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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第三章 その手を伸ばして
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エピローグ

 雲一つない快晴の空の下で爽やかな風が吹き渡る。心地よいそれを受けた木々の葉が穏やかに揺れ、涼し気な雰囲気を作り上げていく。

 新緑が鮮やかな森に、比較的新しい道が出来ていた。首都にも続いている街道に繋がる道の奥にはそれなりの大きさの新築の一軒家がある。

 知り合いの商会の社長や自称天才兼カレー屋店長の協力で見た目の割に内部は快適。高名な魔術師達公認レベルの小さな調剤工房も備え、追加で切り開かれた場所には十分な広さの畑が広がり、旬の野菜や果物がたくさん実っている。

 ここであれば何かあってもすぐに動けるし、尚且つ望みであった『冴えない』生活を送ることができる。多機能ながらもひっそりとした場所にあるこの家は、ここに住む家族の夫の意向が強く反映されたものだった。

 引っ越しが終わった内部に新鮮な空気が流れ込み、椅子に座る夫、サクは気だるさを払拭するために背伸びをした。それを真似るように隣の席に座った美女状態のハクも背を伸ばす。



「あ~、やっとゆっくりできるなー」


「そうだねー」


「もう2週間経ったのに今日だけで何人来たか覚えてるか?」


「138人。その内知り合いはお忍びで来てくれたイヤサと叔母さんだね。これ以降のお祝いは控えるように国民全体に伝えてくれるらしいし、楽になると思うよ」


「ありがてえ。もう地下の第一倉庫が祝いの品で一杯だからな。さて、茶でも入れるか」



 まだ昼を超えていないのに重くなり始めている体を動かし、リビングに併設されているキッチンへとサクは向かう。アイリスママお気に入りのケトルを使ってお湯を沸かし、カーラの特製茶葉を惜しみなく使用して美味いお茶を生成していく。

 何気ないことで疲れを感じている自分。ほんの2年前にはこの疲れが優しく思えるほどの戦いを繰り広げたのが嘘のように思える。それだけ今が平和であるということなのだろう。

 いつまでも平穏な時が続いてほしいと願いながらサクは2つの湯呑に茶を注ぎ、ハクのいるテーブルへと戻っていく。その際に我慢できずに一口飲んでみたが暑すぎて軽く舌を火傷してしまった。早とちりはよろしくない。

 ゆったりとしたリビングでハクと一緒に茶を飲む。ふとその8開きの目は近くの棚の上に向かい、その上にあるいくつかの写真を映した。

 ハクたちの晴れやかなドレスが眩しく、彼女たちと並ぶとサクのタキシード姿が冴えなく見える結婚式の写真。この家を作るのに協力してくれた多くの友人や恩人との集合写真。コウの首都第一小学校入学式の時の写真等々。どれもが大切な思い出の物であり、サクにとって最高の宝物だ。

 


「幸せそうだね、サク」


「おう。めっちゃ幸せ」


「これからも続けばいいね。この静かな時間が」


「続くさ。続けて見せるとも。もうやるべきことは終わったんだから、余生は思う存分楽しまなくちゃ」


「サクらしいね。私もず~っと、サクの隣にいるよ」


「ああ。そうしてくれると最高にありがたい。ハクがいると心の底から安心できるよ」


「えへへ。私もだよ、サク」


「ただいま!!」



 甘々な会話を2人で続けていれば、玄関の方から元気な声が響いた。どうやら学校からコウが帰ってきたようだ。

 迎えるためにサクが席を立って玄関へと向かおうとしたところで扉が開き、元気いっぱいのコウがリビングに入ってきた。そのまま勢いを落とすことなく、輝かしい満面の笑みはサクの胸元目がけて真っ直ぐに飛び込んだ。



「お帰りコウ。学校はどうだった?」


「楽しかった! 皆と一緒に鬼ごっこしたり、新しい計算もできるようになったよ! それとね、それとね……!」


「ちゃんと全部聞いてやるから慌てるなよ~」


「うん!」



 愛らしい我が子は元気いっぱいに返事を返す。大変微笑ましい光景にサクも自然と笑顔になってしまっていると、畑からアイリスが戻り、工房からカーラもリビングにやってきた。

