第七話 「港湾第七学園の女王」
「もっと壊れるから」
「嫌すぎるだろその宣言」
レンは本気で帰りたくなっていた。
だがもう遅い。
港湾第七学園の正門前では、
未だに学生たちがざわついている。
「え、マジで付き合ってんの?」
「《MAY-LIN》が男連れてるとか初めて見た」
「朝霧レンって誰?」
「底辺科の陰キャじゃね?」
「やめろ聞こえてる」
レンは頭を抱えた。
一方で美玲は平然としている。
慣れているのだ。
視線にも、
噂にも、
炎上にも。
それが租界最大級配信者《MAY-LIN》。
「行くよ」
「どこへ」
「教室」
「お前ほんとに通ってたのかここ」
「失礼」
二人は校舎へ入る。
港湾第七学園。
租界特区の巨大複合学園。
普通科だけではない。
AI工学科。
配信メディア科。
国際金融科。
都市統制システム科。
企業と直結した、
半分職業訓練施設みたいな学校だった。
廊下には多言語広告が流れている。
『本年度企業推薦AI適性試験受付中』
『感情スコア優秀者には奨学特典があります』
『恋愛信用値の低下にご注意ください』
「終わってる社会だな」
「今さら?」
美玲が笑う。
すると。
廊下の奥から女子生徒たちが現れた。
「美玲おはよー!」
「昨日の配信やばかった!」
「企業案件断ったのマジ!?」
囲まれる。
レンは一瞬で理解した。
完全に学園ヒエラルキー最上位だ。
しかもただの人気者じゃない。
金。
知名度。
影響力。
全部持っている。
美玲は軽く手を振る。
「おはよ」
その自然な姿に、
レンは少し驚いた。
配信中ほど派手じゃない。
でもクラスメイト相手には、
ちゃんと普通の女子高生をやっている。
その時。
《EYES》が反応した。
『対象:周囲女子生徒
感情分析
羨望:高
嫉妬:中
恐怖:低』
レンは眉をひそめる。
やっぱりこのAI、
性格が悪い。
すると突然。
「――で?」
低い声。
廊下の空気が変わった。
人混みが左右に割れる。
現れたのは、
一人の男子生徒だった。
長身。
黒髪。
高級そうな学園コート。
そして、
明らかに“育ちが違う”雰囲気。
「うわ」
周囲がざわつく。
「白石先輩……」
「生徒会長」
レンは嫌な予感しかしなかった。
男は真っ直ぐ美玲を見る。
「林美玲」
「何」
「その男は?」
レンは察した。
面倒なやつだ。
美玲は平然と答える。
「配信スタッフ」
「へえ」
白石はレンを見る。
笑っている。
だが目は笑っていない。
「朝霧レン、だったかな」
「……どうも」
「君、面白い噂が出てるね」
レンの背筋に寒気が走る。
《EYES》が自動反応する。
『対象:白石景
感情状態:敵意
独占欲:高
嫉妬:強』
「うわ」
「何か言った?」
「いや別に」
レンは即座に端末を閉じた。
危ない。
このAI、
いつか絶対殺される。
白石は美玲へ視線を戻す。
「君が誰と関わろうと自由だ」
「なら話終わり?」
「ただ」
空気が冷える。
「租界は“格”を間違えると死ぬよ」
レンは眉をひそめた。
脅し。
しかもかなり露骨。
だが美玲は笑った。
「昭和みたい」
「……」
「そういうの、配信で流したら炎上するよ?」
白石の表情が僅かに歪む。
周囲が息を呑む。
完全に火花が散っていた。
すると。
キーン、と校内音声。
『本日の感情適性測定を開始します』
『全生徒は端末を起動してください』
レンの顔が引きつる。
「……最悪」
「どうしたの?」
美玲が覗き込む。
レンは小声で言った。
「俺の《EYES》、学校検査通ったことない」




