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不運? なんなく鑑定団  作者: 足羽くるる
第三章・我らが遥かなる理想郷 〜学園編〜
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第三章6 誰もが羨む天才少女

 集合場所に着いたのは時間のきっちり5分前といったところだろうか。

 この世で大層名の知れた会話アプリ、RAINで「着いたよ〜」ともうすぐ同じ場所に着くであろう親友に送る。

 送ったすぐに私のメッセージには既読が付いた。体感ほとんど直後、「今まだ電車の中」「ちょっと遅れるかも(>︿<。)」と、現在の彼女の実況報告が2件続けて届く。

「おっけー(*'-')b」

 そう返信し、スマホの画面を消した。



 ここまで私は計画的に行動してさも出来た人間に見えるかもしれない、けどそれは今日に限っては全く違って。

 そう、家に忘れてきたものがあった。

 忘れ物。普段はあんまりやらないはずなんだけど。

 それに気づいたのは電車の中。もう引き返しても間に合わないだろうと判断しここに至る。

 ここに持ってくることに意味があったものだと思うけどなんでか家を出る時にはさっぱりそのことを忘れてしまった。さらに可笑しいのはそれがなんだか忘れ物をした事しかわかっていないことだ。まあ家に帰ればなんだかすぐ分かるだろうし良いんだけど。

 覚えていないならそんな大事じゃないかと思って気持ちを切り替える。


 こうして早く着いたぶん、引き返していれば、とかそんなことをちょっとだけ後悔している。けど話をすれば彼女も理解してくれるだろう。たぶん。


 あの日私がもらった大事なもの、それはかつて、とある人から管理を引き渡されたものだった。

 任されたはいいけどあまりにも私が無知なものだからと丁寧に説明はされたはずだ。

 確かそうだった。


 それをどこかのタイミングで彼女──理沙に任せるまで、それが私の役割。確かに、そんなはずだった。


 なあんだかよくわからない。

 自分でわからないことを引き受けて自分で忘れて、ばっかみたいな出来事だけど、ほんとうに大事なのは友情、とかそういうものだよね?


 多分手紙とか何かかを渡し忘れてるんだろうけど、また忘れないようにだけメモにでも残しておけばいいかな。

 先程画面を消したスマホのメモ帳を立ち上げ、「理沙に手紙かなんかを渡す」とだけ打つ。そして上スクロールでRAINの通知に目を通そうとした、その時。


「おまたせーっ!」

 元気な声とともに待ち合わせの相手は私に抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと! 流石にやめなって」

 学校でもない、こんな知らない人の目のあるところでやるなんてちょっと、と彼女の腕を振りほどこうとするものの──ここは何故そうしたかわからないが──彼女の視線が私の持つ鞄に向けられているのを見て、咄嗟の言葉を吐き出した。

「あの、今日も持ってくるのちょっと忘れちゃった」

 少し間があくも彼女は私の背中越しに答えを返す。

「……そっか、次は持ってきてね? 約束だよ?」

「……約束する」


「今日はわたしだって約束した時間に遅れたんだし、お互い様ね!」


 ──この会話も、その後買い物だとかをしているうちにすっかり忘れてしまったが。



「はーあ楽しかったあ!」

 改札に向かって二人は連れ歩き、紙袋を両手に喜んでいる理沙はこれでもかと言うほど


「理沙ちーやっぱりすごいよ、天才」

 パンパンに膨れた紙袋を通りすがりの人も凝視するまでだ。だから見た目も重たそうなのに楽々、慣れた、と言ったものだろうか。これらの中はほとんどクレーンゲームやガチャガチャだったりの景品だ。

 正直よくあんなに取れるのかと関心してしまう。

「天才だなんて照れるってそんなあ……」

 デレデレしてる彼女の手は無意識だか意識しているのか肩の紙袋の位置をしょっちゅう直している。

「てかほんとに大丈夫?」

「全然へーき! 本気出せばまだまだいけるから!」

 その本気とは景品を持って帰れる量なのか、はたまたこれ以上に取れる技術のことなのか。

 勿論、彼女もほんとうのところこんなに持つなんて重いだろうし手伝ってあげたいという思いはあるが、前にそう聞いたところそれだったら持ったぶんあげる、というのでちょっと遠慮したかった。家は既に景品を置く場所もないし、すぐ先日にリビングや廊下に置いたことで兄に怒られてしまったりした。

 家の事情を説明してもいいかと思ったが、それだとまた今度は何か別のことで借りを返そうとしてくるから困ってしまう。彼女はそういうところ本気でやるからそこが大変なのだ。


「本気って、今まだ本気じゃなかったらあたしなんてどうなのよ……」

「? なんだろ、取れないなんて思わないで、取ったところを想像! かな。だから取りたいものもう神様に取ってやります宣言したら綾ちゃんも秒で取れるよ、秒で!」

「それは天才だけにできる技じゃ」

「もー、だから全然天才じゃないからわたしー、恥ずかしー」

 彼女は天才じゃなきゃなんなのって思うほどなんでも出来る人間だ。極めつけには中間、期末テストだって彼女は毎回学年10位以内に入る。

 私が太刀打ちできるのは正直、小学校から習っていたピアノぐらいだろうか。彼女は楽器はからっきしだが、音楽ゲームもなんでも出来るからピアノもすぐ攻略されてしまいそうだ。


 彼女はきっと、天才なんて呼び方が気に入らないのかもしれない。

 努力は勿論しているだろう。天才は努力せず元々ある才能の塊、というイメージもあることは確かにわかる。実際そんな人を見た事はないけど。

 なにより努力した結果──ゲームの腕然り、テストの点然り、それで自惚れることもないし満足もしない。まだやれると向上心に燃えている。まさに「出来る」人。

「……ずるいなあ……」

「……? 何か言った?」

「! なんでもなーい!」

 おっと思わず心の声が。


 やっぱり、何かあたしは彼女に引け目を感じるし、彼女がどうしても羨ましくて仕方ない。

「ねー、綾ちゃん、わたしの言ったこと憶えてる? 念の為だけど」



「ああ、アレ……ね」

 何度も聞いてる、知ってるアレのことも覚えていられないから。


「今度こそ、約束だね!」


「うん」

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