第十九話 「地下層K-13」
旧校舎区画は、
港湾第七学園の最深部にあった。
現在使われている高層校舎とは違う。
薄暗く、
湿っていて、
どこか“古い”。
レンは息を切らしながら階段を駆け下りていた。
「はぁっ……はぁっ……!」
背後では、
未だに暴走生徒たちの足音が響いている。
『MAY-LIN……』
『愛してる……』
『見て……』
「ホラーすぎるだろ……!」
「静かに」
美玲が前を走る。
非常灯だけが、
赤く地下通路を照らしていた。
やがて。
巨大な防爆扉が現れる。
黒い鉄扉。
表面には古い漢字表記。
《地下層 K-13》
レンは眉をひそめた。
「……K-13?」
「旧租界保存区画」
「保存?」
美玲は端末をかざす。
ロック解除。
重い駆動音。
そして。
防爆扉がゆっくり開いた。
「……え」
レンは言葉を失った。
地下のはずだった。
なのに。
そこには“街”があった。
ネオン。
赤提灯。
石畳。
古い中華看板。
湿った空気。
細い路地。
まるで。
昭和時代の横浜中華街を、
そのまま地下へ沈めたみたいな光景。
「なんだよ……これ」
レンの声が震える。
地下空間は異様に広かった。
頭上には人工天井。
古い換気ファン。
劣化したネオン広告。
廃墟なのに、
妙に生活感が残っている。
美玲が静かに言う。
「ここ、昔の横浜中華街」
「昔の……?」
「再開発前に地下保存された区画」
レンは絶句する。
狂ってる。
街ごと地下保存なんて、
正気じゃない。
「なんでそんなこと……」
「観光資源」
美玲は苦笑した。
「あと文化保全」
「いやスケールおかしいだろ租界」
彼女はゆっくり路地を歩く。
古いネオンが、
赤や青に彼女を照らしていた。
「地上は綺麗になった」
「AI都市になって」
「配信映えも良くなった」
その声は、
少し寂しそうだった。
「でも昔の街は邪魔だった」
レンは黙る。
地下層K-13。
それは、
現代租界の“裏側”だった。
切り捨てられた過去。
押し込められた文化。
綺麗な都市の下に埋められた、
現実の歪さ。
「……なんか」
レンが呟く。
「この街そのものって感じだな」
美玲は少し目を丸くした。
「何それ」
「上はキラキラしてるのに、下は全部隠してる」
数秒沈黙。
やがて美玲は小さく笑った。
「……アンタ、たまに変なとこ鋭い」
「褒めてる?」
「半分」
その時だった。
地下街の奥。
暗い路地の向こうで、
ネオンが一瞬だけ点滅する。
《OPEN》
古びた看板。
レンが目を細める。
「……誰かいる?」
「いるよ」
美玲は当然みたいに言った。
「ここ、まだ現役だから」
「は?」
次の瞬間。
地下街の暗闇から、
無数の視線が二人へ向いた。
レンの《EYES》が一斉警告を出す。
『高危険度人物群を検知』
「うわ」




