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ex. オーガニック・レポート+α

 オーガニック・クロムウェルが『書き換え』の『真象しんしょう』に目覚めてから書き残したメモを参考に、知ってほしい又は助言となる部分を抜粋してまとめた。いわばオーガニック・レポートとでもいうものだ。

 別の紙袋にメモそのものも送付するが、量が膨大であるために読もうとすれば数年が掛かるためにあまりすすめない。

 『冷たい世界』との戦いが勝利で終わった後、オーガストに届けてもらいたい。よろしく頼む。


≪ローブ=リス・ロース≫







     ※※






――1p



 何が起きたのか分からない。無我夢中で自分の中で目覚めたものを行使した時、俺はローズと出会った『時』にいた。

 だが、俺は俺であって目の前で小さいときのローズと触れ合うのは『別』の俺。消身魔法を使って現在進行形で見守っているのだから間違いない。

 交わす言葉も、触れ合いも、全く同じ。それでも、そこに俺の場所はなかった。今すぐにでもローズを抱きしめて謝りたいが、それも許されない。もう彼女は『今』の俺の相棒だからだ。

 とりあえず自分自身の力を見定める必要がある。もしかしたらこの力を使えば『冷たい世界』も――、いや、どうなるかは分からない。

 得ることができた機会は絶対に無駄にできない。これからのことを書き残しながら、動いて行こうと思う。






――2p



 俺の目覚めた力の正体が分かった。名は『真象しんしょう』。その中で『書き換え』という上位に位置するものに分類されるという。

 情報提供者は『優しい世界』そのもの。もし俺のような存在が覚醒した場合、あらゆる世界は『真象』に関する情報を覚醒した存在に教える義務があるそうだ。

 これほどまでの力のことを教えてくれなかった理由は、抗えない決まり事のようなものがあるからだそうだ。となれば『優しい世界』を責めることは出来ない。

 とりあえず現時点で行使できる力を書き出す。



①『記憶を頼りに過去に転移し、そこからがこの世界の『正史』として『書き換える』』

 欠点は『書き換え』によって上書きされるあったはずの事象は跡形もなく消え去ること。

 世界の主軸を書き換えるため、あるかもしれない分岐の並行世界にも影響が及ぶ。

 『観測』の『真象しんしょう』が覚醒した存在がいればさらに範囲を拡大できるらしいが、いまのところ近辺にはいないために諦める。

 やりようによっては世界の根底を変えることもできるが、それだけの力は持ち合わせていない。

②『分身の製作』

 書き換え前、書き換え後の調整のために自らの分身を作ることができる。

 自分自身と全く同じ性能を持つ存在も生み出せれば、か弱い小動物としても作れるようだ。

 下限はないが、上限は自分自身となっている。『冷たい世界』を滅ぼせる存在は作れない。

③『対象者の記憶、精神の書き換え』

 生きる全ての存在に対して有効。強力であり、負のエネルギーが多い存在には無効。

 書き換えることで苦手の克服や恐れの排除、思想までも変えることができる。

 非人道的ともいえる力だが、より良い未来を創るためには必要不可欠な力。

④『『劾異がいい』と呼称される空間へ行ける』

 所謂世界の外側。『真象しんしょう』の覚醒した存在が外に出ると一瞬にして消滅してしまう。

 一度だけ出てみたが、『優しい世界』以外にも数多の世界が存在するのを確認できた。

 しかしながら他の世界に足を運ぶ暇などないため、しばらくはお蔵入りの力となる。



 いずれも時が経つほどに強化され、新たな力も目覚めるらしい。しかし、大幅に力を消費したためにそれはかなり後になるようだ。

 力の詳細を知ることができたが、最悪の情報も得てしまった。あの『冷たい世界』も、『真象しんしょう』が覚醒しているという事実だ。

 すでに何度も『優しい世界』を『侵食』で飲み込み、膨大な力を手に入れてしまっている。恐らくまだ眠りについている状態の奴も俺が覚醒したことを理解しているはず。

 そして『真象しんしょう』の性質が奴を滅ぼすための大きな壁となってしまった。以下に記す。



①『『真象しんしょう』同士は直接干渉することができない』

 俺の書き換えで『冷たい世界』が存在しないように『書き換える』ことができず、奴も『侵食』で俺を飲み込むことができない。

 貴重な存在であるために定められた理が大きな弊害となっている。

②『下位の存在の純粋な『力』には無力』

 簡潔に言えば覚醒していない存在の戦闘力がこちらよりも高い場合、打倒が可能だということ。

 神が人によって淘汰されたり、怪物が人に打ち取られるのと同じ。必ずしも絶対な存在ではないことを示している。


 となれば『冷たい世界』の打倒には単純に奴を上回る力を持つ存在をぶつければいいのだが、残念ながらそんな存在はいない。どうあがいても、『冷たい世界』を止めることは出来ないのだ。