 一国の王女であるためにここに住めない(いずれ一緒に住む予定)レーナを除いて一家は集合。賑やかで幸せな空間を作り上げていく。

 この豊かで幸せな時が永遠に続きますように。今一度、サクは心の底から願うのだった。






     ※※






 強い生命力が感じられる草原。中央大陸の中心部、自然公園として環境が保全されている場所にテンガは立っていた。

 テンガの眼前に作られた墓には、折れた銀色の剣が取り付けられている。こここそ、忘れるはずもない友であり好敵手だった存在が消え去った場所。

 それほど派手な造りではない墓の前に持っていた花を手向ける。何かしらの節目があったときにここにやってくることが恒例となっており、今日もそのためにやってきた。



「……変わらず、世界は安定しているよ。大きな戦乱の兆しもなく、強大な魔が人々を襲うこともない。平和そのものだ」



 10年経った今でも全く変わらないいつも通りの現状報告。それを告げるテンガの表情は穏やかだったが、どこか物足りなそうなような感じも滲み出ている。

 この平和を継続させていくことが自らの使命であると分かっていても、あの時の決闘の興奮が蘇ることがある。誠意と敬意を持って臨む一切の手加減なしの決闘はあれが最後となっていた。

 


「私は平和のために剣を振るってきた。だが、人々はそれ以上の働きを私に望む。そして私は、その期待に応えようと思う。だから――」



 墓前に座り、記された名を指でなぞる。『ローブ=リス・ロース』。決して忘れることのない孤高の騎士。果てに消えた彼に対し、テンガは思いを告げる。



「見守っていてほしい。これからもこの世界が平穏を享受できるように。私は、進み続けるよ」



 なぞり終えた指を離し、決意を固めた凛々しい表情で立ち上がる。そんなテンガを後押しするかのように、一陣風が吹いた。心地よいそれを体に受け、さらに自らの熱意を上昇させていく。

 そこにいるのは誰もが憧れる理想の騎士。いや、もはやそれすらも超える存在となっていた。この世界の安寧の時を願うその瞳には一片の曇りもない。

 



『『国王』様、世界連盟の会議の時間が迫っています。至急『バードンMarkⅡ』にお戻りください』


「ああ。分かっているよファイアヘッドⅡ。すぐに飛び立てるよう準備を頼む」


『了解です』


「それと、現地にいるフェンフたちに伝えてくれ。クロアと『フロム』を私の部屋で待たせておいてほしい、とね」


『はい。すぐに伝えます』



 妻と息子のことを新しい相棒に任せ、テンガは墓に敬礼をしたのちに背を向ける。その足が草原の端にあるバードンに向かう間、爽やかな風が吹き渡り続けていた。 

 これからの希望に溢れた未来を作り上げるために新たな王となったテンガは進んでいく。さらなる『完璧』な存在を目指しながら。







     ※※








「はい、撮り終わったぞ。んでこれ写真な」


「ありがとう父さん。おお、いい感じいい感じ!」



 森の開けた場所にある家。その庭で現像された写真を受け取って確認し、爽快感に満ちた青年は満足そうに頷く。その様子を彼の家族たちは微笑ましくもどこか悲しそうな表情で見守っていた。

 すでに『冷たい世界』との戦いから20年が経った。当時安定稼働に達していなかった『ゲート』が苦節の末に完成し、最後の検証である『人の転移』をこの青年が担当することになったのだ。

 優れた科学者である大叔母のカノンが作り上げたものということもあり、青年自身は全く持って不安はなかった。それでも親としては大切な息子がどうなるのか心配でしょぷがないといった感じだった。

