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推しのVtuberが同級生だったけど、元配信者の俺だけがその正体に気づいてしまった』 ~しかも向こうは俺の過去を知っているらしい~  作者: カルラ


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第14章 名前で呼ぶ距離

 沈黙は、思っていたよりも長く続かなかった。


 壊れるか、保つか。

 その境界で、三人とも立ち止まっていたはずなのに。


 最初に動いたのは、水瀬陽菜だった。


「……なんかさ」


 ぽつりと呟く。


「思ってたより重い話だった」


 肩の力を抜くように笑う。


 その一言で、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


「ごめん」


 白石が小さく言う。


「いや謝るとこじゃなくない?」


 水瀬は首を振る。


「むしろ教えてくれてありがとって感じ」


 あっさりしている。


 けれど、その軽さは表面的なものじゃない。


 本気でそう思っている。


「だってさ、知らないまま変に気使う方がやだったし」


 そう言って、笑う。


 その言葉に、白石の表情がほんの少しだけ柔らいだ。


 完全じゃない。


 けれど、確実に。


 緊張が一段階下がる。


「まあでも」


 水瀬が続ける。


「びっくりはしたけどね。普通に」


「……うん」


「だってさ、あのルミナでしょ?」


 少しだけテンションが上がる。


「私、ちゃんと見たことはないけど、名前はめっちゃ聞くし」


「……そう」


 白石が小さく頷く。


 その反応には、いつもの配信者の顔はない。


 ただの同級生の顔。


 それが、逆に現実感を強める。


「でさ」


 水瀬がちらっとこちらを見る。


「神谷は知ってたんでしょ?」


「ああ」


 否定しない。


 隠す必要もない。


「いつから?」


「確信したのは昨日」


「昨日?」


「その前から、違和感はあった」


 声。

 仕草。

 反応。


 全部が繋がっていた。


「……そっか」


 水瀬が納得したように頷く。


 それ以上は深掘りしない。


 線引きが上手い。


「じゃあさ」


 少しだけ考えてから、明るく言う。


「これからどうする?」


 現実的な問い。


 逃げられない話題。


「どうするって?」


 俺が返す。


「いや、この関係」


 指で三人を示す。


「普通の同級生としていくのか、なんか特別扱いするのか」


 核心を突く。


 曖昧にしてきた部分。


 白石が少しだけ視線を落とす。


 迷っている。


 当然だ。


 どちらにもリスクがある。


「……普通でいい」


 しばらくして、白石が言う。


「今まで通り」


 その選択。


 けれど。


「無理だって言っただろ」


 俺はすぐに返す。


 水瀬が「うわ、またそれ」と苦笑する。


「だって事実だ」


「まあ、分かるけどさ」


 水瀬が腕を組む。


「でも完全に変えるのも変じゃない?」


 現実的な視点。


「急に距離感変わったら、それこそ気まずくなるし」


 その通りだ。


 極端な変化は、逆効果になる。


「だからさ」


 水瀬が軽く手を叩く。


「折衷案でいこう」


「折衷案?」


「基本は今まで通り。でも――」


 少しだけ間を置く。


「隠さない」


 その一言。


 シンプルで、的確。


 白石が顔を上げる。


「……隠さない?」


「そう」


 水瀬が頷く。


「無理に特別扱いしない。でも、嘘もつかない」


 バランスを取る案。


 現実的で、無理がない。


「神谷もそれでいい?」


 視線が向く。


 少しだけ考える。


 悪くない。


 むしろ、今の状況では最適に近い。


「……いいと思う」


 そう答える。


 白石の方を見る。


 まだ迷っている。


 けれど。


 逃げ場はもうない。


「……分かった」


 小さく頷く。


 それで決まった。


 大きく変わるわけじゃない。


 けれど。


 確実に、一歩進んだ。


 *


 その後の時間は、少しだけ軽かった。


 完全に元通りではない。


 けれど。


 ぎこちなさの種類が変わった。


 隠していたものがなくなった分、変な遠慮が減っている。


「そういえばさ」


 水瀬がふと思い出したように言う。


「名前どうする?」


「名前?」


「配信の時の名前」


 白石を見る。


「ルミナって呼んだ方がいいの?」


 少しだけ空気が止まる。


 確かに、そこは問題だ。


 学校と配信。


 どちらの名前で呼ぶか。


「……どっちでも」


 白石が答える。


「好きにしていい」


 投げた。


 けれど、それも無理はない。


 簡単に決められるものじゃない。


「じゃあさ」


 水瀬がにやっと笑う。


「神谷は?」


「俺?」


「どう呼ぶの?」


 視線が集まる。


 少しだけ考える。


 どちらでもいい。


 けれど。


 どちらにも意味がある。


「……白石でいい」


 そう答える。


 シンプルに。


 今の関係として。


 白石の瞳が、ほんのわずかに揺れた。


 驚きか、安堵か。


 分からない。


 けれど。


 その選択は、間違っていない気がした。


「そっか」


 水瀬が笑う。


「じゃあ私はルミナって呼んでみようかな」


「勝手に決めるな」


「いいじゃん別に」


 軽い言い合い。


 いつもの調子。


 けれど。


 確実に何かが変わっている。


 距離が、少しだけ近くなっている。


 名前で呼ぶ。


 それだけのことなのに。


 関係の意味が、変わる。


 白石――ルミナは、小さく息を吐いた。


 その表情は、少しだけ柔らかい。


 逃げていない。


 向き合っている。


 その事実が、何よりも大きかった。


 物語は、もう終盤に近い。


 けれど。


 まだ終わっていない。


 本当に大事なのは。


 ここから先にある。













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