 それでも諦めることは許されない。俺が最後に独断で動いた結果、ありとあらゆるものが無念のままに奴に飲み込まれた。すでに『書き換え』でなかったことになっているとはいえ、数えきれない存在が犠牲になったことは揺るがぬ事実だ。

 多くの犠牲の上に俺は立っている。後戻りすることは出来ない。この世界を存続させるため、全力を注いでいこうと考えている。






――9p



 活路が見えた。だがあまりにも時間が足らない。分身で助力をしようにもそういった方面に関しての知識が無に等しいために力になれない。

 もっと早期に研究が進んでいればどうにかなったかもしれないが、それも希望的観測に過ぎない。今はやれるだけのことをする。

 死を間近に控えた存在を別の存在として再度生み出す錬金魔法の最高位、転生魔法。その高度発展形、『異世界転生魔法』。

 あるはずと推測される世界から技術を取り入れるために研究が進められている。これを利用すれば、他の世界からこの『優しい世界』では生まれ得ない強力な存在を招き入れることができるかもしれない。

 凄まじく確立の低い賭けとなるが、これ以外に有効な打開策がない。完成のために現在『優しい世界』と検討している確実な作戦は1つあるが、人として許されるものだとは思えない所業だ。

 存続のために数度書き換えたり、助言をしてきた『今』を生きる自分を果てで犠牲にする。それも、『今』のローズと一緒に。

 やるしかないと分かっていても苦しい。自らを、そして最愛の存在を犠牲にしなければならない。

 それでもやる。遠い未来でこの罰は必ず受ける。今一度、覚悟を決めよう。






――14p



 『例』の彼らの中に俺自身の分身も潜り込ませた。これであれば、前回の被害が少しでも抑えられるはず。

 彼らそれぞれが強大であるために存在そのものを書き換えることができなかった。それでもかなり力を消費してしまった。いざというときのために温存しておくため、これ以降は大きな活動は控えなければならない。

 世界全体は『今』の俺が上手く立ち回ってくれたために一丸となってくれている。これであれば、犠牲を最小限に止めることができるだろう。

 その時は刻一刻と迫っている。悔いのないよう、精一杯の力を溜め込んでおくことにする。






――20p



 やられた。想定よりも早く『冷たい世界』が目覚めた。

 大混乱は治まりそうにない。どうすれば……






――21p



 光は消え、救世主となった騎士と竜は消えた。彼らは、『今』の俺とローズは、俺が助言を行う前に奴を封印するために動いた。

 そうさせたのは、前回その場にいなかったオーガスト、ルフ、シャーレイがいたからかもしれない。彼らを守ろうとする鋼の意思が、『冷たい世界』を無理矢理封じ込めた。

 大切な存在を失い、耐えきれずに精神が崩れ去りそうになったシャーレイの記憶を『優しい世界』が操作することで何とか持ちこたえさせる。気を失ったシャーレイはルフがギリギリで受け止めてくれた。

