事件です!ホラーナイト終了!
あの賢者様は一体どれだけのものを仕掛けたのか。
地下にあるこの部屋までそれなりの振動が来たことから考えるのが怖い。
そもそも俺の記憶が確かなら、この家って住宅街に在ったはず。ご近所に損害がでていないことを切に祈る。
「って、考えんのは後にしないとな…とりあえずポイッと」
「・・・!フギャッ・・・(ジタジタ)」
何せミイラが上へ様子を見に行ったこの隙に、さっさと撤収しなくてはならないのだ。
丁度ローグが衝撃に驚いて静かになっているので、檻をたたっ切った後、中に落ちてた例の袋に再びINしする。
これなら静かだし、持ち運びに大変便利。
でも動いて持ちづらいので、ちょっと縛り口を下の方へキュッと。やはり随分丈夫な袋らしく、動き回る余裕が無くなるとおとなしくなった。
「で、問題は君だよな・・・」
この騒ぎにも静かにしていたアヌビス君。
今も小首を傾げて尻尾を緩く振っている。
「どうする?俺これから逃げるけど。散々ミイラと怪しい会話してた上に、今君のお隣さんを袋詰めした俺について来る?」
俺だったら嫌だな。
一難去ってまた一難じゃん。
でもアヌビス君はそう思わなかったらしい。特に悩むでもなく、こくりと頷いた。
「・・・」
まあ、来るって言うなら連れて行こうじゃないか。
あまりの素直さにもしかしたらこいつ敵というか、ミイラ側?とも思わなくないがとにかく時間が無い。何が起こるにしろ、起こってから考えよう。
やけくそ気味に開き直り、アヌビスの檻も破壊する。
「隠蔽魔法掛けるから声だすなよ?」
俺の十八番とも言える闇魔法だ。気配を希釈し相手に自分という存在を認識させない。
けれどこの魔法は便利だが、声とか出すと一発アウトという欠点もある。俺ひとりならスキルで更に高度化できるが、今回は同行者の協力に期待するしかない。さっきからずっと静かだしきっと大丈夫。
ついでにあの爆発音だし、燃えてたら嫌だから水魔法も掛けておこう。
転ばぬ先の杖は大事。
地下室から上の部屋に上がれば、開け放たれたタンスの向こうに見えるのは炎と煙。
火事ですね。
「・・・」
「・・・」
案の定燃えてました。
しかも唯一の出入り口の先が火の海って笑えない。いやホント。
アヌビスが視線で大丈夫?と聞いてくるので頷いておく。念のためにかけた水魔法の効果もあるので煙や火にまかれはしないはず。
だがもたもたしていれば、もれなくローストにゃんこ。火の海に飛び込む覚悟を決めるしかない。
「!」
アヌビスを抱え上げ、タンスをくぐる。
突然持ち上げられたアヌビスが流石にジタジタするが、靴を履いていないのに火の中を歩かせるのはどうにも良心が痛むわけである。
放り投げたりしないから、おとなしくしてておくれ。
って、しゃべれないから伝わらないんだけど、害されるわけでは無いのはわかったらしく、おとなしくなった。
ちなみに袋は腰のベルトに括りつけている。ぶつけないように気をつけなきゃ。
家自体そんなに広くなく、燃えてることを除けば外に出るのにそんなに時間は掛からない。
けれど、いくら隠蔽魔法を使っていても騒ぎで人が集まっている正面から気づかれずに出るのは難しい。気づかれれば色々ややこしこと必須。
と言うわけで、たぶん裏口があると思われる台所へ向かっているのだが、この火事の原因の先輩はとにかく、先に様子を見に行ったミイラの姿が見当たらない。俺を置いて逃げたか、そこら辺で燃えているのか。
できれば燃えててほしいな。後腐れ無いし。
数分後。
俺とアヌビス、お腰につけた猫袋は無事民家の裏口から脱出。
裏口のドアを開ける際に、もしかしたらと警戒もしたのだがそこにもミイラの姿は無かった。
本当に中で不慮の事故ってことで燃えていてくれればいいが、もし逃げていた場合、元に戻ったローグとアヌビスを見つけられた時が厄介だ。弱体化の解除方法を知る存在が居る、ということを相手に知られてしまう。
本来の顔が割れていないから、直ぐにどうこうなるとは思わないが、こっちに来てから碌なことになっていない現状、どこで何がどう転がってくるか分からない。
でも、モンスターならとにかく、相手がミイラでも、どんなに自分に言いつくろっても、意志の疎通のできる相手を攻撃するのは戸惑いがあった。
見かけとやってることのおかげで、大分ハードルが下がる相手ではあるが、平和な日本で暮らしていた身としては中々にきつい。
しかし現代日本の様に銃刀の所持が禁止されているわけでも、法律や警察機関が発達しているわけでもないこの世界では、そんな甘いことを言っていれば遠からず生贄エンドのフラグが再発だ。ちゃんと割り切らないといけない。
そう思えば、躊躇なく民家を爆破した先輩はメンタルオリハルコンだよな・・・。
「はぁ・・・、とりあえず帰るか」
「クゥ」
少しばかり剣と魔法の世界のシビアさに沈んでしまった気持ちをため息に乗せて吐出し、隣でおとなしく座っているアヌビスに声をかける。今は静かで誰もいないが、いつまでもここに居るわけにはいかない。
裏口が面していた道というか隙間に近い空間を抜け、拠点にしている宿屋を目指す。
アヌビスも連れて行くのは最早賭け。
でも、そう悪い感じはしないから直感を信じようと思った。
一応、爺様つながりだしな。
方や爺様に世界を救うために異世界から引っ張ってこられたのに碌な恩恵の無い勇者、方やその爺様を信仰する神殿関係者。あれ?文字にすると仲良くできない気がするのはなぜ?
「先輩申し開きがあるなら聞きますけど、とりあえずコレどーぞ」
「えっ!ちょっ、待って。俺もさすがにあれは反省しとるしっ!頼むからその試作変身薬持って迫らんといてっ!!」
大丈夫。とりあえず、回復薬も用意しているから来世へは行きませんって。
宿屋に帰り着くと、先に着いていた先輩はのんびりトウラと夜食をとっていた。
これは怒ってもいいはずだ。人を火事の真っただ中に放置した原因に俺は怒りをぶつける権利がある。
とりあえず、機械オイル味でも食らえっ!




