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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第一章 冴えてる三日間
19/131

18 体(股間)と精神がもたない

「ごめんね、サク……」


「いや、ハクは何も悪くない。悪いのは確認不足の俺のせいだ」



 サクは絶望の淵に立たされていた。ようやく手に入れかけた冴えない平穏な異世界生活が、心の中で音を立てて崩れ始めている。

 大広間に寝そべり、快晴の空を眺める。空はあんなに青いのに。今の自分のお先は真っ暗だ。寝そべるサクの横で、ハクが申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 立ち直ることのできないサクに対し、大広間に来ていたアイリスはため息交じりに話しかける。



「まあ、全額あんたが支払わないだけまだましよ。守護騎士でなければ、もっと払うことになったはずよ」


「分かってる。分かってるけど……、俺のライフはもうゼロなんだよ……」



 ハクの吹き飛ばした天井の一部。特製の錬成鉱石で作られた大広間の扉。外壁に設置された由緒正しき迎撃装備。城内の歴史的記念品の数々。その他多数。それらは、魔法による修復が不可能なものだ。

 守護騎士保証による免除を考慮した上での損害賠償金の総額は、10万ゴルド。その大金を、サクが支払うこととなった。足りない8000ゼントに関しては、アイリスが出してくれるらしい。派手にやっていいと指示してしまったことに、責任を感じているようだった。

 南西部にてコンロ帝国を打ち破った英雄ともいえるサクは、一瞬にして無一文になってしまった。

 オワタ。無理ですやん。無一文でどうしろってのよ。お金の大切さは高校生のサクでも十分に理解している。

 大広間でハクと幸せなひと時を過ごしていた矢先に伝えられた事実に、サクは気の抜けた変な笑いしか出てこない。



「……泣けるぜ」



 某サバイバルゲームの登場人物の口癖をつぶやく。実際のセリフを直訳すると全然違うというのが有名だよね。

 そんなどうでもいい現実逃避を脳内で続ける。本当にこれからどうするか、先のことが全く考えられないし、考えたくなかった。

 サクが悲嘆にくれていると、驚いた表情のハクがサクを揺さぶる。



「サク! あ、アイリスが!」


「ん? どうした……って、マジか」



 アイリスの瞳が赤く光り輝いていた。前回の吸引でもまだその呪術は完全に解呪することができなかったようだ。

 しかし、前回と少し様子が違う。虚ろな瞳のまま、その場から動こうとしない。だが、その体は静かに震えていた。

 


「お嬢様! 大丈夫ですか!」



 異変を察知したゲイリーが城内から駆け付けた。慌てて近寄ろうとしたが、眼前の結界に阻まれる。引き抜いた剣を振り下ろして破ろうとしたが、びくともしない。

 遅れてやってきたカーラも、その状態に驚いていた。何人たりとも寄せ付けないその結界に触れ、自分も力になれないことを周囲に伝えるかのように、首を横に振った。

 サクはその場から立ち上がった。どうすればいいかと考えていた時、心の中に何かが響く。

 


(助けて)



 たった一言。アイリスの声だった。しかしながら、周りにいるハクたちは聞こえていないようだった。

 結界の向こうにいるアイリスが、その虚ろな瞳から伝った一筋の涙が頬を濡らす。外見では分からなかったが、呪術の最後の残りカスがアイリスを苦しめているようだ。

 サクは意を決し、アイリスへと近づいていった。大切な存在の1人をこれ以上苦しませるわけにはいかないし、まだ損害賠償金のお礼も言っていない。必ず正気に戻す。

 ゆっくりと結界に触れると、サクの体はそれを通り抜けた。結界は吸収することができないようだった。そのまま、サク単身で結界の内部へ侵入する。

 さて、どうすればいいか。正直に言って、向こうから動いてくれるとかなり楽なのだが、動く気配はない。

 とりあえずサクは震えるアイリスを抱きしめてみた。そのまま優しく頭を撫でてみるが、変化はない。というか今になって気づいたが、崩壊した扉の所でテンガがこちらを真剣な眼差しで見ていた。