 1人の父と3人の母の心配した様子に気づいた青年は金色の瞳を真っ直ぐに向ける。その後自信たっぷりな勢いで家族に語り始めた。



「大丈夫だよ、父さん、母さんたち。立派とは言えないけど、俺も成長したんだから。それに『ユイ』と『フロム』も一緒! 心配することなんて何一つなし!」


「……相変わらずの自信だな『コウ』。羨ましくも思えるよ」


「そう? 父さんに褒められると何か照れちゃうな~」



 良い方向に勘違いしている『コウ』は恥ずかしそうにしながら頭を掻く。いつも通りの流れに中年のおっさんとなった『サク』は妻たちと一緒に苦笑いするしかなかった。

 純粋に、清らかに、真っ直ぐに成長したコウ。冴えないサクとは正反対ともいえるその性格と姿は素直にかっこいいと表せる好青年となっていた。

 盛大に勘違いするコウの右隣に並んでいた金髪の少女と青髪のハーフエルフの少年は特大のため息をついた。修行の一環としてついて行く己の身を案じつつ、コウに聞かれぬように静かに言葉を交わす。



「兄さんらしいけど……、どうすればここまで前向きに受け取れるのかしら」


「暗くなるよりかはましじゃないか? いざというときは頼りになるし」


「そうね。ま、やれる限り頑張りましょ。パパやママたちを心配させたくないし」


「だな。俺も親父と母さんのために頑張ろうかね」



 全く。といった感じで2人はため息をつくが、もちろんそのことにコウが気づくはずもない。決して汚れることのない輝かしい精神を持つとはいえ、少し鈍感に育ってしまった。

 これ以上心配しても無駄だと判断したサクはコウの内側にひっそりと佇む存在に意識を集中していく。それを感じ取った存在は休眠させていた意識をわずかに覚醒させた。



(頼んだぞ『権兵衛』。危なくなったら頼む)


(分かった。だが、本人が言う様に大丈夫だと思う。すでに『コウ』は私を彼方で眠らせるほど力を強めている。私が出る幕はないさ)


(そうだろうな。俺の大切で最高の息子だし)


(……何だか少し恥ずかしい。要件は済んだのだから私は再び眠るよ。また、いつかに会おう)


(ああ。またな、『権兵衛』)



 そういって今では表に顔を出さなくなった息子の本質である『権兵衛』はゆっくりと眠りにつく。その姿からは人々の悪となるために生まれた存在としての面影は全く感じられなくなっていた。

 中央大陸で出会ったときのことを懐かしく思っていれば、『ゲート』の準備は完了した。腰が痛いという最近の悩みを持つカノンは、老骨に鞭打ちながら最後の説明を開始した。



「そんじゃ、そろそろ始めるぞ。今回の実験で繋ぐ世界はあたしたちの世界と似た性質をもっている『はず』の世界だ。そこにおいて3日間過ごしてもらい、同じ場所に繋いだ『ゲート』を通って帰還してもらう。単純に聞こえるが、気を抜くなよ」


「分かってるよカノン大叔母さん。何とかなるって」


「根拠のない自信からの勇ましい返事ありがとう。後、最後に急用が入って来れないイヤサからの伝言託す。『諸君、健闘を祈る』だとさ」


「「「はい!」」」



 聞いているこちらが元気になるほどの明るい返事。活き活きとしたそれの後、機材の輪の中心に虹色の輝きを放つ穴が形成された。

 久しぶりに見る輝きを見て、≪冴久≫に手紙を出した時のことをサクは思い出す。結局届いたかどうかは分からずじまいだったが、それでもあの1件で最後の区切りをつけることができたのは確かだった。

 過去に思いを馳せていれば息子たちは『ゲート』の前に立った。全員が明るい表情でこちらに向き、旅立つ前の最後の一言を放つ準備を整える。

 この検証が完了すれば、他の世界との交流を行うことだけでなく、お互いの技術を提供しあうことも可能となる。価値観の違いから争いが生まれる危険性もあるが、そのリスクを背負ってでもやる価値があると世界連盟で承認済だ。

