13 2つのお山
「……ちょっと待ったカーラ。何で俺が違う世界から来たって分かったんだ?」
「出会ってからすぐに分かりましたよ~。以前にも1人だけ転移してきた人に会ったので~」
衝撃的すぎて頭が上手く働いてくれない。倒すべき敵が父だと知った某スカイウォーカーもこんな感じに混乱していたのだろうか。
というかこういった感じの事情を話すのはタブー的なことではないのだろうか。しかしながら、カーラは普通にしゃべっている。もう何が何だか分からずに混乱するサクに、カーラは微笑みながら話し続ける。
「魔力が欠片も無いのと、魔法の影響を受けてないが特徴なんですよ~。この世界の住人であれば、赤子の時から何らかの魔法を体内に施されますからね~」
「そうなのか。ちなみに、どんなことが施されるんだ?」
「病にならないようにする抵抗力増強魔法とか、精霊の力を付与する加護魔法といった感じです~」
「ほえー、ファンタジーっぽいな」
違う世界から来たサクにはもちろんそんなものは施されていない。特徴的と言えば、巨乳をこよなく愛する紳士の精神ぐらいだ。
しかし、カーラは気づいているようだが、ハクやアイリスたちは気づいているとは思えない。となると、エルフだからこそ分かることができるのだろうか。
そんな感じで物思いにふけるサク。次の質問を考えていた時、突然カーラに抱き寄せられた。
いきなりのことで驚いたが、それはスキンシップなどによる行為ではないことに気づく。カーラは今までに見たことのない真剣な顔で、サクの背後に現れた人物を見据えていた。
「あら、ばれちゃったか。簡単に殺せるかと思ったけど」
男がいた。その手に持っているのはサバイバルナイフ。そして、その服装はどう見てもこの世界のものだとは思えなかった。男は、ジャージ姿だった。
不気味な笑みを浮かべる男は、けたけたと笑いながらナイフの切っ先を2人に向けてくる。
「変なところにいきなり飛ばされて、もう1日半も人を殺してないんだ。綺麗なお姉さん、その援行相手のガキを渡してくれ。そんな糞野郎なら死んでも問題ないと思うだろ?」
この男、ヤバい。完全に頭のネジが何本も抜け落ちてしまっている感じがする。そんな危険人物だが、サクは何故か男に見覚えがあるような気がする。
だが、間違いなく会ったことはない。デジャブ的なものか。いや、そんな感じではない。もっとかなり近い距離で、どこかで見た気がする。しかし、思い出せない。
そう脳内で考えていると、カーラはサクを離して後方に下がらせ、自らは男へと近づいていった。
「誰だか知りませんが~、さっきサクのことを何て言いましたか~?」
「あんたに援行持ち掛けてる糞野郎って言ったんだ。実際、こんなところで2人っきりとか、そうとしか思えないっつーの」
「訂正してください」
「あ?」
サクは鳥肌が立った。カーラからフワフワした感じが消えた。あのカーラからフワフワした感じが消えた。重要なことなので脳内で2回繰り返す。
普段怒らない人が、いざとなったときに凄まじい怒り方をするあれだ。間違いない。
「もう一度繰り返します。訂正してください」
「あら、もしかして援行じゃなくて彼氏だったのか? あんな根暗でキモイもやしみたいなのが? お姉さん、趣味悪いね」
男の発言が全てサクの心に突き刺さる。正直に言ってその通りだから何も言えないのがもどかしい。
だが、それがカーラの怒りをさらに助長させたようだ。サクですら感じられるほどの殺気をカーラは放っていた。
最悪の場合を想定して、サクは吸血鬼状態になれるように準備を始める。
「これ以上私の主を、大切な人を侮辱するのは許しません。もう一度だけチャンスを与えます。訂正し、土下座して謝りなさい」
冷徹なカーラの発言に、身震いするサク。自分であれば即刻土下座してすぐにとんずらすること間違いなしだ。
しかしながら、男も引き下がることはない。そればかりか、かなり苛立っているようだ。これはまずい雰囲気になってきた。
