第二十七話 「一億への熱狂」
『7,000万人突破』
その数字は、
もはや国家規模だった。
配信部屋のモニター群が、
赤と青のネオンみたいに瞬いている。
コメント欄は完全暴走。
《MAY-LIN!!》
《世界一の配信者》
《地下街編映画化しろ》
《レン働け》
「なんで俺だけ扱い雑なんだよ」
「愛されてるじゃん」
「絶対違う」
レンは頭を抱える。
だが。
《EYES》が示す感情波形は、
さっきまでと変わっていた。
『強制依存率:低下』
『自発的共感率:上昇』
レンは小さく息を呑む。
周天宇が作ろうとしていたのは、
“支配された熱狂”だった。
でも今、
視聴者たちは違う。
彼らは自分の意思で、
《MAY-LIN》を見ている。
「……皮肉だな」
「何が?」
「LUXの実験なのに、お前自身の人気になってる」
美玲は少し黙った。
やがて。
「……そうだといいけど」
その笑顔は、
少しだけ不安そうだった。
その瞬間。
配信部屋の外で爆音。
窓ガラスが揺れる。
『対象M-01を発見』
『制圧を開始します』
「うわ来た!」
レンが叫ぶ。
九龍街上空。
大量の戦術ドローン。
さらに。
対人制圧用の大型機まで投入されていた。
「LUX本気すぎるだろ!?」
「7000万人配信で失敗したら企業価値吹き飛ぶからね」
「資本主義怖ぇ!!」
だが美玲は落ち着いていた。
むしろ。
赤い瞳が、
静かに燃えている。
「……ちょうどいい」
「何が?」
「見せる」
彼女は端末を操作する。
瞬間。
全撮影ドローンが展開。
部屋の壁面が開き、
九龍街夜景が現れる。
ネオンの海。
雨。
無数のホログラム広告。
そして。
上空を埋め尽くすLUXドローン群。
「おい待て」
レンが嫌な顔をする。
「まさか外出る気か?」
「配信ってね」
美玲は不敵に笑う。
「“引き”が大事なの」
「配信者思考やめろ!」
その時。
《EYES》が警告を出す。
『都市感情熱量上昇』
「……え?」
レンが窓の外を見る。
九龍街の人々が、
スマホやAR端末を掲げていた。
全員、
《MAY-LIN LIVE》を見ている。
屋台の店員。
学生。
地下住民。
タクシー運転手。
配信者。
みんな。
都市全体が、
今この配信へ熱狂していた。
「……なんだこれ」
レンの声が震える。
美玲は静かに呟く。
「感情都市」
「は?」
「配信ってね」
彼女は窓の向こうを見る。
「都市そのものを熱狂させるんだよ」
次の瞬間。
九龍街の巨大モニターが一斉点灯した。
《MAY-LIN LIVE》
ネオン都市全体が、
彼女の名前で染まっていく。
そして。
《EYES》は、
新しい数値を表示した。
『登録者数
7,840万人』