 『優しい世界』の操作によって数名を残してその他の記憶が置き換えられていく。そんな中で、あいつは、オーガストは見たこともないほどに大泣きしていた。

 彼女は俺が『優しい世界』と繋がっていることを知らない。そして、極秘裏に作戦が決まっていたことも。

 あるはずもない偽りの希望ある未来を夢見て動き続けた魔女。そんな純粋なオーガストから俺は『今』の俺を奪ってしまった。

 今すぐにでも全力で謝りたい。大丈夫だと言って抱きしめてあげたい。それでも、そうだとしても、何度も繰り返す通り、そこは俺の居場所ではない。

 揺るぎそうになる覚悟。そんな俺を『優しい世界』は心越しに奮い立たせた。まだ、これからなのだと。

 抑えきれない涙を垂れ流したまま俺も『書き換え』を行使して協力していく。乗り越えた先に本当に希望にあふれた未来があると信じて。






――40p



 調整の果て、ようやく『異世界転生魔法』が完成に至った。後はそれと並行して作られた『道』が繋がった世界から救世主となる存在が来てくれるのを祈るばかりだ。

 これで終わってくれるのを切に願う。すでに『冷たい世界』が目覚めるまで5年しかない。強者が来てくれますように。

 『書き換え』によって繰り返すことも可能だが、もう一度愛する存在と多くの人々が傷つくのを見たくない。悲しみは、繰り返してはならない。






――47p



 希望は潰えた。転移者は『デウミ・スジ』の精神攻撃で戦意喪失状態に追い込まれた。

 デウミが苦手とする真っ直ぐな心の輝きを彼がもっていなかったのが敗因だったのだろう。純粋な心でなかったことがここで影響するとは想定外だった。

 こうなれば敗北は必至。それでも『優しい世界』は諦めたくないと言い張る。俺自身も諦めたくないが、万に一つの勝ち目のない戦いだ。

 俺の末裔であり本来であれば守護騎士となる運命のテンガやカイア・デ・ソコといった有力者が新たな守護騎士に選ばれようとしている。しかしながら遅すぎる。遅すぎてしまった。

 やってくるであろうその時のために、溜め込んだ力を解放できるように準備を進める。まだ、まだ終わることなんて許されないのだから。







――50p



 『優しい世界』の最後まで見守るという意見を聞くことなく、戦いが始まる前に大規模な書き換えを行えばよかったと今更になって後悔している。

 世界中に響き渡る断末魔。悲痛な叫びが救われることなどなく、惨たらしい地獄が延々と続く。飲み込んだありとあらゆる存在を『冷たい世界』はいたぶって楽しんでいた。 

 何もかもが無駄であったと言わんばかりに、『冷たい世界』は絶叫する転移者を縦に切り裂いて笑う。絶望的な状況が続くのだが、唯一声を上げずに耐えている者がいた。

 オーガストだ。意地っ張りで強情、それでも本心は純情なあいつは繰り返される拷問に無言で耐えていた。その綺麗な瞳に溜まった涙を流さないよう、必死に意識を繋ぎとめている。

 もういい。諦めろ。そう声をかけようとしたところで奴の魔の手が伸びる。最後を悟ったオーガストは小さくつぶやいた。

 「大好きだったよ」

 その一言を聞き遂げた次の瞬間、俺はもう力を行使してしまっていた。たとえそれが俺でなく、『今』の俺に向けられたものであったとしても関係ない。

 また、救えなかった。愛する人々を、世界を。だが川の近くに戻った時、俺の心は絶望になど染まっていなかった。逆に、次こそはと熱い決意が固まっていく気がした。

 大好きだと言ってくれた。その思いを無為にすることは蘇った騎士としての誇りが許さない。

 必ず上手くいく。そう信じて進もう。たとえこの身が朽ち果てることがあっても、愛してくれる存在のためなら頑張れる。

 『愛があればどうにかなる』。気張れ、俺。







――1509p



 ようやく、その時がやってきた。『創造主そうぞうしゅ』といった予想外の侵入もあったが、彼であれば何とかなるはず。

 もう一度書き換えを行うだけの余力は俺には残されていない。今回が、最後の総力戦となるだろう。

 最後の世界では、驚きの連続だった。ただの犯罪者で終わる男が世界一のカレー屋になり、『例』の彼らの首領は現守護騎士の息子となってしまったり、色々とあり過ぎて困る。

 冴えないながらもしっかりと他者を愛する優しい心を持っている。本当に、彼が来てくれてよかった。

 この戦いの果てに俺が存在しているかどうかは分からない。世界もどうにかなるか分からないが、何故かどうにかなる気がする。彼、サクであれば何とかなる気がしてならない。

 俺が出してきた犠牲も報われる。そして俺はその罪を全力で償う。愛した全ての存在が守れるのであれば、消えることなんて怖くない。

 この『優しい世界』が救われることを祈りつつ、長大になったこのメモの最後とする。

 俺は、オーガニック・クロムウェル。世界存続のために奔走し続けた一人の騎士として覚えておいてもらえるとありがたい。






――ex

 


