第七十三話 「感情接続」
《EMOTION LINK MODE》
起動。
その瞬間。
感情海の色が変わった。
赤黒かった濁流へ、
青と赤の光が混ざり始める。
歓声。
怒号。
炎上コメント。
その奥に埋もれていた、
本当の感情が浮かび上がる。
《誰か見て》
《一人にしないで》
《繋がりたい》
レンは目を見開く。
「……聞こえる」
《EYES》が静かに反応。
『深層感情接続成功』
今まで。
レンは感情を“見る”だけだった。
だが今は違う。
10億人分の感情へ、
直接触れている。
孤独。
憧れ。
不安。
恋愛。
全部。
人間そのものだった。
その時。
《JOKER》が後ずさった。
『やめろ』
巨大感情怪物が揺らぐ。
赤黒いノイズが崩れ始める。
『見るな!!』
レンは気づく。
《JOKER》は。
怒ってるんじゃない。
怖がってる。
その瞬間。
美玲が静かに前へ出た。
「ねぇ」
赤い瞳が、
真っ直ぐ《JOKER》を見る。
「なんでそんなに燃やしたの?」
感情海が静まる。
《JOKER》は答えない。
だが。
《EYES》は見ていた。
感情コアの奥。
小さな記憶。
暗い部屋。
誰にも見られない配信。
ゼロ再生。
無反応。
孤独。
レンは息を呑む。
「……お前」
「最初は」
「誰かに見てほしかっただけか」
空気が止まる。
《JOKER》の瞳が揺れた。
『……黙れ』
赤黒い感情が暴れる。
だが。
もう前みたいな勢いがない。
美玲は静かに言った。
「私も同じだった」
レンが振り向く。
美玲の赤い瞳が、
少し寂しそうだった。
「配信始めた時」
「ずっと怖かった」
世界最大の配信者。
5億6000万人登録。
10億同接。
そんな彼女にも、
始まりがある。
「見られなかったらどうしようって」
感情海が揺れる。
世界中の視線が、
彼女へ集まる。
「でも」
美玲は少し笑った。
「レンがいたから」
コメント欄爆発。
《婚約者ーー!!》
《ここで言う!?》
《尊い》
「世界が感情的すぎる!!」
レンが叫ぶ。
だが。
その瞬間。
感情海が、
少しだけ暖かくなった。
《JOKER》は呆然と立っている。
巨大感情怪物の身体が、
少しずつ崩れていく。
そして。
《EYES》が静かに表示した。
『Emotion Crash減少確認』
池袋の感情が、
変わり始めていた。