 ハクたちだけでなく、テンガもいる。恥ずかしいが、恐らく最も効果的であることをサクはすることに決めた。

 アイリスの顔を真正面から見る。虚ろな赤く光り輝く瞳に、冴えない顔が映し出された。



「今助けてやるから」



 安心させるためにサクは言った。その後、顔を横に傾け、目を静かに閉じて唇を重ねた。拒否反応的なものがないことを確認しつつ、舌をアイリスの口の中に侵入させる。

 すんなり開けてくれたことにほっとすると同時に鼓動を速めるサク。助けるためとはいえ、自分からやるとなるとかなり緊張していた。

 自らの唾液をアイリスの口の中へ舌を使って流し込んでいく。最初の内は全く反応を示さなかったアイリスだったが、徐々に動き始めた。それを確認し、サクは安堵しつつも繰り返す。

 アイリスの舌が動き始め、僅かながらサクの唾液を求めるように吸引が始まる。サクはさらに送り込むためにアイリスと激しく舌を絡める。

 気付けばお互いにディープキスに夢中になっていた。結界はもう消えていたが、周囲の目を一切気にすることなく続ける。

 アイリスの腕がサクの腰へと回された。ここまで動くことが出来ればあともう少しのはず。そう思いつつも、サクは自らの股間が元気になり始めていることに気づいた。

 助けるとか言っておきながら、この様である。許してほしいとアイリスに心の中で謝りながら、サクはディープキスを続ける。

 お互いを求めるように舌を動かす。絡み合う舌が、唾液を絶え間なく交換させていく。離れたくないといったように、唇を吸い続ける。

 もう十分やった。たぶんアイリスも自由に動けるはずだと思ったサクは、ゆっくりと唇を離した。だが、目を開けた先にいたアイリスを見て、言葉を失ってしまった。



「もっと……、もっとしよう?」



 頬を染め、上目づかいでアイリスが懇願してきた。圧倒的に可憐なその姿。サクは懇願に応じて唇を重ねる。

 再び閉じる前の瞳は青だった。間違いなく自我を取り戻していたが、アイリスは思い人とこの幸せなひと時を続けたいがため、行動に移した。サクも、それを拒否する気は全くなかった。

