第七十八話 「朝焼けライブ」
池袋北環状区。
Emotion Crash事件の翌朝。
壊れたネオン広告。
停止した違法ドローン。
静まり返ったスクランブル広場。
なのに。
空気だけが違っていた。
昨夜までの、
赤黒い熱狂が消えている。
代わりに残っていたのは。
妙な静けさだった。
レンは崩れたベンチへ座り込み、
缶コーヒーを飲む。
「……終わったな」
《EYES》が静かに表示する。
『池袋Emotion Crash事件』
『収束確認』
「長かった……」
その時。
遠くから音が聞こえた。
電子音。
低いベース。
ネオンノイズ。
レンが顔を上げる。
「……また?」
池袋中央大型スクリーン。
そこへ、
《MAY-LIN LIVE》が映し出されていた。
《MORNING LIVE》
コメント欄爆発。
《朝ライブ!?》
《寝てないの!?》
《化け物体力》
「本当に寝ろよ……」
レンが呆れる。
だが。
スクリーンへ映る美玲は、
昨夜より少し柔らかい顔をしていた。
朝焼けネオン。
青白い空。
赤い瞳。
まるで。
夜を越えた歌姫だった。
その時。
電子音が静かに流れ始める。
⸻
♪「Neon rain 消えた morning light」
♪「昨日まで crying in the night」
♪「でも君がいたから
我还在这里(私はまだここにいる)」
⸻
池袋の人々が立ち止まる。
会社員。
配信者。
学生。
昨夜Emotion Crashしていた人まで。
誰もが、
静かに聞いていた。
レンは思う。
これはもう。
ただの配信じゃない。
都市そのものを癒してる。
《EYES》が感情波を表示する。
『都市感情波:安定化傾向』
「……歌で感情制御してるのか」
その時。
《NOISE》が隣へ現れた。
眠そうな顔。
フード姿。
「……異常」
「どっちが?」
「MAY-LIN」
レンは苦笑する。
「まぁ否定できん」
《NOISE》はスクリーンを見る。
「でも」
「嫌いじゃない」
珍しく、
少しだけ笑っていた。
その時。
《MAY-LIN LIVE》の数字が更新される。
『登録者数:7億8000万人』
『同時接続:15億1000万人』
レンは静かに缶コーヒーを置き。
「だから増え方おかしいってぇぇぇ!!」
朝の池袋へ、
いつもの絶叫が響いた。




