翌日
上司との業務面談を終えて目覚めれば、案外しっかりと疲労は回復していた。
あの謎空間は一応神域だから回復効果とかが有るのかも知れないけど、もう昼過ぎだしな。
爺様との面談時間差し引いても、十分過ぎる睡眠時間。
「まだ時間あるし、昼食ついでにお茶とか頼んで来るか…」
この宿は食堂で頼めば、朝食から夜閉まるまでの間ならお茶や軽食を用意してもらえる。
軽食はちょっと割高だけど、買いに出なくていいから、必要経費と割り切りちょくちょく頼んでる。
ギルドの紹介一覧から適当に決めた宿だけど、ご飯は美味しいし、このセルフルームサービス?それともテイクアウトサービスか?は使い勝手がよく、部屋も清潔で広さもそれなりと中々当たりを引き当てたと言っていいだろ。
ギルド紹介として一覧に載せて貰うには、守秘義務がしっかりしてることは当然だけど、最低ラインは受付は二十四時間、急な宿泊対応してくれることらしい。
まあ、冒険者なんてアウトローな奴らに紹介するんだから、そこは大事なことなんだろう。 つまり逆を言えば、一覧に載っている宿屋は、飯の良し悪しや施設設備はほぼ不問という、寝泊まりするにあたっての大事なことは問われない事になる。
だから、割高でも初日は一泊料金で泊まって様子を見ること、とリリから教えられた。
割安だからと数日分まとめて払ってしまうと、途中で引き払う際に違約金が上乗せされ、単純日割りの金額は返って来ないらしい。
ホント、リリ様のチュートリアル講義には感謝だ。
寝ている先輩を放置して、昼食を終えた俺は部屋に戻ると、夕方の集まりに先駆けて部屋の準備に取り掛かる。
総勢5人で囲むには少々小さいが、備え付けの机をベッドの近くに移動させ、足りない椅子をベッドで補える様にセッティング。その上に、先に借りてきたカップや皿、カラトリーの入ったバスケットを置く。
机動かしたりしてるのに、先輩ホント起きないんだけど大丈夫か?
少し不安に感じて呼吸を確かめに行く。
「・・・呼吸よし。生存中、と」
まあ、息してなかったらアービスの部屋に駆け込むだけだけど。
あ、あの犬呼びに行った方がいいのかな。あいつも色々あったから、何だかんだで爆睡してる可能性がある。
猫兄妹が来るにはまだ時間はあるが、ちゃんとした飯も食いたいだろうし一応様子見に行くか。
「―アービス、俺だけど起きてる?」
部屋の前で声を掛けるが返事がない。
「アービス?入るぞー・・・え?」
「クーン・・・」
しょうがないので、一応断りを入れて扉を開ける。
鍵?アービスから預かってたから非合法なことはしておりませんって、それ所じゃない。
扉を開けるとほとほと困ったと言う体で伏せる黒い犬。
「・・・」
「・・・」
あれ?俺、アービスに預かった鍵で開けたよな?つまり、ここはアービスの部屋で間違い無いわけで・・・。
スピスピと鼻を鳴らす犬に見覚えはある。
というか、正確には犬じゃない。
「何やってんのアービスさん・・・」
「クウ」
そう、我がパーティの期待の新人チートイケメン腹黒神官アービスのジャッカル形態(弱体化中ともいう)だ。
状況は全く不明だか、ここは解除アイテム『銀の針』の出番だろう。
「えーと、とりあえずぷすっと」
「・・・・・・・・・」
「・・・え?」
戻らない。
なんで?!昨日これで戻ったじゃん!!
「―あ、しゃべれる様にはなりました」
「いやいやいやっちょっとどうなってんの?!何でまたそんなことになってんの?!」
昨日一度戻ってるわけだから、アイテムの効果は消えているはず。
つまり新たに何か掛けられたってこと、か?何の為に?
「大変申し上げにくいのですが・・・すみません、ちょっと偽装魔法に失敗しまして・・・」
「は?」
滅茶苦茶焦って混乱してたら、アービスがこれまた申し訳なさ気に自己申告。
「え?何、自爆?犯人お前?」
「ええ」
どうやら目の前のは、自爆犬だったようです。
いや、よかないけど。
でもミイラ再びとかで無いから良かったか。
「この街では勿論、やはりハーフは目立ちますから、耳くらい何とかできないかと偽装魔法を試したのですが、私は普通の魔法が余り得意でなくて。まさか初期のこんな簡単な魔法で失敗するとは・・・」
「・・・とりあえず、専門家、だな」
「お手間をかけます」
ついでに俺も、魔法が失敗した際のことを聞いておかないと。
でも、これまでリスクを全然知らずに使ってたとか、知りたく無かったなー。
ホント、次から次にとなんでこういう初歩的かつ重要なことが伝わって無いのかね。こういう物こそ『しおり』に書いといてくれよ。
生徒のどてっ腹に穴が開いた際の対処法や、修学旅行で誘拐された際の対処法とか載ってたどっかの高校の担任お手製しおり程でなくてもいいから、せめて世界の概要とか、魔法の概念とかそういった初歩の初歩で良いから初期情報として載せといて欲しい。
やっぱりジジイは使えねえ。




