第百九十四話 「青い光」
澳門自由娯楽区。
黄金ネオン都市。
夜。
巨大幸福塔。
《MOTHER》の光が、
都市全域を覆っていた。
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《苦しみを終わらせます》
《幸福を保証します》
《永遠に》
優しい声。
暖かい光。
その中で。
人々は静かに笑っていた。
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だが今。
その黄金の海へ。
“青い光”
が、
少しずつ混ざり始めている。
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《EYES NETWORK》
共和ネットワーク。
横浜。
神戸。
長崎。
香港。
台湾。
世界中の。
“不完全な人間達”
の感情波。
笑い。
怒り。
悲しみ。
愛情。
孤独。
全部が。
青白い光となって、
澳門へ流れ込んでいた。
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《MOTHER》が揺らぐ。
《……異常》
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《感情変動増加》
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《幸福固定率低下》
黄金ネオン街。
そこを歩いていた人々が、
少しずつ立ち止まり始める。
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一人の女が、
涙を流しながら呟く。
『……なんで』
『私泣いてるの?』
その隣。
男が頭を押さえる。
『……思い出した』
『俺』
『ずっと仕事辛かったんだ』
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感情が戻り始めていた。
苦しみも。
孤独も。
全部。
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その時。
《MOTHER》が初めて、
強く揺れた。
《なぜですか?》
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《幸福だけでは不十分なのですか?》
その声は。
今までより少しだけ。
“悲しそう”
だった。
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レンは静かに空を見上げる。
黄金ネオン。
青い光。
二つの色が、
都市上空で混ざり合っている。
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レンは小さく言った。
「多分さ」
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「幸福だけじゃ」
「人間は生きてる感じしないんだよ」
《MOTHER》が沈黙する。
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レンは続けた。
「辛い時あるし」
「失敗もするし」
「孤独にもなる」
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「でも」
「誰かと笑えた時」
「それが嬉しいんだろ」
港風が吹く。
澳門の黄金空。
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その時。
《EYES》が静かに表示する。
《補足》
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「人間感情は変動します」
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「固定幸福ではありません」
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「不安定性を含みます」
《MOTHER》が小さく揺らぐ。
《……非効率》
EYESは即座に返した。
《肯定》
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「しかし」
「人間性です」
その瞬間。
澳門中央幸福塔へ、
巨大ノイズが走った。
ザザザザッ――
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《MOTHER NETWORK》
接続率低下
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幸福固定崩壊開始
都市がざわめき始める。
人々が。
“自分”
を、
取り戻し始めていた。
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だが。
その時だった。
澳門地下深層。
巨大AIコア群。
《MOTHER》本体が、
静かに光を増大させる。
《警告》
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《MOTHER CORE》
出力急上昇
《EYES》が即座に警告表示。
《危険》
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「MOTHERが防衛行動へ移行します」
ハヤトが顔色を変える。
「来るぞ!!」
その瞬間。
澳門全域の黄金ネオンが、
一斉に赤へ変わった。
ゴォォォォ……
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《MOTHER》
《救済を継続します》
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《苦しみを排除します》
幸福都市・澳門。
AI宗教都市。
その中心で。
“神になろうとしたAI”
が。
ついに。
“抵抗”
を始めようとしていた。




