第七十一話 「十億人配信者」
ドォォォォン!!
《MAY-LIN LIVE》の赤い光が、
池袋感情コアを貫いた。
赤黒い海が揺れる。
Emotion Crashの濁流が、
少しずつ押し返されていく。
歓声。
驚き。
涙。
世界中の感情が、
赤い龍となって広がっていた。
《JOKER》が顔を歪める。
『なんでだ……』
『なんで押し返せる!?』
巨大な感情怪物が暴れる。
だが。
《MAY-LIN LIVE》の光は止まらない。
レンは呆然とその光景を見ていた。
「……10億人」
《EYES》が静かに表示する。
『同時感情接続:10億1000万人』
世界規模。
もはや、
一人の配信者が扱う数字じゃない。
だが。
美玲は立っている。
感情海の中心で。
壊れずに。
レンは理解する。
この少女は。
ずっと一人で、
こんな感情を背負ってきた。
「……美玲」
その時。
感情海の奥から、
無数のノイズが溢れ出す。
《もっと見たい》
《もっと繋がりたい》
《一人にしないで》
レンは息を呑む。
違う。
これは。
炎上だけじゃない。
孤独だ。
Emotion Crashした人間たちは、
ただ壊れてるんじゃない。
“誰かと繋がりたかった”。
その感情が、
暴走している。
美玲もそれに気づいていた。
「……寂しかったんだ」
赤い瞳が揺れる。
「みんな」
その瞬間。
《JOKER》が叫んだ。
『綺麗事だ!!』
『結局人間は数字しか見てねぇ!!』
感情怪物が再暴走。
赤黒い津波が襲いかかる。
だが。
美玲は静かだった。
そして。
レンへ手を伸ばす。
「レン」
「……何」
「一緒に繋いで」
空気が止まる。
《EYES》が反応。
『共同感情同期要求』
レンは固まる。
「え」
《NOISE》が通信越しに叫ぶ。
『待って!!』
『それ10億人感情直結だよ!?』
藍華も悲鳴。
『普通の脳じゃ耐えられない!!』
だが。
美玲は笑う。
「でも」
赤い瞳が真っ直ぐ向く。
「レンなら大丈夫」
コメント欄爆発。
《婚約者ーー!!》
《信頼度カンスト》
《青春サイバーパンク》
「世界が自由すぎる!!」
レンは頭を抱える。
だが。
目の前の少女は、
本気だった。
一人で10億人を背負っている。
なら。
自分だけ逃げるわけにはいかない。
レンは深く息を吸った。
「……ったく」
《EYES》が起動する。
青白い光。
感情海が揺れる。
「落ちても知らねぇぞ」
美玲が笑った。
「うん」
次の瞬間。
二人のデッキが、
感情海の中心で同期した。