サクが吸血鬼状態へと変化を完了したところで、先に男が動いた。
「あんま調子乗るなよ女」
その手に持ったナイフで切りかかってくる。体の致命傷となる部分へと迷うことなく放たれたその攻撃は素早かった。
「……!?」
だが、男は驚愕していた。ナイフは刃の部分を握りつぶされ、カーラが目と鼻の先にまで一瞬にして近づいてきたからだ。
優しい甘い香りが男の鼻に届いた次の瞬間、男の体は宙を舞った。空中で2回転ほど回り、うつぶせの状態で地面に叩き付けられた。
振り上げた右足を下ろし、カーラは衣服に付いた埃を落とした。そして、男を踵で蹴りつけて気絶していることを確認する。
あっという間すぎて何が起きたのかサクは理解できなかったが、全てを終えたカーラは笑顔でこちらへと振り向いてきた。
「終わりました~。怖かったですね~」
「お、おう」
正直に言って、カーラもかなり怖かった。しかし、その点を指摘しない方が身のためだと判断したサクは、静かに空いたままの口を閉じた。
地面とすっかり仲良しになった男が目を覚ます気配はない。見事な空中2回転だった。審査員がいれば、かなり高めの技術点がもらえたことだろう。
気絶した男をどうするかサクが考えていると、目の前でカーラが身に着けている衣服を乱し始めた。その大きな乳房の大事な部分があともう少しで見えてしまいそうなぐらいにまで乱す。
突然のことに驚きつつも股間を反応させるサクに、カーラは指示を出した。
「サク~、こんな感じでこの男を押さえつけてください~」
「りょ、了解」
カーラが目の前でやってくれた見本を頼りに、気絶した男を取り押さえるような感じでサクはその場に待機し始めた。
一体何が始まるんです? そうサクが不安になっていると、カーラがそのフワフワした声で叫んだ。
「きゃ~! 誰か~! 助けてくださ~い!」
本人は精一杯の悲鳴を出した気なのかもしれないが、サクの耳にはそこから危機感を感じとることは出来なかった。サクが出来ないのなら、他人でも同じはずである。
しかし、違った。薄暗い路地裏の向こうから、商店街の店に勤めている男性たちが駆け付けた。
「どうしたんですかい! お姉さん!」
「男に襲われたんです~。何とか夫が取り押さえたんですが、とっても怖かった~」
「そいつはとんでもないことだ! この男か!」
「よくやったなお前さん! 夫の鏡ですぜ!」
「あ、ああ。まあな」
その場のノリに合わせて、サクは活気に溢れる店員に頷きながら答えた。
どうやら魔法的な何かを使ったらしい。ここから商店街に先ほどの叫び声が聞こえるはずがない。
駆けつけた男たちはサクたちに襲い掛かった男を取り押さえ、治安警備隊の駐在所へと連行されていった。最後に残った八百屋の店長にカーラは経緯を説明すると、頷いた店長はその場から去って行った。
またあっという間に事が進んでいった。唖然としているサクに、カーラが微笑んだ。
「これで1件落着ですね~」
「カーラ、もしかしてこういうの慣れてる?」
「はい~。人を魔法を使って操るのは得意なんです~」
「フワフワにも裏があるってことか……。でもそのギャップがそそられるっ!」
静かにその場でガッツポーズするサク。ただ美しいだけではなく、そういった裏の面を兼ね備える美女。良いではないか。
とりあえず、緊迫した状況は終了した。カーラの新たな一面を見られたことに喜びつつも、安堵のため息をついた。
あそこで抱き寄せられていなければ、もしかしたらあの男に刺殺されていたかもしれない。異世界に来て殺人鬼に殺されるとかシャレにならない。
今更になって変な汗が出始めたサクを心配して、カーラが近づいてくる。
「大丈夫ですか~サク~」
「ああ、大丈夫ぅぅうう!!」
「あら~」
近寄ってきたときの揺れで、乱れていた服がさらに乱れた。その結果、見事なぽろりを目の前で見せてくれた。
生である。大きな、大きなお山が2つ。ああ、生きていてよかった。こんなにも素晴らしい光景を目にすることができた。感無量である。
