大戦争イベント⑥
イベント全部のタイトルを『大戦争イベント+話数』に変更しました
制限時間の半分が過ぎた頃か――。
右上に表示された〝イベント用ミニマップ〟には黄色と青色の点が混在している。点は石像を意味し、色は王国と帝国を表す。
『ベリル、どんな感じ?』
『そうですね。石像の総数33の内、王国を表す青色は〝18〟です。女神像はどちらの拠点にもなっていません』
『現状勝ってるけど大きな差はなしか』
『いえ――我々は負けてます』
話の間にも俺達のいる石像が青色へと変わり、王国の拠点となった石像の数は19となった。
ポイントでいえば、王国約460万ポイントに対し帝国は約490万ポイントと約30万の差がついている状態だ。今回のイベントは〝石像の確保数〟ではなく〝最終ポイント数〟の多かった国が勝利するため、拠点こそ多いが俺達は負けていた。
『暴れる方向に切り替える?』
『うおおおおやるぞー!!』
ダリアの言葉を聞き、待ってましたと言わんばかりに気合いを入れるアルデ。ベリルは何か考えている様子で、青吉は暇そうに水の剣を作ったりして遊んでいる。
部長は既に寝落ちしている。
戦闘が途切れ途切れだから無理はない。
意味ありげな石像だが、女神像以外は一つ一つの効果は少ない――ポイントで負けてるならば、石像奪取の目標から遊撃に回る方が賢いのか?
『ちょっと待ってね。確かに石像の恩恵が感じにくい所もあるけど、それでも俺達がやってきた事が無駄になるのは虚しくないか?』
このまま中断するのもモヤッとする――。
こうなったら半ば意地である。
アルデが露骨に嫌そうな顔を向けてくるが、全部で3日あるイベントだから、初日はこんなもんで十分だと思うけど……。
『ちょっと不毛な気もしますが、先程気になる考察がチャットでされていて、それを確かめてから目標を決め直すのもアリかなと考えます』
そういいながら、ベリルはある方向に指を向ける――そこには黄色に染まっている召喚士の英雄ウェアレスの像が佇んでいた。
『あの像がどうかしたのか?』
『我々王国軍はウェアレス像を三箇所占拠しています。今回二代目の英雄を模した像ということで、英雄像は全員で八体ありそれが四体ずつ合計32体(一体は女神像のため除く)あると過程して――あのウェアレス像を占領すれば、我々は全てのウェアレス像を占拠したことになります』
そこまで聞いて、俺はベリルが何を言いたいのかを理解した。
『つまり各英雄像四体を同じ国で独占占拠した場合、何かボーナス的なものがあるって言いたいんだね?』
『あくまで推測ですが』
それを聞いて、ダリア達も黄色のウェアレス像へと体を向ける――俺たちのやるべき事が決まった。
『占拠中にうちのウェアレス像が奪取されないとも限らない、速攻で決めよう!』
『了解!』
* * * *
黄色のウェアレス像には全部で六体の帝国兵と五人の帝国プレイヤーが守りを固めていた。
味方プレイヤーの姿は無い。
嫌な予感を覚えた。
『チャットで考察していた人達が居ると思ったけど、まだ来てないかそれとも――』
『もう倒されたか、ですね。チャットを見かけた時間から考えて、誰も着いてないとは考え難いです。きっと倒されたんでしょう』
俺達の間に一気に緊張が走る。
今までで一番強敵の可能性が高い。
『あっくんが帝国兵に攻撃。前と同様に、その後残ったプレイヤーをダリアお姉様の火属性または闇属性で一掃する形で行きましょう!』
ベリルの指示に各自動き出す。
俺たちの接近に気付いた帝国プレイヤー達が何か膜のようなものを発動すると、それを飲み込む形で青吉の水属性魔法が炸裂した。
『耐えたんでしょうか?』
『いや、あれは耐えたというより――!』
俺がそう答えようとした瞬間!
バヂヂヂヂッ!!
電撃の束が青吉の体を貫く……寸前のところで、割って入った俺の盾越しに電撃が襲いかかる!
体に走る衝撃と痺れ、そして視界はチカチカと瞬くようにボヤけ俺はたまらず膝を突いた。
今ので何割持っていかれた?
8割、いや9割か――?
俺のLPは赤ゲージがかろうじてミリ単位で残っているだけで、防御技を使えなかったのもあるが凄まじい威力だった事が窺える。
恐らく俺よりもかなりレベルの高いプレイヤー。或いはOさんみたいに、威力に特化したプレイヤー、か。
『部長ごめん、麻痺とLP回復頼む』
『はーい』
部長からの回復を受ける俺の目の前に、子供達がゆらりと歩み出る――その目はどこか怒りに燃えているように見えた。
『燃やす』
『押し潰す』
赤と青のオーラが立ち昇る。
その二人をベリルが止めた。
『待ってください。恐らくあの膜は魔法威力の減少か無効の効果を持つ防御技です。ダリアお姉様もあっくんも、ここでは不利です』
そして、視線を後ろに向けるベリル。
視線を受けた影が大きく頷いた。
『ダイキ殿。拙者に完全蜃気楼を』
俺の横に寄り添うようにして立っていたアルデが歩み出る。その手には、父親から授かった固有武器〝黒波〟が握られていた。
俺が黙って頷くと、ダリアと青吉はアルデに託すように互いの持つ最大魔法をアルデに向けて放った――その魔法はそれぞれアルデの体と刀に収まり、赤と青の光が強く放たれている。
アルデ以外の全員の体が宝石に変わり、それらはアルデの体に吸い込まれてゆく。
光に包まれるアルデの姿は、かつての完全蜃気楼の時の姿とは大きく変わっていた。
刀を携えた美女――。
引き締まった筋肉と180はあろうかという長身に加え、いつもは活気に溢れた目は据わり、帝国プレイヤー達に刺すような視線を向けている。
通常時よりもさらに肥大化した胸と、牛のツノ。年の頃は20くらいとなったアルデに、小人族だった頃の面影は無い。
刀を鞘に戻すと、
抜刀の形でぴたりと止まった。
メキメキと刀を持つ手に力が篭った。
大地を踏みしめ、ギンッと顔を上げる。
『推して参る』
ドンッ! と、弾丸のようにはじき出されたアルデは一瞬のうちに敵の懐に潜り込み、攻撃技を繰り出した。
『《抜刀・黒閃》』
直後、五人のうちの四人がズレた。
辛うじて防御技で凌ぎ切った最後のプレイヤーも、すれ違う要領で叩き斬られ、一言も発する事なくその場に倒れ伏した。
ヒュン――パチンッ!
倒れた敵全員を背に、アルデは払うようにして刀を鞘へと戻したのだった。