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『NEO横浜電脳租界 〜違法感情AIと美少女配信者〜』  作者: 神代零


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第九十七話 「憩い」

 ノーマッド地下拠点。


 巨大薬湯施設。


 赤いネオン暖簾が揺れている。


《薬湯》


 どう見ても違法サイバーパンク地下施設なのに、

 妙に落ち着く空間だった。


 レンは脱衣所前で呆然としている。


「なんで地下要塞に大浴場あるんだよ……」


 ハヤトはタオルを肩に掛けながら答える。


「逃亡生活は疲れる」


「だから風呂は大事」


「妙に説得力あるな……」


 コメント欄爆笑。


《風呂回》

《サイバーパンク銭湯》

《地下温泉施設》


 その時。


 黒犬が静かに言った。


「……合理的だ」


「お前も肯定するの!?」


 黒犬は真顔。


「戦場だと」


「風呂入れるだけで士気が違う」


 レンは少し黙る。


 確かに。


 ずっと戦ってばかりだった。


 Emotion Crash。


 LUX。


 ヨコヅナ。


 市場戦争。


 神経が休まる暇がない。


 その時。


 ハヤトがニヤつく。


「あと飯と風呂あると」


「人間ちょっと仲良くなる」


 レンは少し笑う。


「昭和の寮かよ」


「古い人類の知恵だ」


 その頃。


 別区画。


 女性側薬湯。


 湯気。


 ネオン照明。


 薬草の香り。


 美玲は湯へ浸かりながら、

 少しぼーっとしていた。


「……あったかい」


 藍華が笑う。


「完全にオフじゃん」


「うん……」


 赤い瞳が、

 少しだけ柔らかい。


 今だけは。


 世界最大配信者じゃない。


 感情市場の中心でもない。


 ただの女の子だった。


 その時。


 藍華が聞いた。


「美玲さ」


「今楽しい?」


 少し沈黙。


 湯気が揺れる。


 そして。


 美玲は小さく頷いた。


「……うん」


 藍華は少し驚く。


 その笑顔は、

 配信中の《MAY-LIN》じゃない。


 本当に自然な顔だった。


 一方その頃。


 男側。


「っはぁぁぁ……」


 レンが風呂へ沈んでいた。


「生き返る……」


 ハヤトは笑う。


「だろ?」


 黒犬は静かに湯へ浸かっている。


 完全に極道温泉だった。


 その時。


 《EYES》が静かに表示する。


《感情波安定》


Emotion Crashリスク低下



睡眠推奨


「AIに風呂褒められた……」


 レンは苦笑する。


 だが。


 本当に少し楽だった。


 戦いから離れて。


 仲間がいて。


 飯食って。


 風呂入って。


 ただそれだけなのに。


 その時。


 ハヤトが静かに言った。


「……居場所ってのはな」


 湯気の向こう。


 フィクサーの顔が少し真面目になる。


「案外こういうもんだ」


 レンは黙って聞く。


「世界救うとか」


「市場壊すとか」


「デカいことは後だ」


「まず」


 ハヤトは笑った。


「ちゃんと休める場所作れ」


 沈黙。


 レンは少しだけ思う。


 この男。


 逃げるし。


 雑だし。


 コンビニ弁当ばっかだけど。


 多分。


 クルーの“居場所”を、

 一番分かっている人なのかもしれなかった。

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