第三章7 ようこそ「AKB」へ
「どこ行くんだ……」
「とりあえずついて来て。話はそれから色々、ね?」
授業が終わり、いざあのカオスで混沌な空間を抜け出した訳だ。
が、さて。
それで舞は俺を引っ張りつつどこかへ向かうようだ。
目的はいざ知らず。どう言った経緯かもよく分からず。説明もなしだしあのおっさ……千駄木先生の呼び出しも応じなかったわけで。
「ほら、入って」
舞は廊下の曲がり角の外角にあたる部屋で止まりドアを開けた。
人がいなさそうだがどうだろうか。落ち着いて話せる場所でも探し当てているつもりだろうか。
「お、お邪魔します」
「……どうやら他にはいなさそうね」
舞は部屋中央の長テーブルに、こちらに向かって腰掛け腕組みをした。卓は座る機会を失い、入口近くで立って彼女の話を聞くことにした。
「早めに言っておくわ……ここまで振り回しておいて事態が飲み込めていないわよね」
「まったくその通り」
「それは……重々、私の責任でもあるのだし」
舞は俯いていた顔を上げると打ち明けるように話し始めた。
「あなたが今日、この大学に来てくれたことはある重大な意味をもたらすの」
「重大な……意味?」
「あのね、どうしても条件とか聞いたら気に食わないだろうけど……」
「まず、この私の『味方』になって欲しい」
卓はさらに意味が分からなくなった!コミュ障に空気を読めスキルの要求は無理なこった!
「あの……舞さん? で、その味方とは? 重大な意味がなんとか、とは」
「ええそうねっ、色々すっ飛ばしてごめんなさい、一から話すわ」
なにやら余所余所しいのが気にかかるが、まあこの状況が……ね?
「部活とかサークルがあるのは話したっけ?」
この大学には多種多様な部活、サークルがあり、皆目的を持って活動している。
しかし、今年から前校長に代わった新校長によって課外活動全般の活動指針が変更され、顕著な活動実績、及び社会貢献をしない部活動とサークルは活動停止もやむを得ない、というものが出来た。
超絶ざっくりな感じだがここがどういうものだとかは謎のまま。社会貢献が出来ないような活動のサークル? なんだろうか……聞いとこうかな?
「そして、ここが私たちのサークル部屋よ」
「だいたい理解。で、サークルっちゅうのには舞の他にも人はいるんだろ」
「いるっちゃい……」
舞がそう言いかけた途端、後ろの扉ががらっと開いた音がした。
「おぉおやほー! んお……誰だお前?」
振り返ると知らない女子が。ここの生徒だろう。……うん、自分の苦手っぽいオーラぷんぷんするよぷんぷん。
「あー、お前あれだな! 舞っちの彼ピッピとか言うやつだな! 悪い虫は排除排除!」
うわぁ……第二の惨劇の予感……
ここは裏コマンド上上下下左右左右BAで退場すべきだと体がそう言ってる。
とある労働する細胞の標的扱いで排除されるならそれでいいですが。むしろ喜んでこの場を出ますから……!
「しっ失礼してますね、もう立ち去りますさようなら」
「ちょまてすぐ……」
「諸君! 落ち着きな! それとそこの君、帰らない」
「……?」
だ? 誰??
「ええい今から重要な会議を始めるとしよう。皆の衆、着席だ!」
脱出失敗だ。
「残念でしたー。私一人置いて逃げるとか非道にも非道だよね? ね?」
この無性に意地の悪そうな舞の静止もあったがそれ以上に俺の脱出を阻止する要因が突如現れた! というのも、またもや騒ぎを聞きつけたと思われる……誰? 新登場キャラクターで俺は頭がいっぱいいっぱいだよまったく。
「……あーあ全員集まっちゃったー」
そこで本心呟いてる舞よ、何がしたかったのか今すぐ弁明を求める! 修羅場か。修羅場なのか。
○○○○○
「これより我らが『AKB』、緊急会議を開始するっ!!」
ということでなんかいつの間にか──騒ぎを聞きつけたか、もはや用意周到だったか知らないが──舞の知り合いと思われる数人が集結し謎の会議を開き始めた。
長テーブルとスチールラックに活動範囲を狭められた、窓がひとつしかない角部屋にこの人数だとわりと狭く感じる。さっきは感じなかったが。
とりあえずこの人の指示通り皆長テーブルの席に腰掛ける。
「今年度一番の良いニュースと行こう。今日から新メンバーが入部した」
ん!?
皆が俺を見ている。
あの、否。断じて否、だ。そのAK……ちょっとどっかのアイドルグループ? みたいなものに所属させられた覚えはないぞ!
「あの、俺は……」
席を立って抗議に出よう。あわよくばこの場から立ち去りたみが深い。嫌だよおうち帰りたい。
「何をお前、自分が新メンバーだとか言いたいのか? 笑わせるな」
「へ? 違うんですか」
へなっと座る。周りの女子が笑ってやがる。舞まで……。許せん。給料下げたろか。
そして……このひとぜったいつよい。こわい。笑わせるなとか言って全く笑ってない。
「自意識過剰なのか男子一人の状況が嬉しくてたまらないのか知らないところだが……お前は関係ないが?」
「あ、はい」
こわい。おうちかえる。
生まれ持った豆腐メンタルが今その豆腐の形状すら保てない。これは豆乳不可避……
「でそこの舞っ……琴吹副部長、そこのフィアンセを躾ておくように……
で、話がズレた。改めて新メンバーを迎え入れよう」
「あの部長その言い方は語弊があ」
「はいはーい、新入りちゃんはいってどーぞー」
この謎メン達の呼びかけに応じ、扉が開く。
そこには──天使がいた。
またも渾沌の餃子と化した闇……的ななんかを一瞬で取り払ってしまうような。
「失礼します! サークルのお部屋って、ここで合ってますか……?




