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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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56 サクの結論

「幸運?」


『そうだ。すでに秘めたる力を持った貴様に対してそれは与えられた。本来であればいるべきではない『私』を排除するためにな』



 そういって笑うイヤサ。しかしながら、実に素晴らしい物を貰ったとしか思えないサクにとって、そのイヤサの笑顔は理解できなかった。

 とりあえずここまでのことを思い返してみるサク。以前までいた世界の生活においても特に不便はなく、この世界に来てからかなりのごたごたに巻き込まれたりした。そんな中で嬉恥ずかしな行為も結構あった。

 その中でもアルーセルにおいての激しい夜を思い出してしまう。今でも鮮明に覚えている感覚は、こんな緊迫した場面においてもサクの股間を甘硬くさせてしまった。

 こんな時でも大きくなるのかと自分のムスコに対して苦笑いしていると、それをイヤサは何かを悟ったと勘違いしたようで、不気味な笑みを浮かべるのだった。




『理解してしまったようだな。全てを』


「あー……、まあ、そうだな」



 『創造主』とか派手に名乗っていたのにも関わらず、人の心が読めてはいないようだ。というか、あえて読んでいないのか。どっちでもいいが、サクにとってはありがたい。

 動くことができないサクの目の前にイヤサは降り立ち、ゆっくりと距離を縮めていく。近づけば近づくほど、纏うオーラの禍々しさをサクは改めて痛感していた。

 自らを高次の存在と称しながらも、滲みだしているのはどす黒い負の感情。他を認めようとしない高慢な態度は、どちらかといえば器の小さい人間であるようにも感じられる。

 


『邪悪な存在と称される負のエネルギーを祓う力はオマケに過ぎない。選ばれた者をさらに高みへと導くための力、それがこの世界における恩恵だ』



 語りながら、イヤサはサクの周囲を静かに歩き回り始めた。変わった話の聞かせ方に戸惑うサク。できれば正面からはっきり話してほしい。



『対象者の能力を全体的に底上げするためのものだが、貴様には必要がなかった。だから、この世界は『運』のみに全てを集中したのだ』


「全振りか、そりゃ豪勢なことで……」


『あの研究者が作った道から侵入してくる『私』を本来選ばれるべきである守護騎士では倒せないのは理解していたようだ。貴様がここにやってきたのは『俺』とこの世界にとっても予想外であり、またとない好機となったのだよ』


「両方が……?」


『無駄な抵抗を続ける貴様が以前居た世界。そこにおいて私を滅ぼすための力を持った『抵抗力』。それが未成熟のままこちらへと転移し、向こうはがら空きになった。この世界が生き残る希望を得て、私も腹立たしい世界を難なく葬る機会を手に入れた、ということだ』


「……」



 とんでももなく危険なことを言っている。実際、その雰囲気からも冗談ではないということがサクでも分かった。

 驚異的な存在であり、強大な力も持っている。自分が知らぬ間に世界はこんな存在と戦い続けていたことを知り、何も深いことを考えずに日々を生きていたことが申し訳なくなってくる。

 だが、それと同時に仕方がないと割り切る思いが芽生えていた。知っていれば、行動することができたかもしれないが、全く知らされていなければ動きようがないのも確かだからだ。

 一周回って再びサクの前に立ったイヤサ。睨み付けるこちらを確認しつつ、その大きな右手でサクのことを指さしてくる。



『貴様が与えられた『幸運』は、この世界が思い描く通りに機能した。そして、今の貴様がここにいる』


「……?」


『これまでの出会い、経験、成長。その全てがこの世界がもたらした『幸運』によるお膳立てによって得られたのだ。それさえなければ、貴様はここに立つことはなかった』


「……」


『何も言いたくないか。そうだろうな。本来ならここよりも遥か遠い場所に転移されるはずであり、竜との出会いも、あの少女との出会いも、エルフとの出会いの全てがあり得ないことなのだよ。力を持っていても、貴様のような存在がここまで到達することなど万に一つもない』



 イヤサは高笑いしながら舞い上がり、ハクたちのそばへと近づいていく。眠りについたかのような安らかな顔を一瞥し、眼下のサクを見下ろす。



『自分の運命だとでも勘違いしていたのだろう? 愚かしいことだ。支えや助けを受けていたとも知らず、ただそのまま進んでいくことしか考えられない。劣悪種はこれだから嫌いなのだ』


