにも気を引き締め、扉を開けていく。ここまでの間で何故か魔物が襲撃してくることはなく、かなり離れたところからサクたちの様子を窺っていた。

 


「……すごいね」


「外の禍々しさが嘘みたいだな。めっちゃ神秘的な感じだ」



 内部には汚れ一つない純白の空間があった。大陸における負のエネルギーは一切感じられず、透き通るような綺麗な空気と神聖な魔力が漂っている。

 外との差に驚いている2人だが、少し進んだところで身構えた。この建造物の中心と言えるところに『何か』があり、こちらを待ち構えているのを感じ取ったからだ。

 いつでも動けるようにと警戒しながらその『何か』へと近づいていく。純白の空間の中心部には、巨大な水晶のようなものが浮かんでいる。その中には体育座りをしている真っ白な人間のような『何か』がいた。

 よく分からないままここまで来てしまったが、自分の冴えないセンサーがこいつはヤバいと警告し続けている。だが、もし眼前にいるこいつをどうにかできれば世界の問題が改善できるような気がしてならない。ここは、逃げちゃだめだ。

 震える心を鼓舞していれば、勇気づけるかのようにハクが手を握ってくれた。温かく、心強い思いを感じ取りつつ、『何か』へと距離を縮めていった。



(誰?)


「声!?」


「直接脳内に系か!?」



 突然頭の中に響き渡った声に驚く2人。臨戦態勢に入ったところで、水晶の中の『何か』は目と言える部分を開いた。ハクに似た金色の瞳。逸らすことなく探るかのように向けられる瞳をサクたちも真っ直ぐに見つめ続けた。

 しばらく続いた目だけを使った無言の攻防戦。一体どうなるかとサクが唾をのんだところで、『何か』は語りだした。



(……見えない)


「……え?」


(見えない。こんなの、初めて)


「何が見えないんだ?」


(恐怖や畏れ。それを実行するのが私。それが私の存在意義。私が為すべきこと)


「……よくわかんないけど、結構物騒なこと言ってるなお前さん」



 伝わってくる声は、高めで清らかな成人男性っぽいもの。感情のブレとかが全くなく、淡々としゃべり続ける機械口調だ。

 最初の印象で判断してはいけないとはいえ、はっきり言ってかなり不気味。直接害を加えてくることを想定し、いつでもこの建物を含む一帯を吸収できるように準備をしながら会話を進めることにしよう。



「そんな物騒なこと以外、お前さんはすることないのか」


(ない。私は悪。生物、人、国、世界の脅威となる悪。私を敵として全てが結託することが製造者の理想)


「製造者ってことは、作られた存在なのか。ちなみに名前は?」


(ない)


「あっそう。んー……。ハクから質問は?」


「私? そうだね……。ここに何年いるの?」


(約700年)


「そんなに……」


(そろそろ完全に目覚めるころ。戦争を続ける彼らの敵になるため、私は動く)


「戦争……?」



 人類や世界にとって忌むべき単語であり、あってはならないことを『何か』は口にした。しかしながら、現在のこの世界においては戦争など起こっていないどころかその兆候すらない。

 勉強会において確かに700年前より昔の記憶があまり残されていないことを思い出した。もしかしたら、意図的に忘れ去られているとされる700年前以前の出来事に、こいつは関わっているかもしれない。

 色々と難しいことが重なり始めて頭の回転が悪くなり始めるサクだったが、とりあえずはっきりと目の前の『何か』に言い切れることがあった。それを迷うことなく、はっきりと伝えた。



「お前さんは知らないだろうけど、外で戦争なんて起こってないぞ」


(あり得ない。私がここに封印されるまで戦いは続いていた)


「それ700年前のことだろ? 今はどこも平和そのもの。お前さんが頑張る必要なんてどこにもないと思うぞ」


(そんなはずない。5年前に凄まじい魔力が膨れ上がったのを感じた。あれこそ戦争の――)


「……どうした?」



 途中で黙り、真っ直ぐとサクを見つめる『何か』。そして全てを理解したかのように、静かにつぶやく。



(あれはお前のせいだったのか)


「おお? もしかして見ただけで分かった感じ? なら話が早い。そういうことだから、お前さんが頑張る必要はないの。もう一回眠りについたら?」


(それは無理。私が半休眠状態になったら後は目覚めるだけ。配下は先に目覚めて活動している。でも、私は完全に目覚めてもやることがない。戦争がない。私はどうすればいい?)


「んんん? いきなりの問いかけかよ。そうだな……」



 どうしたものかと悩んでみるが、上手い返答がそんなに簡単に思いつくわけがない。ただでさえ冴えない回答しか思いつかないやつにする質問じゃないでしょうに。

 悩み続けるサクだったが、もはや脳内処理の限界が近づいてきていた。これ以上の負荷をかけたくないサクは、突発的に思いついた提案を口にしてみてしまった。



「人間になるとかできないの? あえて敵となるべき存在になって、自分が見ることのなかった視点で世界を見る。どうよ?」


(……いいかもしれない)


「ならそれでいいじゃない。楽しもうぜ、新しい自分を。新しい人生を」


(分かった。ならば最適ともいえる存在となろう)


「おう。なっちゃえなっちゃえ」


(提案してくれたお前の息子になる)


「……はい?」



 予想外なことを言われて固まってしまうサク。横にいるハクも、理解できないといった感じで唖然としていた。

 水晶の中の『何か』が眩い光を放ち始める。その光は水晶から滲みだし、サクたちの目の前で固まると幼児の体を形成し始めた。

 どうしていいか分からないサクは頭がパンクしてしまって口が動かない。そんなだらしない様子のサクに向け、『何か』は言い放った。



(お前が私の父となるのだ)




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