第二十五話 「配信者のアンチ対策」
地下層K-13から地上へ戻る非常昇降機は、
旧雑居ビルの裏口へ繋がっていた。
錆びた扉。
湿った夜風。
そして。
ネオン雨の《NEO横浜電脳租界》。
「……帰ってきた」
レンが息を吐く。
だが街の様子は明らかにおかしかった。
巨大ホログラム広告。
街頭モニター。
電車広告。
全部が《MAY-LIN LIVE》になっている。
『現在登録者数
5,320万人』
「増えすぎだろ!?」
「うわ……」
美玲もちょっと引いていた。
コメント欄は完全に祭り状態。
《地下街編ヤバ》
《リアルサイバーパンク》
《メイリン強すぎ》
《レン誰だよ》
「最後ひどくない?」
「頑張って有名になって」
「軽いなぁ!?」
だが次の瞬間。
《EYES》が警告を表示。
『周囲感情熱量:異常』
レンは顔をしかめた。
街の人間たちが、
皆どこか興奮している。
《MAY-LIN》配信の影響だ。
「……感情同期、街まで広がってる」
「分かってる」
美玲の表情が険しい。
「だから急ぐ」
二人は九龍街の裏路地へ入る。
古い雑居ビル。
狭い階段。
多言語の違法広告。
そして。
美玲は一つの扉を開いた。
「ここ」
「……普通の部屋?」
レンが入った瞬間。
照明が自動起動する。
そして。
「うわっ!?」
部屋中に無数のカメラが浮かび上がった。
配信機材。
高性能モニター。
リングライト。
壁一面の演算サーバー。
さらに。
天井格納庫みたいなスペースに、
大量の小型ドローンが吊られていた。
「な、なんだこれ……」
「配信部屋」
「規模がおかしい」
美玲は平然としている。
「ここは戦術配信仕様」
「戦術って言った!?」
彼女は端末を操作する。
すると。
格納ラックが開いた。
黒銀色のドローン群。
普通の配信機材には見えない。
「……おい」
「何」
「これ武装してない?」
「最低限」
「最低限の概念壊れてる!」
美玲は一機を掴む。
流線型。
赤いレンズ。
側面には《M-LIVE》ロゴ。
「この子たち、元々アンチ対策用」
「アンチのレベル高すぎるだろ租界!」
だがレンは気づいた。
このドローン。
ただの武装機じゃない。
《EYES》が解析を始める。
『感情同期補助機能』
『ライブ配信演算支援』
『群体制御AI』
「……群体?」
「私の配信って、一人でやってるように見えるでしょ」
美玲がニヤッと笑う。
「実際はこの子たちと一緒」
次の瞬間。
彼女が指を鳴らす。
ブゥン――
十数機のドローンが一斉起動。
部屋を高速旋回する。
「うおっ!?」
レンが思わずしゃがむ。
だがドローンたちは、
美玲の周囲を綺麗に飛行していた。
まるで群れ。
完全同期。
その姿は、
少し幻想的ですらあった。
「……すげぇ」
レンが素直に呟く。
美玲は少しだけ目を丸くする。
「何」
「いや、普通にカッコいいなって」
一瞬沈黙。
《EYES》が反応。
『対象:林美玲
感情状態:照れ』
「……アンタさ」
「ん?」
「そういうの配信で言うと切り抜かれるよ」
「なんで!?」




