12.ネームドの脅威
本日2話目です。
このまま見つからないでくれるといいんだけどなぁ、と思っていたのだが、これが完全にフラグだったようだ。
「ガァッ!!」
肉食獣の頭をがひと吼えしたかと思うと、蛇の頭が炎弾を放ってきたのだ。
くそっ!
もう気づかれた!
直撃はしなかったが、着弾時の爆発の余波をくらってしまった。たかが余波だが、その威力はホーム付近のレイスなどとは比べようがない。
それだけでHPが2割消えたのだから。
『リリース!』
あらかじめ作り出していた槍を2本とも、
ライオンの頭部に向けて放つ。
スカルキマイラは避けようともしない。
当たるか、と思われた次の瞬間。
俺は驚愕に目を見開く。
蛇の頭が素早く動いたかと思うと、ウインドランスを2本とも打ち払ってしまったのだ!
しかし、打ち払ったということはつまり、触れはしたということ。少しはダメージがあるはずだった。
だが、HPバーは減っていない。
減っていないのだ!1ミリも!
「ちくしょう!」
悪態も吐きたくなるものだ。蛇には魔法が効かないのか!
しかし、おそらくライオンの身体の方は魔法が通るのだろう。
でなければ蛇が守る意味がない。
みんなが来る前に、どうにか一撃くらいは喰らわせてやる。
せめて合流を早めようと、来た道を戻りながらスカルキマイラから逃げる。
こちらの方が遅いのですぐ追いつかれるが、蛇の炎弾以外の攻撃は当たらない。
しかし炎弾の方は、完全に避けるのは至難の技で、何回かかすってしまう。
ジリジリとHPが減っていく中中で必死に考える。
どうする。
俺の攻撃魔法の中で1番速いウインドランスを止められた以上、遠距離では他の魔法を打っても無駄だ。
とすると、蛇に消される前に魔法をライオンに当てるには、ライオンにできるだけ近づくしかない。
近づくと蛇の炎弾に当たる危険性が高くなるが、それは〈幻影〉で避けることにした。
しばらくして考えをまとめた俺はウインドソードの詠唱を始めた。
炎弾が飛んでくるが、〈魔素噴射〉で避ける。
詠唱が終わった。
『リザーブ・ウインドソード』
そして、ウインドソードが消されないように蛇の攻撃範囲の外を保ったまま、炎弾が放たれるのを待つ。
蛇の口が開き、喉の奥が赤く光る。
(今だ!)
それを見た俺は、炎弾が放たれる直前に、〈魔素噴射〉を最大にして相手に急接近する。
そしてそのままの速さで、2mほどの近距離で放たれた炎弾を〈幻影〉で躱し……
『リリース』
ライオンの胴体に斬りつけることに成功した。
やはり。蛇の頭は、炎弾を放つ前後は、こちらに炎弾を当てることに集中するため、魔法を弾く余裕が無いのだ。
さらに今回は〈幻影〉直後の完全な不意打ち。
察知能力持ちでなくて良かった。
もし持っていたらこの方法も無意味だっただろう。
しかし、一度斬りつけただけではHPはそう減らない。
スカルキマイラのHPはまだ9割強も残っていた。
おまけにもうこの戦闘で〈幻影〉は使えない。
もうそろそろもたないか…と考えていると、
これ以上ないタイミングで援軍が到着した。
「おまたせ!」
「よく耐えた!『プロヴォケイション』!」
「いきなりものすごく強そうなの引っ張ってきたねぇ…」
「良かった無事で…回復します!」
HPが7割ほどまで回復した。炎弾がかすったのが蓄積して、もう2割程しか残っていなかったのだ。直撃を喰らえば死んでいた。
「助かる!みんな、蛇が炎の弾を撃ってくる!しかも蛇には魔法が効かない!先に尻尾を切り落としてくれ!」
「了解!それは僕の仕事だね!任せて!『翔鶴』!」
タカアキは、挑発スキルを使ってキマイラの猛攻を受け続け、もう3割近く減ってしまっていた。
蛇が今まさに炎弾を撃とうと開いていた口を、その間に後ろに回り込んだコウがジャンプし、下からかち上げる武技で塞いだ。
そのまま炎弾は口の中で暴発し、蛇は動きを止め、地面に落ちた。
「気絶してるだけだよ!今のうちに叩こう!『亀墜』!」
「了解!『スティング』『ダブルスラッシュ』!」
『亀墜』は『翔鶴』とは逆に、空中から地面に急降下してその勢いのまま剣を突き刺す武技だ。しかし尻尾を貫通して地面に縫い付けられればよかったのだが、そこまで深くは刺さらず、レナとコウの2人がかりで尻尾の付け根を斬り続けることになった。結局尻尾は切断する前に蛇が再び起き上がってしまった。
スカルキマイラの残りHPは7割。
タカアキは、今のところは被ダメージよりもキキョウの回復量の方が上回っているおかげで耐えられているが、ちょっとでも集中が途切れると突破されかねない。
気の抜けない、長い戦いになりそうだった。
「シュラァァァ……」
「よしっ!!尻尾切れた!!」
「トウキくん!」
『ウインドソード!』
コピーも含めた2本の剣が、回転しながら飛んでいく。
骨は突くよりも切断する方がいいのでは無いかということに気づいてからは、途中からウインドランスを止め、ウインドソードに切り替えていた。
2つの剣が相手のあばらを1本ずつ切り飛ばした。
「ガァァァッッ!!」
ウインドランスよりも大きなダメージに、スカルキマイラは悲鳴をあげる。
ウインドソードに切り替えてからは、ダメージが増え、動きが鈍くなってきていた。
残るHPは今2割を切ったところだ。
スカルキマイラが倒れるのも時間の問題だが、魔力が切れかかっていて、体が重い。
それでも必死に詠唱を続けた。
早く倒れろと願いつつ。
「グウゥゥゥ…………」
スカルキマイラの断末魔は、案外静かなものだった。
「……あーもうダメ。疲れた……」
「も、もう立てません……」
一気に倒れこむ俺とキキョウ。魔力が枯渇寸前なのだ。もう指一本動かすのも辛い。
「おつかれー!」
「一旦休んでおけ。みんなで見張りはやっておく。」
「いやー、本当によく倒せたよねぇ。ボス級の強さだったよー。」
「2人とも無理せずゆっくりしておいて。十分に魔力が回復するまで待ちましょう。」
「助かる。すまんが頼んだ。少し休む」
プレイヤー名:〈トウキ〉
系統:〈不死系〉
種族:レイス
【特性】
〈霊体〉〈無音詠唱〉
【種族スキル】
〈魔素噴射Lv.10(↑1)〉〈幻影Lv.7(↑2)〉
【通常スキル】
〈風魔法:剣戟Lv.12(↑2)〉〈識別Lv.11(↑1)〉〈隠密Lv.13(↑1)〉
次は6時に。