 股間はもうおとなしくなっていた。だが、興奮していないというわけではない。今までとは違う不思議な思いをサクは感じていた。

 こうしていたい。好きな人と。好きになってくれた人と。ただそれだけを考え、ディープキスを続ける。

 気が付けば、呪術を解除するために有した時間よりも長く、唇を重ねていた。お互いに満足した2人は、ゆっくりと唇を離して向き合った。



「あのね、サク。私、この呪術が体に影響を出さなくなるまで首都の実家で休暇をとることになったの」


「そうなのか」


「でね、嫌じゃなければ、私の所に来ない?」


「いいのか?」


「うん。またぶり返したときにサクがいれば安心だし、そうじゃなくてもサクと一緒にいたいの」


「……そっか。なら決まりだな。完治するまで、俺はアイリス専属の執事だ。就職先が決まって安心したよ」


「ずっと働いてもいいんだよ?」


「アイリスがそう望むなら」


「……ありがとう」



 満面の笑み。本当に可愛い。可愛すぎるちくしょう。

 サクも、少し照れながらもその冴えない顔で笑いかけた。それが嬉しかったのか、アイリスは抱き着き、サクの鍛えていない残念な胸に顔をうずめた。



「サク……、ありがとう。大好き」


「こっちこそ、色々とありがとう。大好きだぞ、アイリス」



 その後、ようやくやってきた恥ずかしさの影響からか、アイリスの体温が急上昇を始めた。ホッカイロよりも温かいその体温を感じながら、ふとサクは崩壊した扉の方を見た。

 テンガはもういなかった。なんだかんだ言って会うことの多かった彼に、サクは別れの挨拶をいいたかったが、それは叶わなかった。

 アイリスが煙を上げ始めたところで、サクは背後に気配を感じた。その気配の正体は、ゆっくりと右横に移動してきた。

 ハクだった。アイリスが無事だったことへの安心感と目の前であんなにも羨ましいことを見せられて妬む気持ちが混ざり合った結果、可愛らしく頬を膨らませている。

 その顔を見て思わず笑ってしまったサク。それに気づいたアイリスも顔を上げ、ハクを見て笑う。



「んっ!!」



 そういってハクは唇を尖らせ、サクへと突き出した。私にもしてほしいといった感じだ。

 サクはアイリスを見た。真っ赤な顔のまま、アイリスは仕方がないといった感じで苦笑いしていた。

 息を整え、頭一つ分大きいハクと唇を重ねた。すると、ハクはサクを思い切り抱きしめた。



「ひゃくっ!!」


「むごごぉっ!?」



 勢いよく侵入してきたハクの舌が、サクの口の中で激しく動き回る。柔らかく、豊満なおっぱいが押し当てられ、サクの股間が急成長を開始する。

 全力の内股で押さえつけつつ、ハクとのディープキスを続けた。周囲の視線など全く気にしない。雰囲気とかそういうのも気にしない。大好きだから、もっと繋がりたいというハクの勢いを止めることは出来なかった。

 サクが真っ赤になったところで、ハクは唇を離した。抱きしめたまま、無邪気な笑顔を向けてくる。



「何度も言うよ! 私はサクが大好き!」


「お、おう。俺も大好きだぞ、ハク」



 体と精神がもたない。特に股間が嬉しい悲鳴を上げている。これ以上こんな状況が続けば、興奮で死にそうだ。

 全身から煙を上げ始めたサクをハクはゆっくりと放した。ふらふらとした足取りで、後ろへと後ずさる。

 冷却時間が欲しいと願っていたサクの体は、柔らかいものに抱きしめられた。



「じゃあ今度は私の番ですね~」


「え゛、カーラもするのか?」


「はい~。流れからして、ここはやっておいた方が良いかと~」



 カーラはゆっくりとサクの前へと回り込む。フワフワとした甘い香りがサクの鼓動を高鳴らせる。

 その右手が首元を触れた。2人とはまた違う接し方に、気絶寸前のサクは驚いて少し跳ね上がった。

 目を閉じ、ゆっくりとカーラは顔を近づけてくる。いつもとは少し違う大人な雰囲気を醸し出すその表情。サクは震えながらも目を閉じた。



「……!?」


 

 何じゃこりゃあ。それが素直な感想。圧倒的な舌技がサクを襲う。弱いところを知り尽くしたなその動きに、成す術もなく遅れて合わせるしかなかった。

 アイリスの初々しいものと、ハクの無邪気なものとは違う、カーラのディープキス。そういえば、何だかんだでカーラとキスするのは初めてだった。

 揺るぐことのない聖母のような愛をカーラから感じ取りながら、サクは限界を迎えた。その視界が真っ白になっていく中で、唇を離したカーラがサクの耳元でつぶやいた。



「これからも、楽しく行きましょうね、サク~」


「ひゃ、ひゃい」








     ※






 城の修復作業は完了した。魔法でもどうにもできないものは、後日補填されていくこととなった。

 所々の部分に穴が開いている天井。そこから入ってくる日の光が大広間を神秘的に照らしていた。



「起きませんね~」


「しょうがないわね。ハク、背負える?」


「うん!」



 気絶したサクは、満足そうな笑みを浮かべてカーラの膝を枕にして寝ていた。寝顔でも、冴えない顔だというのは判断できた。

 用は済んだために、アカベェからアルーセルへと戻ることになった。後のことは、領主の息子であるテンガが仕切ることになっていた。

 カーラが抱き上げ、屈んだハクの背にサクを乗せる。背後から聞こえるサクの寝息をハクは嬉しそうに聞いていた。

 天井の穴から、1羽の鳩が入ってきた。それはゲイリーの肩に降り立つと、足に括りつけられていた手紙をくちばしで取り、ゲイリーに渡した。

 その中に書かれた内容に素早く目を通し、歩き始めたアイリスに耳打ちした。

 


「お嬢様、アルーセルに『クロノス』様からの使いの者が来たそうで、伝言をお預かりしました」


「お爺様の? ちなみにその伝言は?」


「それが、お嬢様に対してではなく、守護騎士のサク様に対してのものだそうです」


「サクに? どうして……。まだお爺様はサクのことを知らないはずなのに」


「ちなみに、伝言はこういったものです」



 その後、ゲイリーはゆっくりと伝言を読み上げた。



『お疲れ様、實本冴久君。おすすめの巨乳美女を紹介しよう。首都で待っているよ』




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