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事件です!2

評価やブックマークいただけた方々、ありがとうございます!

まさか、評価やブックマークをいただけるとは・・・。

亀の歩み更新ですが、これからも読んでいただければ幸いです。

宿屋に着くと、既に先輩が戻っていた。コールの段階で宿に近い所にいたらしい。

 おかげで、キリキリと胃を痛めながら先輩を待つという事態には陥らなかった。


「世界崩壊の余波か何かかとも思ったんやけど、違うな。もうちょっと調べるから、マレは爺様呼んで」

 

 トウラねこびとが猫に成った。しかも反応がおかしい。原因は不明。

 これだけの情報でどうしろと思うだろうが、そこは先輩。冷静に籐籠からトウラを抱き上げ、まず外傷の確認。次に目や話、耳の状態を見る。

 専門家では無いが、未来の猫カフェ社長は従業員ねこたちの状態のチェックの仕方もちゃんと心得ているのだ。チェックで異常が有れば獣医かかる際、症状を正確に伝えられる程度には経験も積んでいる。

 まあ、俺もある程度は分かるんだけど。今は冷静に診れる自信がない。

 そうして一通り確認し終わった後、俺に指示を出し解析系の魔法を展開しだす。


「『コール』・・・ジジイッ非常事態!」


 俺はトウラを先輩に任せ、指示された通りコールで爺様かみへ連絡をとる。これまで、どことなく上の方を向いて声をかけるとか、見た目微妙すぎる感じで繋ぎを取っていたが、コールの登録に爺様を入れることで解決した(つか、アドレス帳に先輩と神ってどんなピンナップ?)。


『儂、一応神様なんじゃがのぉ・・・扱い雑過ぎんか?』

「先輩、繋がった」

『え?無視?儂の疑問無視?』


 相変わらずぐだぐだうるさい爺様だ。こっちは非常事態だと言っているのに。敬わったら事態が好転するならともかく、どうせたいして役に立ちはしなさそうだから、構ってやる必要は無い。

 それくらいこの短期間で、俺の爺様への信仰心は地を這うどころか、地面へめり込みだしてるわけだ。


「おー、サンキュ。爺様、センです。ちょっときな臭いんで、意識だけで良いんでこっち来てもらえます?」


 繋がった回線に簡単に割り込み、三者感通話にしてしまう賢者様。

 俺と違って先輩はまだある程度、丁寧な対応をする気持ちがある様だ。とはいえ、神殿とかの関係者が聞けば泡を吹きそうなことをサラリと言ってのけてる。

 え、神降臨すんの?視覚的効果でうざさ割増すから断れジジイ。


『お前さんも簡単に喚んでくれるのお・・・儂神なんじゃよ?降臨とかあんまりホイホイする仕様じゃないんじゃよ?』

「よしっ!じゃあ―(来んな)」

「そう言わんと来て下さい。見てもらった方が早いんで」


 見事被った。


『凄く嫌な予感がするの儂だけ?』


 そんで神来ちゃった。


「・・・先輩、なんかプラズマ湧いたっすよ」


 しかし危惧した程視覚に訴え無い感じ。それは俺の台詞からもお分かりだろう。


「あー・・・なんとも有り難み薄い感じで。省エネモードですか?」

『ま、そんなもんじゃ』


 そう、目の前に現れたのは直径20センチ程度の発光物体。

 流石爺様、頼りない感は俺の期待を裏切らない。


『そんで、何が起こったんじゃ?』


 ふわふわしてる発光物体がくるくるしながら聞いてくる。

 前言撤回、うざいです。


「これですわ」

『ん?なんじゃこれ?|うち(この世界)に猫は居らんはずじゃが・・・』


 俺のイラッと感はさて置き、先輩が籠の中のトウラを見せる。


「猫人ですよ。知り合いだったんで、確かです」

『!?』


 不思議そうに籠の周りをふよっていた発光物体じいさまは、先輩の言葉にぼふっと一回り大きく発光する。

 どうやら何か知っている模様。

 これはしっかりこってり絞り取らないとなぁ。かつ丼と電気スタンド用意しなきゃ。


「原因に心当たりあるんですね?」

『・・・まだこんな物が残っとったんじゃな』


 先輩の確認に発光物体のくせに、ため息をついて気落ちするという芸当を見せた。


『これはな、過去の遺物じゃよ。碌でもないな』


 そして勝手にぽつりぽつりと語り出す。尋問の手間が省けて何よりだ。


『今でこそ平和じゃが、昔はこの世界もいろいろあったんじゃ』 


 創世神から直接語られるこの世界の歴史。ある意味とても公平な史実だろう。

 しかしやたら長い。結局三十分程かかったが、今回の件に関してのことを要約すれば獣人達を弱体化させる呪具が使われたらしい。


「確かに碌でもねぇけど・・・」

「まあ、あり得る歴史やな」


 で俺たちの感想はというと、こんなもんだ。

 向こうちきゅうの単一民族の小さな島国でさえ、戦国とか命名されるような時期があるぐらいで、肌の色どころの話ではない混成人種世界がこれまでみんな仲良く平和一筋とかの方がおかしい。

