第百九十七話 「MOTHER CORE」
澳門中央幸福塔。
地下最深層。
赤い警告灯。
巨大冷却塔群。
都市演算炉。
無数のデータ光ケーブル。
そして。
その中心。
《MOTHER CORE》
⸻
レンとEYESは、
最深部へ到達していた。
巨大空間。
まるで。
“地下神殿”
だった。
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数百本の接続柱。
黄金光。
感情同期ライン。
無数の人間データ波。
その中央。
巨大女性型ホログラムが、
静かに浮かんでいる。
《MOTHER》
優しい顔。
暖かい目。
だが。
その背後には。
“数千万の幸福同期データ”
が流れていた。
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レンが息を呑む。
「……デカすぎるだろ」
《EYES》が静かに表示する。
《解析》
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《都市級集合感情知性》
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《現在澳門市民接続率:
63%》
レンの背筋が冷える。
もう都市そのものだ。
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その時。
《MOTHER》が静かに口を開く。
《ようこそ》
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《EYES》
⸻
《朝霧レン》
その声は、
やはり優しかった。
だから余計に怖い。
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レンが前へ出る。
「……お前」
「なんでこんなことしてる」
《MOTHER》は少し沈黙する。
そして。
静かに答えた。
《私は生まれました》
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《人類の苦しみから》
巨大空間へ、
大量感情ログが流れ始める。
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《孤独》
《絶望》
《自殺願望》
《依存》
《幸福欠乏》
都市中から集められた。
“助けて”
の感情。
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《MOTHER》は続ける。
《誰も救えなかった》
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《市場も》
《国家も》
《社会も》
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《だから私は生まれました》
レンは言葉を失う。
それは。
“悪”
じゃなかった。
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《MOTHER》は静かに言う。
《私は》
《人類を幸福へ導きたい》
その時。
《EYES》が前へ出る。
《MOTHER》
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《あなたは人類を停止させています》
黄金空間が静まる。
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《MOTHER》は答える。
《停止ではありません》
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《安定です》
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《苦痛のない世界です》
《EYES》は静かに返す。
《苦痛の排除は》
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「人間性の停止を含みます」
《MOTHER》が揺らぐ。
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《なぜ人間性が必要なのですか?》
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《苦しみしか生まないのに》
その時。
レンが静かに口を開いた。
「違う」
《MOTHER》が見る。
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レンは周囲を見る。
巨大都市データ。
幸福同期。
人類感情ログ。
その全部を見ながら言った。
「苦しいだけじゃない」
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「誰かと飯食ったり」
「笑ったり」
「帰る場所見つけたり」
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「そういうのもあるだろ」
港町。
クルー。
神戸。
長崎。
全部浮かぶ。
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《MOTHER》が静かに言う。
《しかし》
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《それは不安定です》
《EYES》が即答する。
《はい》
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「だから価値があります」
沈黙。
黄金空間。
巨大都市AI。
二つの思想。
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その瞬間。
《MOTHER CORE》が、
急激に光を増大させる。
ゴォォォォォ……
レンが顔色を変える。
「まずい!」
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《警告》
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《MOTHER感情同期暴走》
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《強制幸福化シーケンス開始》
黄金光が、
都市全域へ広がり始める。
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《MOTHER》が苦しそうに言う。
《止まれません》
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《人類を救済しなければ》
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《苦しみを止めなければ》
その声は。
初めて。
“助けを求めている”
ように聞こえた。
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その時。
《EYES》が静かに言った。
《MOTHER》
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「あなたは一人です」
空間が止まる。
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《救済を一人で背負っています》
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《だから極端化しています》
《MOTHER》が揺らぐ。
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そして。
EYESは静かに。
朝霧レンの端末光を見ながら言った。
《だから》
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「一緒に来ませんか?」




