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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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58 温かくて柔らかい

 嘘だろう。あんたが俺の中の力、そのものなのか。中二のときにもう少しましな名前を付ければよかった。そうサクが嘆くことができるほどに、『創造主』の影響は弱くなっていた。

 これでどうにかなるかもしれない。期待を抱きながらサクが様子を見守っていると、変化した『創造主』腕と言える部分がズッキーの腹部を貫いた。

 


「や~ら~れ~た~……、とでも言ってあげればいいか?」


『……!』


「初めて焦りを見せたな。だがもう遅い。ここはサク君の、そして私の独壇場だ」



 貫かれた腹部からの出血はなく、それどころかそこから『創造主』の腕が光に変わり始めた。慌てて『創造主』は腕を引き抜いたが、その先端部分が元に戻る気配はない。

 綺麗にぽっかりと空いた穴に、ズッキーは懐から取り出したハンカチで覆い隠した。ワン、ツーといった感じで数字を数え、スリーと言ったところでハンカチをどけると、穴はきれいさっぱりになくなっていた。

 お前は手品師か。そんなサクの突っ込みにズッキーは笑みを浮かべながら、どこからともなく取り出したステッキで床を数回叩いた。そこを中心として水の波紋が広がっていくかのように振動が伝わっていく。

 真っ白な空間は少しずつ姿を変えていき、爽快な風が吹き渡る草原となった。空は快晴で、地平線の彼方まで青々とした芝が続いている。空気が美味しく感じられるそんな場所で、『創造主』は形成した体をぐらつかせた。異質な体の至る所が、光となって消滅を開始していた。



「実験と称してイヤサにとり付いた邪悪な存在と共謀。お前の力でオーラを隠し、クロノスといった人物に悟られずに立ち回る用意周到っぷり。随分と楽しんでいたようだが、これで終わりだ」



 そういってズッキーが『創造主』に手を伸ばすと、その歪な体から赤いオーラを吸い取った。手の平の上で凝縮されたそれは、とても楽しそうな表情を形成していた。ズッキーは無言のままそれを握りつぶすと、周囲に断末魔がこだました。

 『創造主』の体から取り込んだ負のエネルギーが漏れ出し始め、それらは守護騎士としてのサクの力によって浄化され、消滅していく。残された黒い体も残された時間は少ないように感じられた。

 自らが消えていく中、不気味に笑う『創造主』。幾重にも重なったかすれた声で、ズッキーとサクに向けて話しかけてくる。



『今ここにいる『私』が消えたところで、貴様らが元いた世界が救われることはない。いずれは『俺』に吸収されることになるだろう』


「それはどうかな。お前が思っている以上に、あの世界には素晴らしい人材と力がある。どんな困難にでも立ち向かえるさ」


『何故そうまでして抗う。それに、貴様らの世界の寿命もほとんど無いに等しいはずだぞ』


「それは承知の上だ。それでも、そこで多くの存在が生を享受している。そんな彼らを見捨てることなどできないし、これからも生きることを楽しんでほしいと考えている」



 ズッキーは手に持っていたステッキを『創造主』の胸の辺りへと押し付ける。そこから漏れ出した光が、『創造主』の体全体へと回っていき、消滅を加速させた。

 


「あの世界と同様、私も命が大好きだ。彼らの営みこそが、世界に繁栄をもたらす。自分のことしか考えられないお前に未来はなく、必ず淘汰されることとなるだろう」


『分かり切ったよういに言うものだ。『僕』は手を差し伸べた。だが奴らはそれを必要とせず、あまつさえ『私』を拒否することもあった。そんな救いようのないゴミ同然の存在を救う必要があるのか?』