 未来の可能性を拡大させるために、新しい世代であるコウたちが未知の領域に挑む。送り出す側も成功を祈り、それに精一杯応えるようにコウは満面の笑みを浮かべた。



「行ってきます! 期待して待ってくれよ、皆!!」








     ※※







「――んん」



 眠りから覚めた。しかしながらこの事実がサクにとって不思議でならない。

 もう2度と、目が覚めることはないと思っていたからだ。

 最後に意識が途絶えたのはいつかの朝。そこからどれだけの時間が経過したのか見当もつかない。

 徐々に重くてしょうがない瞼を上げていく。ぼんやりとした視界は最盛期と比べるて視力も下がったためにかすみ過ぎて何が何だか分からない。

 柔らかなベッドに横たわった体は鉛のように重く、微動だにしない。そんな状態であっても、両手から人肌の温もりが感じられた。

 冷たくなり始めているサクの手を優しく包み込む4人分の手。その手の正体を目で確認することが出来なくてもサクはすぐに理解できた。

 


「おはよう、あなた」


「……おはよう、アイリス」



 右から聞こえた震える声にサクは力を振り絞って応える。握りしめる手の力が強くなったのは喜びのためか、悲しみのためか、どうなのかは分からなかった。

 お互いにしわくちゃになった手。こうなるまでずっと一緒にいた。こうなるまで、ずっと。



「大丈夫だよサク。竜とその主人は一心同体。私も一緒に行くから、安心して」


「そうか。ありがとうな、ハク」


「うん。……うん」



 アイリスの横にいるであろうハクの手は綺麗なまま。高等魔生物に明確な寿命はなく、老化もしない。その代わり、主人とともに消える定めがある。

 その生涯を終えようとしているサクに呼応し、ハクの体も消え始めているようだ。霞む視界でハクの体が輝く粒子となって分散しているのが理解できた。

 


「本当に、本当に素晴らしい生活でしたよ、サク。ずっと、ずっと、ずっと忘れません。語り継ぎます、あなたのことを。決して忘れ去られぬように」


「そこまで言われると安心できる。頼む、カーラ」


「はい。お任せください」



 ハクと同じく綺麗な手。左にいるカーラははっきりと思いを伝えてきたが、誰よりも強く手を握り、震えているように感じられた。

 1000年の寿命を持つ彼女にとってまだ転換点にも到達していない。こうなると転生魔法を受け入れなかったことが申し訳なく感じたが、人として冴えなくも真っ当に生きて真っ当に死にたいという決意が揺るぐことはない。

 いつものフワフワと最高の包容力を感じられなくなる。名残惜しく思えたがこれまでで思う存分堪能させてもらった。いつかその最高の力を自分以外の誰かに与える日が来るだろう。カーラであれば、新しい恋を実らせることも他愛ないはずだから。

 


「女王終わってからの30年、本当に楽しかったわ。あたしはあんたじゃなきゃ嫌。出会えてよかった。だからね、あんたが苦しまずに死ねるのは心の底から嬉しい。待ってなさいよ。あたしも天寿真っ当したらそっち行くから」


「そうか。向こうでも賑やかになるのが楽しみ……だな」



 元女王としての威厳を漂わせるレーナのしわくちゃの手はとても心強かった。長く続いた遠距離でのやり取りの時から全く変わらない熱い思いは今でも健在だ。

 退位後妹の話も聞かず、カイアに自らを担がせて即座に家に突撃してきたのをはっきりと覚えている。その後年甲斐もなく熱烈な攻勢を仕掛けてきたのはいうまでもない。

 色褪せない思い出。忘れるはずもない、大切な人生の記憶の数々。冴えないながらも幸せな一生。これ以上に最高な人生を送ることができたことに、サクは心の底から喜んでいた。

 苦しいこともあったが、『優しい世界』が与えてくれた恩恵である『幸運』を、そしてこの世界に来る機会をくれたオーガニックには感謝してもしきれない。

 後悔する気持ちはどこにもないのに、自然と溢れてきた涙が頬を伝う。老衰によって重くなった体はそれを拭うために動くことができない。包み込んでくれる手を握り返す力も徐々に小さくなっていってしまう。

 命の灯が緩やかに消えていく中、妻たち以外にベッドを囲んでいた家族から言葉が投げかけられる。どれもが死を悼むものや感謝のものだったが、そのほとんどを聞き取ることができない。

