第百三話 「湾岸屋台」
神戸湾岸自由区・第七港湾区画。
夜。
海風とネオンが混ざる。
巨大貨物船が海を進み、
空では物流ドローンが飛び交っていた。
その湾岸道路沿いに。
奇妙な屋台街が並んでいる。
コンテナ改造屋台。
海上ラーメン屋。
AI焼き鳥機。
違法中華鍋料理。
完全に未来港湾メシ空間だった。
レンは呆然とする。
「……なんだここ」
ハヤトが笑う。
「神戸湾岸夜市」
「港湾労働者とノーマッドの飯場だ」
コメント欄爆発。
《飯回きた》
《湾岸屋台いい》
《深夜サイバーパンク飯》
美玲はもう屋台を見ていた。
赤い瞳が少し輝いている。
「……いい匂い」
「お前食べ物になると分かりやすいな」
藍華が笑う。
その時。
屋台のAI音声が響く。
《本日のおすすめ》
神戸湾岸麻辣ラーメン
海上チャーシュー飯
ネオン餃子セット
「ネオン餃子ってなんだよ」
《EYES》が解析。
《ネオン餃子》
発光栄養素入り港湾労働者向け食品
「説明されても分からん!」
コメント欄爆笑。
《未来飯》
《光る餃子》
《絶対身体に悪い》
その時。
黒犬が静かに言う。
「……うまいぞ」
「食ったことあるの!?」
「戦場帰りに」
完全に傭兵メシだった。
ハヤトは屋台席へ座る。
「今日は俺が出す」
「ヨコヅナ金持ち!」
「元だ元」
だが。
全員普通に座った。
ラーメン。
餃子。
チャーハン。
湯気が上がる。
海風が吹く。
ネオンが海面へ反射する。
美玲は麻辣ラーメンを食べていた。
「……辛い」
「大丈夫か?」
「でも美味しい」
赤い瞳が少し柔らかい。
レンは少し笑う。
配信中じゃない美玲は、
本当に普通の高校生みたいだった。
その時。
《MAY-LIN LIVE》通知。
《神戸湾岸屋台配信》
無許可で拡散中
「また!?」
レンが叫ぶ。
画面には。
ラーメン食べる美玲。
海上ネオン。
クルーの雑談。
完全に日常配信だった。
だが。
コメント欄は異常な熱量。
《これが見たかった》
《平和回助かる》
《MAY-LIN幸せそう》
レンは少し黙る。
多分。
世界中の人間も、
こういう時間を求めてるんだ。
感情市場じゃなく。
炎上じゃなく。
ただ。
誰かが笑って飯を食ってる。
そういう、
普通の時間を。
その時。
ハヤトが缶ビールを持ちながら言った。
「神戸はな」
「夜景見ながら飯食う街だ」
海の向こう。
超高層金融街が光っている。
ネオン都市。
感情市場。
世界は相変わらず狂っている。
でも。
今だけは。
少しだけ平和だった。




