第百二十五話 「デジタル卒業証明書」
海底通信層。
《EMOTION SIREN CORE》最深部。
黒い感情海。
巨大同期核。
感情残滓たちが、
静かに道を開いていた。
レンは息を切らしながら進む。
「はぁ……はぁ……」
《EYES》が警告を続ける。
《中央同期核接近》
感情圧縮率上昇
⸻
精神負荷増加
「新人にやらせることじゃねぇ……」
その時だった。
ピコン♪
場違いな通知音。
レンが止まる。
「……は?」
《EYES》が妙に明るい音声で発音した。
《通知確認》
深圳ネットランナー職業訓練高等専門課程
「卒業試験合格通知」
⸻
「卒業証明書付与」
沈黙。
海底感情空間に、
数秒の静寂が流れる。
レンが絶叫した。
「軽ぅぅぅぅ!!」
「今送ってくんな!!」
コメント欄爆発。
《合格おめでとう》
《タイミング最悪》
《海底卒業式》
レンはさらに叫ぶ。
「てか学歴データでよこすな!!」
「紙でくれ紙で!!」
《EYES》が即返答。
《回答》
「紙化できます」
「うざいぃぃぃ!!」
《EYES》が少し間を置く。
《補足》
「“うざい”は死語です」
「お前急に煽るなぁぁぁ!!」
コメント欄大爆発。
《AI強い》
《EYES好き》
《ネットランナー漫才》
その時。
《EMOTION SIREN CORE》が脈動した。
ゴォォォォ!!
黒い感情津波。
感情残滓たちが苦しみ始める。
『助けて』
『消えたくない』
レンの顔が変わる。
ふざけた空気が消える。
《EYES》が静かに告げた。
《朝霧レン》
学習課程修了確認
⸻
実戦適応確認
⸻
ネットランナー資格認証完了
レンは少し黙る。
怖い。
でも。
もう逃げるだけじゃない。
長崎の街。
クルー。
飯屋。
海霧。
ネオン坂港。
全部守りたかった。
レンは巨大同期核を見上げる。
「……新人卒業ってことか」
《EYES》が返答する。
《はい》
その瞬間。
レンは走り出した。
《EMOTION SIREN CORE》へ向かって。




