第六十七話 「感情海」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
レンの叫びが、
感情の濁流へ飲み込まれる。
世界が崩壊していた。
ネオン。
歓声。
怒号。
広告。
全部が溶けて、
巨大な赤黒い海になっている。
感情海。
池袋全域のEmotion Crashが、
一つへ繋がっていた。
《EYES》が必死に情報を流す。
『深層感情ネット接続』
『感情波同期率:危険域』
『人格汚染注意』
「ぐっ……!」
レンは頭を押さえる。
流れ込んでくる。
他人の感情が。
怒り。
孤独。
承認欲求。
炎上への快感。
全部。
全部が混ざっていた。
「これが……池袋の感情……!?」
その時。
赤い光が隣へ現れる。
美玲だった。
ネオンみたいな赤い輪郭。
感情海の中でも、
彼女だけは形を保っている。
「レン」
「……平気なのかよ」
「慣れてる」
「慣れるなそんなの!!」
コメント欄が視界の端を流れる。
《うおおおお!!》
《感情ダイブ編!!》
《映像ヤバすぎ!!》
「なんでこれ配信できてんだよ!!」
だが。
美玲は少し真面目な顔になる。
「配信してるから保ててる」
「……え?」
「4億人以上と繋がってる」
赤い瞳が静かに揺れる。
「だから私は私でいられる」
レンは息を呑んだ。
この少女。
世界中の感情を背負って、
立っている。
その時。
感情海の奥で、
巨大な何かが脈動した。
ドクン。
ドクン。
都市サイズの感情波。
《EYES》が警告を出す。
『高濃度感情核検出』
レンの顔が変わる。
「……なんだアレ」
赤黒い海の中心。
巨大な心臓みたいなものが脈打っていた。
怒号。
歓声。
笑い声。
全部を吸い込んでいる。
《NOISE》の声が通信へ割り込む。
『見つけた』
『池袋感情コア』
藍華も叫ぶ。
『アレがEmotion Crashの中心!』
その瞬間。
感情海が揺れた。
巨大な赤い瞳が開く。
そして。
《JOKER》の声が響く。
『ようこそ』
感情の海全体が笑う。
『池袋の本音へ』




