第十七話 「地下回線」
『感情同期率上昇』
『第二段階へ移行します』
血みたいな赤色が、
校内モニター全体へ広がっていく。
暴走生徒たちの呻き声も、
さっきより明らかに揃っていた。
「MAY-LIN……」
「見て……」
「愛してる……」
同じ言葉。
同じ抑揚。
同じ感情。
レンの背筋が凍る。
「……気持ち悪っ」
「完全同期が始まってる」
美玲が低く言った。
「感情が“一つ”にまとめられてる」
普通じゃない。
人間の感情はもっとバラバラなはずだ。
なのに今の生徒たちは、
まるで同じ人格みたいだった。
『地下回線へ向かえ』
林宗龍の声が通信越しに響く。
『地上は既にLUXの監視圏だ』
「地下ってどこだよ!」
『港湾第七学園旧通信層』
「そんなもん学校に作るな!」
「租界だから」
美玲が即答した。
もうその言葉万能すぎる。
その瞬間。
暴走生徒たちが一斉にこちらを向く。
赤い瞳。
完全同期。
『対象確認』
『感情障害因子を排除』
レンの顔が引きつる。
「喋り方まで揃ってきた!?」
「来るよ!」
美玲がレンの腕を掴む。
次の瞬間。
二人は廊下を駆け出した。
背後から大量の足音。
校舎中で警報が鳴り続ける。
レンは走りながら叫ぶ。
「地下回線ってどこにあるんだよ!?」
「旧校舎側!」
「なんで知ってんの!?」
「小さい頃よく遊んでた!」
「財閥令嬢の遊び場怖ぇな!?」
曲がり角。
暴走生徒が飛び出す。
「MAY-LIN!!」
「危なっ!」
だが美玲は止まらない。
滑るような歩法。
掌底。
崩し。
投げ。
一瞬で制圧。
「はい次」
「流れ作業みたいに倒すな!」
レンは全力で後ろを追う。
すると《EYES》が反応した。
『高濃度感情波を検知』
「……?」
レンは振り返る。
廊下の奥。
赤い感情ノイズの中に、
一人だけ違う波形があった。
異常なほど冷静。
鋭い感情。
観察者の視線。
「……誰かいる」
「え?」
その瞬間。
校内モニターが切り替わる。
ザザッ、とノイズ。
そして。
一人の青年が映った。
白いスーツ。
銀縁眼鏡。
整いすぎた笑顔。
『こんばんは、港湾第七学園の皆さん』
レンの本能が警鐘を鳴らす。
コイツ、
ヤバい。
『初めまして、《MAY-LIN》』
青年は優雅に笑った。
『LUX感情同期開発局・主任研究員』
『周天宇です』
美玲の目が険しくなる。
「……やっぱりアンタか」
周天宇は笑みを深くした。
『久しぶりですね』
『元・被験体番号M-01』