 色々と秘密にしててごめんなオーガスト。でもこれで終わりだから、許してくれ。

 救われた世界で幸せに過ごしてほしい。それだけを、心の底から願うよ。

 大好きでした。本当に、お疲れ様。










     ※※











 雲一つない快晴の空。柔らかな日差しが掃除の行き届いたバルコニーに降り注ぐ。流れる穏やかな空気は、そこが平和であることを示していた。

 そんな平穏な場所において、ひたすら料理を口に運ぶ男性とそれを満足そうに見つめる老エルフの姿があった。

 テーブルに山ほどあった料理の数々のほとんどが空になり、綺麗になった皿が積み上げられている。それだけ、老エルフが作り上げた料理は絶品だった。

 無我夢中で食べ進める男性だったが、最後の一品を手に取ったところで止まってしまう。そんな彼に対し、老エルフは笑いかける。



「初めて俺がお前に振る舞ったやつだ。どうだ『オーガニック』、懐かしいだろう」


「……ああ。最高に懐かしいよ『ルフ』。んじゃ、いただきます」



 オーガニックは昔懐かしい黄色い飲み物を一気に飲み干す。いくつもの果実を混ぜ合わせた絶妙な味は、変わることなく最高の味だった。

 空になった容器をテーブルに勢いよく叩き付け、だらしなく特大のげっぷをする。そんなオーガニックを見てルフはまるで父親のように優しく微笑んでいた。

 温かな視線に恥ずかしくなってきたオーガニックは布巾で口元を拭う。そして食べつくしたテーブルの上を確認すると、行儀よく手を合わせた。



「ご馳走様でした」


「おう、おそまつさん。んで、これからどうすんだ?」


「えっとな、それのことだが……」


「……もう帰ってこないみたいな感じだな」



 口ごもるオーガニックにルフは笑顔を向け続ける。姿こそ老けてしまったものの、ルフの頼りがいのある雰囲気は一緒に旅をしていた時と何も変わっていなかった。

 変わっていない。それだとしても、『今』のルフがその温かさを向けていたのは自分ではない。そんな後ろめたさをオーガニックは感じていた。

 ほんの少しでも顔を見たいと訪れた結果、料理のフルコースを振る舞われることにいつの間にかなっていた。大満足であるが、何故怪しむことなくここまで接してくれたのかが分からない。

 気持ちを沈み込ませながらもはっきりと答えを吐き出すために口を開こうとしたが、ルフが懐から取り出した1通の手紙を押し付けられて黙ってしまう。

 何が何だか分からないオーガニックに、無言のままそれをひらけとルフは促す。指示通りに手紙を恐る恐る開けていき、その中にあった便箋に書かれたことがオーガニックを硬直させた。



『私はあなたをまだ愛してる。もしまだ生きているなら、いつか必ず戻ってきて。byオーガスト・フォードゥン』


「――っはは。何だよ。何だよこりゃあ」


「お前の分身が書いたレポートが着いたその日にに直接俺のとこに持ってきたんだ。ちなみに俺もレポートには目を通した」


「マジか……。でもそれなら何で俺なんかに――」


「何言ってんだ。お前はオーガニックだろう?」


「あ、ああ」


「だったらそれでいいじゃねえか。もし気に入らねえってんだったら友として言うぞ。よく聞け」


「……分かった」



 いつまでも弱々しい態度のオーガニックに痺れを切らしたルフは笑顔から真剣な表情へと変わる。真っ直ぐに向けられた青い瞳に鼓動を高鳴らせていると、ゆっくりと口は開かれた。



