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婚約破棄?とっくに破棄されてますが何か?  作者: クロネコ


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後日談


王太子レオンハルト殿下と、エレノア・フォン・アルヴェルトの婚儀は、国中の祝福の中で執り行われた。


王城の大聖堂は花で満ち、光が降り注ぐ中、二人は誓いを交わす。誰もが認める、理想の王太子と王太子妃。


その一方で祝福の輪から、完全に外れた者たちもいた。


ーーーーーーーーーー


「どうして、どうしてこんなことに」


かつて第一王子と呼ばれていたクラウスは、薄暗い屋敷の一室で声を荒げた。


王位継承権を剥奪された彼は、王城を追われ、地方の小領地へと移された。


名目上は貴族としての身分は残されている。だがその実態は、ほとんど幽閉に近い。


「殿下、落ち着いてくださいませ」


そう言いながら近づいてくるのは、かつて彼が寵愛していた令嬢リリアーヌ。


だが、その表情にはかつての甘さはない。どこか冷めた、打算的な色が浮かんでいる。


「これもすべて、あの女のせいだ!!エレノアさえいなければ!!」


「ふふふ、本当にそうでしょうか?」


リリアーヌの声が、わずかに低くなる。


「何だと?」


「殿下は、ご自身の判断で婚約を破棄なさったのではありませんの?」


「それは」


言葉に詰まる。


「それに、政務の件も」


彼女は淡々と続ける。


「すべて殿下が最終的に許可を出されたものですわ」


「だが、お前が――!」


「私は助言を申し上げただけです」


ぴしゃり、と遮られる。その冷たさに、クラウスは目を見開いた。


「・・・随分と、態度が変わったな」


「状況が変われば、人も変わりますわ」


にこりと微笑む。だがその笑みは、もはや彼に向けられたものではない。


「申し訳ございませんが、私はここまでです」


「・・・は?」


「実家から呼び戻しがかかりましたの」


軽くドレスの裾をつまむ。


「これ以上、将来の見込みのない方にお仕えする理由はございませんので」


「貴様……!」


怒りに顔を歪めるクラウス。


「貴様も同罪だろ!?逃げ切れるわけがない!!」


「その辺は大丈夫ですわ。私は元々隣国の貴族。留学で一時的に来ているだけ。それに、しっかりと影武者は用意してありますわ」


「な、なんだと」


「では、ごきげんよう」


リリアーヌはそれだけ言い残し、振り返ることなく部屋を出ていった。


残されたのは、クラウスだけだった。


「くそっ!!」


何もかもを失った男の、空虚な叫びだった。かつて手にしていたものは、すべて自ら手放したもの。


その事実から、もう逃げることはできない。


ーーーーーーーーーー


一方その頃。


王城の一室には、穏やかな時間が流れていた。


「少し、疲れましたわ」


私はソファに腰を下ろし、小さく息をつく。慣れない式典の連続。王太子妃としての挨拶、貴族たちへの対応。


ようやく一息つける時間だった。


「無理もない」


隣に腰掛けたレオンハルト殿下――いえ、今は王太子殿下が、静かに言う。


「今日は一日中、気の抜けない場ばかりだった」


「殿下こそ」


「私は慣れている」


そう言って、わずかに微笑む。その表情は、公の場で見せるものよりもずっと柔らかい。


彼はふと、真剣な眼差しを向けてきた。


「君に、無理をさせていないかと心配になる」


「いいえ」


私は首を横に振る。


「すべて、自分で選んだ道でございますもの」


これは押し付けられた未来ではない。

自ら選び、掴み取ったもの。


「後悔は、ございません」


はっきりと告げる。


すると、彼は少しだけ目を細めた。


「それを聞いて、安心した」


そっと、手が重なる。驚くほど自然に。


「これから、共に歩もう」


低く、静かな声。


「一人で背負う必要はない」


その言葉に、胸の奥が温かくなる。


私は小さく息を吐き、そして――


「では、遠慮なく」


ほんの少しだけ、彼の肩に身を預けた。


一瞬の沈黙。けれど、それは居心地の悪いものではない。


むしろ――心地よい。


「軽いな」


「失礼ですわ」


「いや、そういう意味ではなく」


わずかに慌てたような声に、思わず笑みがこぼれる。こんなやり取りができることが、どこか新鮮で。


「ふふ」


「笑ったな」


「殿下といると、自然とこうなります」


言葉にしてから、少しだけ恥ずかしくなる。だが、彼は真面目な顔のまま言った。


「それなら良かった」


ほんのわずかに、耳が赤くなっている。その変化に気づき、胸がくすぐったくなる。


――ああ。


こういう時間も、悪くない。


「これから、忙しくなりますわね」


「ああ。やるべきことは多い」


私は彼の手を、そっと握り返す。


「2人なら大丈夫ですわ」


「ああ、そうだな」


短い返事。だが、それだけで十分だった。


外では、まだ祝宴の音が続いている。

けれどこの部屋には、穏やかな静けさがある。


過去は終わり、すべては清算された。


だからこそ――


ここから始まる。

二人で紡ぐ、新しい物語が。


その未来は、きっと。

静かで、確かな幸福に満ちている。


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