disease
あれから時が経ち、政実は数え年で20を越えた。
小健康状態が保ち続けられ、小競り合いはあるものの、大戦は1度となかった。最上と伊達は互いににらみ合っているが、南部家が南下すると、争うことを止め、傍観している。しかも、負けそうになると、助けにやって来るのだ。伊達、最上共に南部は共通の敵のようだ。
また、同盟国の佐竹らとの関係は良好で、貿易で互いに儲けている。今まではなかなか手に入りにくかったものも簡単に手に入るようになり、軍略面以外でも有用な同盟となっていた。
そんな中、1つの病が城下のみならず、国全体に広がっていた。南部領は、石鹸があったり、上下水道が設備されていたりと健康面では随一だったため、他国では病が広まってもここでは広がらなかったのだ。そんなため、大変珍しいことだった。
※※※※※
城内では人が慌ただしく動き回っており、何かあったことを表していた。
「殿、殿!」
側近の1人が慌てて仕事部屋に入ってきた。
「落ち着け、一体何があったんだ」
政実は筆を置き、視線を上げる。
「はっ。それが、実親様が《病》に伏したとの・・・・・・」
「真か!?」
政実は体を浮き上がらせ、危うく墨を溢しそうになる。
「はっ」
側近はさらに頭を下げる。
「俺も向かう・・・・・・」
席を離れ、実親の部屋の前まで来ると、
「政実様。何故ここに?今は仕事の時間では?」
愛季が部屋から出てきた。
「実親は、どうだった?」
政実は恐る恐る尋ねる。
「お医者様がいらしましたは。幸いにもただの風邪のようで、命を危ぶむまでのものでもないとのことでした」
「そうか、それは良かった」
「それより、お仕事は?」
愛季は微笑みながらつねよってくる。
「そ、それはだな・・・・・・その、実親が心配でな」
政実は終ぞ後退る。
「あなた様はこの国の頂点。あなた様不在では困ることも多いかと」
「ああ。分かっている。実親の状態さえ分かれば仕事に戻るつもりだったのだ」
「そうですか。それならばよろしいのですが・・・・・・」
それでも愛季はじっとこちらを見つめる。
「あい、分かった。今すぐ戻る」
踵を返し、颯爽と仕事場に戻る。
※※※※※
仕事場に戻ると、使者が待っていた。
「政実様、城下では病が広がり収拾が付きませぬ。今一度、病の収拾に乗り出してはくれないでしょうか?」
使者は深々と頭を下げる。
「何人死んだ?」
「まだ。しかし、老若男女見境なく患い、働き手が倒れ、これ以上は賄いきれぬ。今すぐご決断を」
些か放置し過ぎたようだ。
「家老たちを呼べ!緊急会議を開く」
※※※※※
すぐさま、城下の様子を探らせ、病の広がりを再確認させられた。
この病は南部だけでなく、陸奥、出羽の国全体に広がっていた。南部以外には既に死人も出ていて、南部だけは進行が遅れていた。
「これは・・・・・・すぐさまに対処するべきでしたね。些か甘く見過ぎたようで・・・・・・」
「対処と言っても市井では行ってはいたのですよ」
「私の領内でも盛んに医者に研究させてはいたが、大した成果を出せなかったですよ」
「例年には見なかった症状と申しておりましたな」
家老の中心人物、八戸や北、大浦、石川たちが話し合っている。
「南の方では見ない病のようで、初めて見ると」
「陸奥の国の周辺だけと・・・・・・」
「そういえば、今年は例年よりも冷え込み、畑の調子が良くなかったとか・・・・・・」
「・・・・・・そうですか。出てくるものに大した違いがなかったから大丈夫だと思ってましたよ」
「幸い、飢餓者はいなかったようですね」
話し合いは行われるものの、答えは分からない。
「例年との違い。それから原因を探そう。誰か、書いてくれ」
政実が話し合いをまとめる。
例年との違いは寒気、野菜の数が減った、餓死者がいない、戦争がない、などなど。
今回の話し合いでは原因が分からず、1度持ち帰って考えることでお開きになった。
※※※※※
「今日は、緊急会議を開いたそうで・・・・・・」
仕事を終え、病の原因に頭を抱えていたところ、愛季が話しかけてきた。
「ああ、病の原因を解明していてな」
「城下では多いようですが、近い者は誰も患ってないですね」
「近い者が誰も患ってない!?」
※※※※※
「急いで家老を集めよ!それと、もう一度市井に出てどんな者が病を患っているのか調べよ」
「はっ」
家老が集まったのは午の刻を過ぎたあたり。
「殿、原因が解明出来たとのことで?」
集まると共に、八戸政栄が口を開く。
「ああ、どうやらこれで合っているだろう」
「それで、何でしたか?」
「栄養失調だ・・・・・・」
「栄養・・・・・・失調?」
この時代、栄養失調になる前に飢餓で死ぬため栄養失調は目立たないのだ。と言うよりも、栄養失調と言う言葉などなく。栄養失調が分からないというのが現状だ。
「今は野菜が足りていない。たんぱく質などはあっても、野菜から取れる栄養が足りず、衰弱するのだ」
「はあ、そういえば、屋敷へと来る商人が申しておりましたな。下人が衰弱してしまい困ってると、本人は私たちと変わらず元気でしたが」
「そうだ。この病を患っているのは身分の低いものばかり、我々や畑持ちの百姓は元気なため、この国はどうにかなっておる」
「それで、どうするのですか?」
「野山に入り、野野菜を取る。幸いこの国に自然が多い。それでなんとかなるはずだ」
至急、命が下り民は健康を取り戻し九戸政実は求心力を高めた。それからのもの、南部では薬の開発にも力を入れるようになっていった。
ちなみに、実親は次の日にはけろりと治っていた。
短編の投稿しました。出来ればそちらも読んでください。小説名は《美酒は暗躍の後で》です。