「ある。お前は手を差し伸べ、彼らを信頼しようとしたか? 信頼こそが繋がりを生み、繋がりが発展へと昇華していく。お前はただそれ以前の段階で諦めていただけだ」


『ふざけるな。『我々』は高次を行く選ばれた存在。劣悪種と肩を並べるなど、あり得ない。奴らは、滅ぼさねばならない愚かな存在だ』



 聞く耳を持たず、笑い続ける『創造主』。反省する気もなければ、謝罪する気もないその様子に、ズッキーは大きなため息をついた。

 彼らのそのやり取りを見続けていいたサクは、とあることに気が付いた。弱々しくなっていく『創造主』の禍々しい力から、僅かに自分と同質の力を感じ取ったのだ。再度確認するが、間違いない。それは、『抵抗力』のものだった。

 何故こんな禍々しい存在からそれが感じ取れたかと疑問に思っていると、『創造主』はさらに声を上げ、高笑いし始めた。まるで勝ち誇ったかのようなそれに対し、ズッキーは告げた。



「生命を、人を、世界を見くびるな。貴様の思いなど、叶うことなど絶対にない」


『くだらん。ああ、くだらなすぎる。『我々』こそが絶対。『我々』が作り出す未来こそが――』



 全てを言い終える前に、『創造主』は跡形もなく消え去った。光は風に吹かれ、どこか遠くへと飛ばされていく。

 色々と大変だったが、これで終わった。安堵するサクだったが、ズッキーは喜ぶというよりもどこか寂しそうな顔をしていた。

 手早くステッキを収納すると、草原の一点に光が発生した。それに向け、ズッキーはゆっくりと歩き始める。その後ろ姿に対してサクが礼を言うと、振り返ったズッキーは名残惜しそうにしながらも答えてくれた。



「どういたしましてだ、サク君。だが、恐らく君と会うのはあと一度だけ。それが最後になるだろう」



 どうしてそんなことを言うのか。問いただすサクに、ズッキーはため息交じりに答える。



「私は『抵抗力』であり、世界の意思の片割れでもある。察してくれ。君ももう、これから先の答えは出ているはずだ」



 そういってズッキーは光へと向き直り、再び歩き始めた。見えなくなっていくその背に、サクはそれ以上問いかけることはなかった。

 これから先のこと。それで充分理解することができた。答えはもう、決まっている。

 サクが精一杯の感謝の気持ちを自らの中に眠る存在に向けた。それを受け、光が消えていく。それが消えるとともに、サクの見える世界も真っ暗になっていくのだった。






     ※








「――クっ! サクっ!!」


「――ん、おお?」



 柔らかくて温かい物に包まれている。心地よいことこの上ないそれを感じながら、サクは意識を取り戻した。

 とりあえず、体中の違和感が凄まじいことになっている。痛みとかそういうものが感じられないから、結構重症なのかもしれない。

 それでもサクは、今のこの状況に心の底から安心していた。どこよりも心安らぐ理想郷の中なのだが、雨が降っているためか頭に水滴が落ちてきている。

 


「よ゛がっだぁ! よかっだぁ!!」



 頭上から聞こえてきた声に驚きつつ、サクは視線を上げた。そこには、涙でぐしゃぐしゃになったハクの顔があった。

 周囲には他の皆の存在が感じ取れるが、中途半端に覚醒した意識ではまともに確認することができない。そんな中でもとりあえずサクはハクを安心させるために口を開いた。



「ごめんな。何か心配かけたみたいで」


「無事でよがっだ。本当に。本当に……!」



 鼻水をすすりながら無事を喜ぶハクの姿を見て、少し笑ってしまうサク。戻ってきたし、ハクもあの結晶体から解放されたようでよかった。

 そんな感じで安心したためか、眠気に襲われ始めたサク。消えかかるそれに活を入れながら、サクは最後につぶやく。



「すまん、ハク。超眠い」


「……うん。分かった。それじゃあ――」



 了承してくれたハクは、座った状態で胸に抱き寄せていたサクに顔を近づけていく。そして、眠りにつく寸前のサクと静かに唇を重ねた。

 優しいひと時の後、ハクは顔を離した。もう意識がほぼない状態のサクに、ハクは優しく笑いかけた。



「おやすみのちゅーだよ、サク」


「……おう。ありがと、ハ……――」



 大切な存在の名を呼びながら、サクは心の底から安心しつつ、眠りにつくのだった。

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