ユメの生活① 一緒に住まない?
夕暮れのキャンパス——
オレンジ色の、もう少しで夜がやってくることを思わせるような光に…
わたしは、近付いてくる卒業式を意識させられた。
隣には青春の大半を共に過ごした友達がいる。
長い黒髪、一見冷たくも感じるすまし顔——
思慮深く、なんでも卒なくこなす“できる女子大生”——
そんな彼女が、いつものように、わたしの他愛もない話に耳を傾けている。
読書とスマホゲームを並行して進めながら……
なんて素敵なトリプルタスクだろう。
果たして、わたしの話はどこまで彼女の脳に届いているのだろうか…?
僅かに不満を抱きながらも、そんなところも好きだと感じる自分に苦笑する。
そして、改めて彼女の横顔を見つめると、覚悟を決めて口を開いた———
「ねぇ、ミオ……卒業したらさ、一緒に住まない?」
ピクッと、ミオの右手が動きを止める——
さすがに予想外だったのだろうか…?
画面の中では、ミオのお気に入りキャラが敵の攻撃を一方的に受けている。
多分、数秒くらいだと思う…
わたしにはもっと長く感じたけれど。
やがて…
スマホゲームを一時停止にすると、ミオは久しぶりにわたしの顔を見て返事をしてくれた。
「……別にユメと住むのは構わないけど、一緒に住むからにはルールとかちゃんと決めてお互い守ろうね。できる?」
「もちろん!任せといてよ…!!」
突飛な提案だったかもしれない…
そう思い始めていただけに、受け入れてもらえた事がただただ嬉しかった。
身を乗り出して抱きしめようとしたけど、“前が見えないから”と軽くあしらわれてしまう。
それもいつものことだけど…
その時は、いつもより僅かに照れたような顔をしていた気もした。
これが、わたしたちが同居を決めた時の会話である。
……
あれから半年——
わたしとミオの同居生活は、上手くいっている…と思う。
「ねぇ…!ねぇってば!!」
「……なに?」
「ミオ、またこのソーセージ、駅前のスーパーで買ったでしょ。商店街のスーパーの方が20円も安いんだよ?」
「…でも、商店街のスーパーまで足を延ばしてたら20分はロスしてたし、もっと疲れてたよ。
その分の時間と労力を20円で買えたと考えれば、むしろ得だと思うけど。
ユメもその分、早く私の顔が見れたんだから嬉しいでしょ…?」
「それは……そうじゃなくて!!」
「……相手の買い物にケチをつけないっていうルールも追加しとくべきだったかな。
———今日はもう疲れたから部屋で休むね。」
「今帰ってきたとこなのに…?!
“早く顔見れて嬉しいでしょ”って言ってくれたじゃん…!」
「もう顔見たでしょ…?じゃあね。」
言うが早いか、ミオの姿はもう部屋へと消えていた——
もっと話したいこといっぱいあるのに……。
パタンと閉まった扉に、そんな想いをぶつける。
……
この半年で分かったこと——
それは…
ミオはわたしが思ってたよりも面倒がりで、ひとりで過ごすのが好きということだ。
じゃあなんでわたしと住むのをオーケーしたのだろう…?
前にもそんな疑問が浮かび、ミオに意思を確認したことがあった。
「ミオ…やっぱり嫌だったら、一緒に住むのやめてもいいんだよ?」
「…別に嫌じゃないよ。そう慌てて決めることもない。」
「そう…?それならいいけど。」
「ユメは…?」
「ん?」
「ユメはどう…?私といるの、嫌になった?」
——その時は、“そんなわけないでしょ!!”って抱きしめた。
だって、ミオがすごく不安そうな顔をしていたから。
……
そういえば…
高校生活の最後、同居の提案を受け入れてくれた後——
実際に同居がスタートするまでの間、ミオは、
“いかに自分が面倒な人間か”
や
“共に住んだらどんなデメリットが想定されるか”
をしきりに語っていた。
何度も、わたしの覚悟を試すように。
——ミオは、外と内で結構違う。
今でも周りからは“できる女”として見られてるし、それに相応しいように立ち回ってる。
逆に家では、だらしなかったり、必要に迫られるまで用事を先延ばししたりする。
きっと、それは本人も自覚してて…
そんな一面をわたしが受け入れるのか心配だったのかもしれない。
そんなミオが好きだし、もっと安心してもらいたい…
そう思ったわたしは、昔よりも、もっと率直に好意を伝えるようになった。
…たまにウザがられるけど。
でも、そのお陰で最近は不安そうな顔を見なくなった。
……
ソーセージのやり取りも、部屋に籠もっちゃうのも、わたしに遠慮しなくなったのだと思えば嬉しい面でもある。
話は食事の時に聞いてもらえばいいし、高いスーパーでソーセージを買ったのも許せないってほどの話ではない。
それでもお小言のように口に出してしまったのは、まぁ半分は癖みたいなものだ。
本当の望みは1つだけ…
この家が、ミオにとって安らげる場所であってほしい。
きっと、今日も外で“できるミオ”を演じてきたのだろう…。
だから、今はゆっくり休んでね。
……
スマホが短く鳴った。
同じ家にいるのに、たまにこうしてメッセージがくる。
『さっきはごめん。いつものプリン買ってるから、ユメが好きな時に食べてね。』
絵文字もない、いつものミオの文章だ。
そんなわたし宛のメッセージに、思わず顔がにやける。
“そのプリンは、商店街のスーパーの方が10円安いんだよ…?”
そう思いながら『ありがとう♪』と返事をした。