「好き放題言いやがって……」


『正論だから言っているまでだ。出来の悪い反論しかできない貴様に教えてやろう、本来の守護騎士とその道筋を。というよりも、もう薄々どうなっていくのも分かっているだろう?』



 楽しそうに笑う姿はサクの心に苛立ちを募らせていく。高ぶる感情の中でも、指摘された通りにサクは本来守護騎士となる存在にある程度予想がついていた。

 サクとは正反対ともいえる性分。誰からも称賛され、嘱望のまなざしを向けられる。親の命に歯向かってでも命を助けようとする気高い精神。そんな男が、サクがこの世界で活動を始めた時に初めて到着した街にいた。

 分かり易すぎる完璧な存在に、サクは心の中でため息をついた。彼であれば、なったとしてもおかしくはない。自身に満ち溢れた声はすぐにでも思い出すことができる。



『本来の守護騎士、それは秀才と称されるテンガ・クロムウェルだ。彼はあの森で竜を救い、親が率いる帝国を鎮圧した後で英雄と扱われるはずだった。その栄光の道を、貴様は横取りした。何も知らぬうちにな』


「……はぁ」


『ため息しか出ないかようだな。思い知ったのだろう。恩恵がなければ何もできず、『抵抗力』としての力も活用できず、ただ無為に時を過ごし、誰からも見向きもせずに朽ちていく自らの無力さを』



 その後、イヤサの表情から笑みが消えた。恐ろしいほどにまで冷たい目でサクを真っ直ぐと見つめ、言い放った。



『貴様一人では、何も出来ん。支えも助けもないお前は。生きている必要のないゴミ同然の存在だ』



 確かに、言っていることは正しい。支えと助けがなければ、今の自分はここには立っていない。彼女たちの大切な存在にもなれず、楽しかった思い出もなかっただろう。

 イヤサの、『創造主』の発言をしっかりと聞き、サクはゆっくりと目を閉じた。真っ暗になった視界の向こうからは、その様子を見たことで高笑いしている『創造主』の声が響き渡る。

 ない頭をフル回転させる。国語の授業をもっと頑張っておけばよかったと悔やみながらも、サクは自らが吐き出すための言葉を脳内で紡ぎあげていく。それは、絶望に打ちひしがれるものでもなければ、助けを乞うものでもなかった。

 これ以上考えてもしょうがない。簡潔で分かり易く、自分らしい結論を導き出したサクは重い瞼をゆっくりと開けた。そして、上空で笑い続ける『創造主』をその半開きの目でしっかりと見据える。

 こちらの雰囲気が変わったことを察した『創造主』は笑いを止めた。こちらに対して気が向いたことを確認すると、サクは深呼吸し、口の震えを必死に抑えながら話し始めた。



「お前の話を聞いて、俺が出した結論はこうだ」


『ほう、命乞いでもするのか?』


「『それがどうした』」


『……何?』


「何度でも言ってやるよ。『それがどうした』、だ」



 こちらの発言が理解できず、眉をひそめる『創造主』。こちらに対して凄まじい嫌悪感を抱いているのをその姿から感じ取りつつ、サクは続ける。



「確かに俺は一人じゃ何もできなかったかもしれない。でも、それがどうした。現に今、俺はここに立ってる。もう、結果はここに出来上がってるんだ」


『……それが何だというのだ』


「どうもこうもない。今俺がここにいるのは、出会いの中で考えて、経験の中で決断して、色々なものを得て成長した。その俺がここにいるんだ。お前みたいな赤の他人にどうこう言われる筋合いはない」


『……貴様は――』


「支えがあったことも、助けてくれたことも後で礼を言うよ。その上で、俺は俺らしく生きていくぞ。お前にとって愚かな存在であっても、今の俺が、冴えないこの俺こそが『俺』なんだ。だから……」



 決めようとしたが、息切れになってしまったので素早くサクは酸素を取り込む。後もう少しでかっこよく決められたが、しょうがない。これが、『實本冴久』なんだから。

 準備は整った。こちらを心底嫌そうな表情で睨み付ける『創造主』に向けて、サクは思いの丈を吐き出した。



「『それがどうした』!!』」


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