「お前が言う『今』の自分とローズの分も生きるのがお前の罪だ。そんで、その分の俺の料理も食う罰が残ってる。この罪、償わなきゃいかんだろうが」


「罪……。でもそれは――」


「でももくそもない。これがお前の罪だ。罰してもらいたくて仕方がないんだろう? だったら罰してやるよ。だからいつまでもくよくよすんなオーガニック」


「……そうか。そうだな。変わってないな、お前」


「何言ってやがる。お前だって変わっちゃいない。愛を大切に、自らのやるべきことを貫き通す孤高の騎士。似合わないんだよ、そんな姿」


「ああ、似合わない。俺らしくないな」



 その後、お互いに見合わせて笑いあう。約700年が過ぎた今であっても、そこにあるのは信頼しあう旅の仲間の姿だった。 

 心の中の雲が晴れたオーガニックは一通り笑い終えたところで椅子から立ち上がる。その場で心地よい日差しを浴びながら背を伸ばしていると、ルフが問いかけてくる。



「んで、これからどうするんだ?」


「とりあえず、やらなきゃいけないことがあるからちょっと行ってくる。『劾異がいい』の向こう側だな」


「ほう。そりゃまた面白そうだな」


「消えたはずの俺を助けてくれた恩人が待ってるんだ。『彼』の手伝いをした後、また戻ってくるよ」


「そうか。んじゃあ、また後でだな」


「ああ。また会おうルフ。その時はまた飯食わせてくれよ」


「当ったり前よ。腹空かせて帰ってきな」


「おう楽しみにしてるよ」



 そういって笑みを浮かべるテンガの体が光を帯びていく。全身が輝きを放ち始めたところで、転移魔法のように綺麗さっぱりにいなくなってしまった。

 見送ったルフは笑みを止めることができなかった。いつかの日に消えた親友と再び肩を並べ、ともに飯を食べられることが嬉しかったのだ。彼も間違いなく、親友の『オーガニック・クロムウェル』なのだから。

 静かになったバルコニーで1人、テーブルの上を片付けるルフ。その日、上機嫌の時にしか聞けない彼の鼻歌が1日中続いたと、多くのエルフの話題になるのは後の話である。






     ※※






 無数の星がきらめくような空間にオーガニックはたどり着いた。上も下かも分からない不思議な感覚にはまだ慣れていない。

 不慣れでありながらも神秘的な空間で自らを待つ存在を探す。ゆっくりと煌めく中を進んでいけば、『彼』はいた。

 燃えるような赤髪を短く切り揃え、かなりがっちりとした無駄のない筋肉。活き活きとした太陽の色をしたこの男性こそが、オーガニックを救った人物だ。



「すいません、遅くなって」


「おお、来たか。話は済んだみたいだな。すっきりした顔してるぞ」


「ええ、お陰様で。それで何をするんでしたっけ?」


「とある世界群で厄介なことが起きててな。ちょいと様子を見つつ、手助けしようと思ってる。とはいってもやれることは限られてると思うがね」


「そうですか。分かりました。『真象しんしょう』覚醒初心者ですが、やれる限り頑張ります。えっと……、すいません、お名前は……?」


「ああそうか。まだ名乗ってなかったな。それじゃあ改めて――」



 オーガニックにゆっくりと近づいた男性は優しい笑みを浮かべながらその手を差し出す。それにオーガニックも応え、固い握手を交わした。



「俺は『グランツ・ガターリッジ』。『再生』の『真象しんしょう』覚醒者だ。よろしくな、オーガニック」
























※※※※※※※※※※
















 ――っくはははは!! あは、あっはははは、あっはっはっはっは!!


 わ、笑いが止まらないよ。まさか、私と同じ価値観を持つ存在に出会えるとは。


 それも、こんなにも近くにね。井の中の蛙大海を知らず。いや、この場合は灯台下暗しといったところか。


 なぜこんなにも余裕なのかだって? 当たり前だよ。たかが本体がやられただけであって、私そのものは消えちゃいない。

 

 布石は用意したといっただろう? 別の世界にももう拡散済みなんだよ。

 

 いずれ力を付けたそれが後の『本体』となる。楽しみだよ、その時が。


 ……何? そうなのか!? あっはっはっはっは!! それは最高のお笑い種だ!!


 自分の首を絞めたのは自分だったか! これは傑作!

 

 私の一部がたどり着いた先があのいけ好かない『創造主そうぞうしゅ』が攻めていた世界! 

 

 構築された繋がりを辿って『道』が開き、サク君がやってきたわけだ! 


 あ、あっはっはっは、ひひぐ、っひっひっっひ。ああ、腹が痛い。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。


 ふう、これからはよく考えてからばらまくとしよう。こうなることがないようにね。


 君はどうするんだい? ……ふむ。しばらくは静観か。まあ私もそうせざるを得ないけどね。

 

 それじゃあ暇つぶしに話でもしよう。なに、時間は腐る程余っている心配することはないさ。


 この私と君の出会いを祝いつつ、楽しい楽しいお話をはじめようか――






≪終≫

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