男の正体。カーラが異世界を知っていたこと。気になることは山ほどあったが、頭に血が上ったサクはその場に倒れてしまった。
理想郷とはおっぱいのことだった。おっぱいこそが孤高の存在。以前にもどこかで考えたそれを頭の中で繰り返しながら、サクは鼻血を流しながら意識を失った。
※
「おっぱいぃ……、大きいぃ……、はっ!」
サクは目を覚ました。何か柔らかい物を枕にした状態で寝ている。ぼやけた視界の先には、何かがあった。
ここはどこなのか。少なくとも、路地裏ではない。程よい気温と湿度。どこからか差し込んでくる日の光はオレンジ色になっていた。
枕にしている柔らかな物は温かく、いい匂いがする。精神が和らぐような香りを嗅ぎつつ、全く働く気配のない頭を回転させようと奮闘する。
とりあえず、視界の先に光を遮っている2つの山のようなものをどかそうと、手を伸ばした。しかし、どかそうと掴んだそれはとても柔らかかった。
それはそれはとても良い触り心地だった。マシュマロのようなそれをサクは揉み続ける。一体これは何なのか。そうサクが考えていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「さ、サクっ。んんっ」
「……!?」
それは喘ぎ声に近いハクの声だった。サクが飛び起きると、そこは図書館。広間ではなく、各階にある小さな読書スペースだった。
立ち上がったサクはなぜここにいるのかとびっくりしつつも、背後を振り返った。そこには開いた本で顔の下半分を隠すハクがいた。
その息は少し荒く、顔は真っ赤だった。今までに見たことのない困ったような表情でサクを見ていた。
「び、びっくりしたよ。起きたと思ったらいきなり触ってきたから」
「触ったって……、もしかして」
「……私のおっぱい。触られるって、こんな感じなんだね」
サクはその手に残っている感触を鮮明に思い出す。素晴らしい触り心地の正体は、成長したハクの胸だったのだ。
お互い、顔を真っ赤にしていた。サクは反り立とうとするそれを抑えるために、全力の内股の体勢ををとった。すっごく股間が痛い。
「カーラがサクを連れてきたの。事情を説明してくるから、預けるって言ってた。たぶんもう少しでここに来ると思う」
「そ、そうか。……えっと、その……、すまん」
とりあえず触ってしまったことを素直に謝るサク。しかしながら、返ってきた反応は予想外のものだった。
「……もう夕方になって人が少なくなってきたから、……もし、サクがまだ触りたかったら、触ってもいいよ?」
上目遣いの状態で放ったハクのそれを聞き、サクの頭から煙が上がり始める。
周囲を見渡す。人がいる感じはしない。ここでやらねばいつやるのか。男として、そしてハクが勇気を出してくれたこのチャンスを逃すわけにはいかない。
サクは唾をのみ、設置された長いソファに座るハクの前に屈んだ。お互い真っ赤になっている顔を見合わせ、無言のまま意思を確認するように2人は頷いた。
その両手がハクの成長した2つのお山に近づいていく。ハクは先ほどと同様に、本で顔の下半分を隠したままだ。尋常じゃないほどに胸が高鳴っている。心臓が吐き出しそうになるぐらい。
ようやく触れようとしたその時、2人は何かの気配を感じ取った。すぐ左横。読書スペースの外側にそれがいる。
いいようのない危機感を感じ取りながら、サクはその方向を見た。
「図書館の中で……、何をしようとしているのかしらねぇ」
顔を真っ赤にしながらも、こちらを睨むアイリスがいた。これは間違いなくアウトだ。
言い訳をしようとその場から立ち上がったサク。しかしながら内股になるのを忘れていたために、大きくなっているシンボルがばればれになってしまった。
それを見たアイリスはすぐさまサクに詰め寄り、強力なチョップをサクの頭に振り下ろした。
「こぉんの変態っ!!」
「あべしぃ!」