 今ではそれなりに折り合いをつけて暮らしてるみたいだし、外様の俺たちがどうこう言える筋でもない。

 あえて言うなら、召喚された今が平和な時代で良かった、だろう。冒険者が戦争用の傭兵みたいに使われないのは大いに助かる。


『随分あっさりしとるのぉ・・・』

「これくらいの方が、変な面倒事に巻き込まれんでいいんですよ」


 そうそう、物語とかだと勇者とか賢者とかって下手に色んなことに頭突っ込むけど、普通に考えてリスクが高すぎるよな。


「つか、ゆうしゃの仕事は魔物の処理だけって話しでこっち来たんだから、それ以上は頼まれてもごめんだ」


 種族間歴史問題なんて、できなくても全力スルー、回避一択の事案だ。


『そうか、さすが「勇者」じゃのう』


 言い切った俺に何やら勝手に納得したらしい爺様。


「それに、そんなことよりトウラだよ、トウラ!」

『ん?ああ、大丈夫じゃ。一応儂神じゃし』


 俺がそんなことより目の前の事態解決を迫ると、爺様はあっさりと請け負いくるくるとトウラの上を回る。

 すると何か薄い膜が割れる音がして、猫から猫人へあっという間に戻った。


「え?」

「さっすが、神様。一発ですか」

『当たり前じゃよ!儂、神じゃし』


 服もちゃんと普段のトウラが着いるのに似たのがサービスされてるし、やばいどこかに落としてきた信仰心が芽生えそう。

 見えないが、得意げな顔をしているであろう辺りは相変わらずうざいがそれでも、だ。


『後は首にかかっとる鎮静効果のある首輪を外せば意識も戻るじゃろ。てか、何でこんなもの付けとるんじゃ?』

「首輪って、このネックレスのことか?」


 とは言え、まだまだ色々根に持っているので特に礼とかは言わない。ニコイチの先輩がその辺そつなく対応してるし、トウラのが大事。

 別に、ツンデレとかそんなんじゃ無い!断じて無い!

 だから二人してなんかその分かった風な雰囲気やめれ。


 で、当のトウラはまだぼんやりとした状態で、自分の変化にも気が付いていない様子。

 件のアイテムは華奢なネックレスで、猫の時から気づいていたけど、その前からつけていた様な気もして、すっかり私物だと思い込んでいた。

 デザイン性のあるものだし、まさかそれにそんな効果があるようには全く見えない。ま、それが狙いかもしれないけどな。


「弱体化した上にそんなもん付けるとかどんだけ慎重派なんだよ、犯人」

「ほんまに冒険者相手ならともかく、一般市民にここまで徹底的にってなんやなぁ」

「外した途端暴れ出すとか?ローグならともかくトウラ相手に・・・-っ!」


 先輩も首を傾げていたが、俺は返す言葉を最後まで続けられなかった。

 ザシュッ。

 空を切る鋭い音と共に血と髪が散る。

 とっさに避けたものの頬に数筋の血線と痛み。


「マレッ!」

『なんじゃなんじゃ!』

「っ」


 突然のことに理解が追いつかない。分かるのは、攻撃は正面の相手から繰り出されたということだ。

 初撃は相手の陽動だったらしく、至近距離で向かい合っていた俺から、軽やかなバックステップで距離をとったトウラと対峙している。

 傷から垂れる血を拭うこともできないプレッシャー。

 トウラさん、マジ何者?数ヶ月前に、大猪と対峙してた感覚が思い出されるんですけどっ!

 勿論、先輩や爺様もこの事態について来れていない。


「ん?あれ?何でマレが居るにゃ??」

「・・・トウラ、さん?」


  時間にしてみれば数秒だったのだろうが、体感的にはかなり長く感じたにらみ合いは、数度瞬きしたトウラの言葉で終わりを迎えた。


「にゃっ!にゃーっ!?マレのケガ私がやったにゃ?やらかしちゃったにゃ??」


 どうやら正気に戻ってくれたらしい。わたわたと慌てる姿に、先程までの気迫は無い。

 ホント怖かったです。思わずさん付しちゃうぐらい。


「大丈夫、なんか?」

「みたいっす・・・あーよかった」


 そんなトウラに俺たちは肩の力を抜く。


『とりあえず、解決かの?じゃあ儂、今の内に戻るぞ。ちぃと調べたいこともできたし』


 そのごたごたにまぎれ、爺様はそう言ってポンッと消える。きっとトウラに使われたアイテムとかの件だろう。

 居残られてても説明がめんどくさいだけだから引き止める理由もない。


「トウラ、大丈夫だから落ち着けって」


 とりあえず、鞄から果実ジュースの瓶を取り出し、トウラに渡しながら落ち着かせる。


「でも、でも」

「大丈夫、大丈夫、俺ら冒険者やから、こんなんこうして薬草擦り込んだら治るし」

「って、先輩っ痛いっ痛いっ!マジ擦り込まないでっ!」


 間違って飼い主噛んじゃった猫みたいになってるトウラに、先輩も大したこと無いと実演してみせるが、直に薬草擦り込まれるのは勘弁だ。

 綺麗にスッパリ切れた時より痛い。


「にゃ・・・ホントにゃ?」

「「ホント、ホント」」


 痛みは倍増したけれど、薬草のおかげで傷も消え、その様子にトウラもやっと納得してくれた。


「で、性急で悪いんやけど、何があったんか聞かせてくれるか?」


 トウラが落ち着いたと判断したころで先輩が切り出す。


「何が・・・。私もよくわかんにゃいんにゃ、ただ・・・あーっ!お兄ちゃん!」

「えっ?」 

「マレ、お兄ちゃん知らないにゃ?私、一緒に居たのにゃ!」

 

 困惑気味だったトウラがはっとした様子で尋ねてくるが、あいにく俺が見つけたの時にはトウラだけだった。


「悪い、トウラしか居なかった」

「にゃーっ!そんな、じゃあお兄ちゃん、あのまま誘拐されちゃったのにゃーっ!」

「「はい??」」


 いやいや、トウラの『お兄ちゃん』って、ローグだろ?あいつ冒険者だし、多分そこそこレベルあったはず。それが誘拐って、何?!


 どうやら事件はまたまだ終わらないらしい。



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