 最後の最後で目を覚まし、大切な家族に囲まれて老衰で死ぬ。人としての最高の終わり方は、『幸運』によるものか。はたまたサクの家族に対する愛があったからこそか。その答えは単純明快。その両方に該当し、どちらにおいてもサクが全力を注いでいたからだった。

 霞んでいたとしても開けておきたかった瞼が閉じ始める。瞳に映る輝きが消えていく中、真正面に立っている息子からの一声が鮮明に耳の中へと入ってきた。



「今まで本当にありがとうございました。父さん」


「――どういたしまして」



 真っ暗になった視界。その状態であってもサクは精一杯の笑顔をつくり、息子に、周囲の愛する人々に向ける。

 本当に、最高の終わりを迎えることができた。薄れゆく意識で喜びを実感しながら、サクは最後に一言つぶやいた。



「楽しかったなぁ……――」
































































































「……んお?」



 森の中である。いつぞやの。この光景を忘れるはずがない。



「――二度あることは三度って、そうでもないっぽいか」



 確かに初めて来た場所なのだが、何かが違う感じがしていた。今までに感じたことのない独特な浮遊感があり、空気中に小さな光がちらついている。

 呆然としていたサクがふと自らの体を見れば、そこにあるのは老体ではなく『冷たい世界』との戦いから数年後の活き活きと冴えない体だった。

 全盛期といえる状態に戻った体に少し驚きつつも、これによって自らがいる場所に見当がついてしまった。自分は間違いなく死を迎えた。用はそういう場所なのだろう。

 ともなれば悩んでいる必要はないと考えたサクは歩き出す。その足が向かう先には、大切な存在との出会いの場所があるはずだった。



「……流石にこれじゃ探すのは手間だな」



 少し開けた場所では活力たっぷりの植物たちが生い茂り、地面近くが全く見えないほどになっていた。その有様を見て例のトラバサミを見つける気が失せたサクは以前と同様に耳を澄ます。

 聞こえてきたのはいつも通りの水の流れる音。しかしながら前よりも清らかに感じるのはここがそういう場所だからか。慣れない感覚に少し戸惑いながらも再び歩き出した。

 煌びやかな森の中を抜けるまで、まるでサクのことを歓迎するかのように小さな輝きが周囲を飛び回っていた。妖精等の類とは違う不思議な輝きだが嫌な感じはない。むしろ若干心細いサクにはありがたかった。

 輝きとともに進み、いつもの川にたどり着く。二度目の時のようにテントがないことから、その場にハクはいないとすぐに理解できた。となるとどうするかと思考を巡らせ始めた矢先、



(――!! ――クっ!!)


「……これは」



 直接脳内に系。喜びに満ち溢れた声は遠いためか途切れ途切れに聞こえてくる。

 間違いなく、いる。周囲一帯に意識を張り巡らせれば、川の上流の方から猛スピードで飛んでくる小さくも強大な力を感じ取ることができた。

 守護騎士と竜は一心同体。それでも、まさかここまで一緒だとは。嬉しくてしょうがないサクは、向かってくる存在を受け止めるために上流に体を向ける。



(――っ!! サクっ!!)


「おう!! いるぞ、ここに!! 真っ直ぐ飛んで来い!!」


(うん!!)



 体と同じぐらいの大きさの翼を懸命に羽ばたかせ、小さな白銀の竜は一直線に愛する存在に向かっていく。

 離れていてもはっきりと伝わってくる愛をサクは躊躇うことなく受け止める。やがてその愛を振りまくハクは、サクの腕の中へ到達した。



(サク!!)


「ハク!!」



 お互いの名を呼びあい、喜びを分かち合う。じゃれる子犬のようにサクの顔を舐め続けるハクと、愛する存在との再会を喜ぶサクの目からは安心と喜びの涙がぽろぽろと流れ続ける。

 色々と勝手が分からない状況であっても、一緒であれば乗り切ることができる。そんな2人の再会を祝う様に多くの輝きが集まり始め、周囲に虹を形成していく。

 輝きは衰えることはなく、増幅し続ける。やれる限りを尽くしたサクとハクのこれからは、その輝きのように眩く感じられるどに素晴らしいものとなっていくのだった。






≪終≫

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