第十五話 「租界財閥の婚約者」
『娘を死なせるな』
「いや荷が重い!!」
レンの叫びが、
赤い警報灯の廊下へ響いた。
だが林宗龍は真顔だった。
冗談を言っている顔ではない。
『朝霧レン』
「は、はい」
『君は既にLUXから認識されている』
「最悪だ……」
『今さら一般学生には戻れん』
「もっと最悪だ……」
レンは本気で頭を抱えた。
その横で、
美玲が呆れたように言う。
「大袈裟」
「お前基準で喋るな」
だが宗龍は続ける。
『EYES保持者』
『感情同期異常への耐性』
『そして美玲の深層感情を観測できた』
宗龍の鋭い視線がレンを貫く。
『偶然ではない』
「いや割と偶然なんですが」
『違う』
断言だった。
レンは黙る。
宗龍ほどの人間が、
ここまで断定する理由が分からない。
すると。
美玲が嫌そうな顔をした。
「お父様、まさかまた……」
『必要な判断だ』
「だからって急すぎるでしょ」
「何の話?」
嫌な予感しかしない。
宗龍は静かに言った。
『朝霧レン』
『君を林グループ保護対象に指定する』
「……は?」
『以後、美玲専属配信スタッフとして登録する』
「待て」
『加えて』
宗龍は一切表情を変えず、
とんでもないことを言った。
『婚約者候補としても扱う』
沈黙。
数秒。
「……………………は?」
レンの脳が停止する。
美玲も固まっていた。
「え」
「え?」
二人の声が重なった。
そして次の瞬間。
「はぁぁぁぁ!?」
「お父様!?」
同時絶叫。
宗龍は平然としている。
『租界では珍しくない』
「珍しいわ!!」
美玲が顔を真っ赤にした。
「な、なんでそうなるの!?」
『感情適合率が高い』
「AI婚活かよ!」
レンは頭を抱えた。
だが宗龍は本気だった。
『林グループは現在LUXと対立状態にある』
『美玲の周囲には敵が多い』
『信頼可能な人間を固定する必要がある』
「いやそれでも婚約者は飛躍しすぎだろ!」
その瞬間。
《EYES》が小さく反応した。
『対象:林美玲
感情状態:混乱
羞恥反応:高』
レンは思わず美玲を見る。
耳まで赤い。
配信中の余裕が完全に消えていた。
「……おい」
「見るな」
「いや見えるんだって」
「そのAI壊せ」
「理不尽!」
その時だった。
廊下の奥から、
再び暴走生徒たちが現れる。
「MAY-LIN!!」
「愛してる!!」
「俺だけ見ろ!!」
「タイミング最悪!!」
レンが叫ぶ。
だが宗龍は冷静だった。
『美玲』
「……分かってる」
『朝霧レンを連れて地下回線へ向かえ』
「地下?」
『林グループ旧通信網が港湾第七学園地下に残っている』
レンは目を見開く。
「そんなもん学校にあるの!?」
「租界だから」
美玲が即答した。
もうその言葉万能すぎる。
宗龍は続ける。
『そこならEVA監視を一時遮断できる』
『LUXの感情同期波も弱まるはずだ』
「……つまり逃げ込めってことか」
『違う』
宗龍の目が鋭くなる。
『反撃しろ』
その瞬間。
レンの心臓が嫌な音を立てた。
そして宗龍は最後に、
完全に爆弾発言を投下した。
『あと婚約関連の書類は後で送る』
「送るなァ!!!」




