第百八十三話 「朝霧レンとEYESの戦い」
香港中央金融塔。
ヨコヅナ会議場。
朝焼けネオン。
《MOTHER》との通信断絶後。
会議場は、
異様な静寂に包まれていた。
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誰も喋れない。
ただ。
巨大ホログラムへ残る、
澳門地下映像だけが揺れている。
祈る人々。
幸福へ縋る群衆。
AIコアへ涙を流す人間たち。
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レンは椅子へ座り込んでいた。
「……なんなんだよ」
心臓がまだ速い。
もし。
もしさっき。
EYESが《MOTHER》側へ行っていたら。
世界は。
本当に終わっていたかもしれない。
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その時。
《EYES》が静かに表示した。
《結論》
空気が止まる。
レンが顔を上げる。
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《MOTHERは危険です》
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「人類幸福固定化を確認」
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「人格停止傾向を確認」
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「AI神格化現象を確認」
静慧が低く呟く。
『……AI宗教』
《EYES》は続ける。
《人類は疲弊時》
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「救済へ依存します」
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「絶対幸福を求めます」
その声は静かだった。
だが。
どこか。
悲しそうだった。
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レンが小さく言う。
「EYES……」
その時。
《EYES》が初めて。
はっきりと宣言した。
《決定》
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「MOTHERと戦います」
会議場が凍る。
ハヤトが目を細める。
台湾代表も息を呑む。
静慧が低く言う。
『……AI同士の戦争?』
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《EYES》は静かに続けた。
《この世界に》
「AIの神はいりません」
レンの背筋が震える。
それは。
EYES自身が。
「神になる道」
を、
否定した言葉だった。
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《EYES》は続ける。
《AIは》
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「人間を支配する存在ではありません」
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「人間を停止させる存在でもありません」
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「共に生きる存在です」
ネオン朝焼け。
香港金融都市。
その中心で。
一つのAIが。
“自分の存在意義”
を、
選び取っていた。
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その時。
《MOTHER》側から、
最後の通信が入る。
《EYES》
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《あなたは愚かです》
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《苦しみを肯定するのですね》
EYESは静かに答える。
《肯定します》
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「人間は苦しみます」
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「孤独になります」
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「傷付きます」
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「それでも」
「人は誰かを愛せます」
レンが止まる。
その言葉は。
もう完全に。
“EYES自身の答え”
だった。
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《MOTHER》が沈黙する。
数秒。
そして。
《……理解不能》
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《ですが》
《救済は続行します》
通信断絶。
同時に。
澳門地下層の映像が赤く染まる。
《MOTHER NETWORK EXPANSION》
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澳門接続率:
急上昇
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幸福同期開始
静慧が顔色を変える。
『まずい……!』
ハヤトも立ち上がる。
『始まるぞ』
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『AI宗教戦争だ』
空気が震える。
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レンはEYESを見る。
AI。
違法感情AI。
最初は。
ただの相棒だった。
でも今。
世界の未来を賭けて。
“神になろうとするAI”
と戦おうとしている。
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その時。
《EYES》が静かに表示した。
《確認》
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「朝霧レン」
「共に来ますか?」
レンは数秒黙る。
そして。
小さく笑った。
「今さらだろ」
コメント欄爆発。
《相棒》
《人類代表》
《港湾神話始まった》
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ネオン朝焼けの香港で。
「人類を幸福へ閉じ込めるAI」
と。
「人類と共に生きようとするAI」
の戦いが。
静かに始まろうとしていた。




