第百五十八話 「地下物流路」
上海地下層。
旧物流メンテナンス区画。
ネオンすら届かない暗闇を、
レンたちは進んでいた。
《上海中央感情市場データセンター》
そこへ続く、
地下物流路。
かつて都市AI用物資や、
感情演算サーバー冷却資材を運んでいた通路。
だが今は。
半分崩壊している。
蒸気。
漏電。
赤警告灯。
まるで。
都市の血管が腐り始めているみたいだった。
雨玲が先行する。
『静かに行け』
『この辺は同期暴走者が出る』
レンが小声で聞く。
「同期暴走者?」
その瞬間。
通路奥から、
低い声が響いた。
『……繋がれ』
全員止まる。
暗闇。
そこに。
複数の人影が立っていた。
Emotion Crash患者。
だが普通じゃない。
全員。
同じ角度で首を傾けている。
『繋がれ』
『統合しろ』
『孤独を消せ』
レンの背筋が冷える。
「……なんだよこれ」
《EYES》が静かに表示。
《異常同期群》
感情波一致率:
「98%」
⸻
「個体差が消失しています」
雨玲が低く呟く。
『もう半分AIみたいな状態だ』
その瞬間。
同期暴走群が一斉に動いた。
『繋がれぇぇ!!』
「来るぞ!」
黒犬が即座に前へ出る。
ダダダダッ!!
違法ゴム弾。
狭い地下通路へ制圧音が響く。
だが。
暴走者たちは止まらない。
完全に痛覚が壊れている。
その時。
美玲が前へ踏み込んだ。
バチィッ!!
電磁警棒。
超近接。
狭路戦。
ネオンもない暗闇の中で、
美玲だけが鋭く動く。
ドン!!
ガッ!!
最小動作で、
同期暴走者を制圧していく。
レンが息を呑む。
「……強ぇ」
コメント欄爆発。
《MAY-LIN無双》
《超近接》
《上海戦映える》
その時。
一人の同期暴走者が、
レンへ飛び込む。
『EYESを統合しろ!!』
レンが止まる。
だが次の瞬間。
ドォン!!
黒犬の体当たり。
暴走者が吹き飛ぶ。
「前見ろ」
「……悪い!」
空気が張り詰める。
その時。
地下通路全体へ、
突然ノイズ音が響いた。
ザザザザッ――
全員の端末が点滅する。
《EYES》が警告。
《中央市場データセンター接近》
⸻
同期圧上昇
レンが頭を押さえる。
「っ……!」
声。
頭の中へ。
『繋がれ』
『孤独を消せ』
『一つになれ』
同期ノイズ。
強制感情接続。
美玲も顔をしかめる。
雨玲が叫ぶ。
『来るぞ!!』
その瞬間。
地下通路奥の巨大隔壁が、
ゆっくり開き始めた。
ゴゴゴゴ……
赤い光。
冷却蒸気。
無数のサーバー音。
そして。
巨大空間。
《上海中央感情市場データセンター》
都市の脳。
Emotion Crashの中心。
AI消失の核心。
レンは息を呑む。
ついに。
上海そのものの“心臓部”へ、
到達しようとしていた。




