いざ雪山へ
その後、言い争いを終え満面の笑みで「報酬はやらんが同行させてくれや!」と頼み込んでくる九曜さん。
俺は少しも悩む間もなく、きっぱりと答える。
「無理です」
「!?」
九曜さんが目を見開いて固まった。
その後B.Bさんを鬼の形相で睨んでいる。
言い争いが再熱することを恐れた俺は慌てて弁解する。
「ごめんなさい、それが盾との交換条件なら盾は諦めます。真名解放のイベントはこの子達にとって本当に重要な瞬間になると思いますから」
そう言って俺は頭を下げた。
この子達関連のことを交換の条件に出すのはそもそも苦手だが、特にこれを受け入れるわけにはいかなかった。トッププレイヤーの九曜さんが付いて来てくれるという安心感はあるが、それなら花蓮さんに頼む方がいいと思うし。
「だってさ。てゆーか、その盾は迷惑料で渡した物だし、今更返せなんて言わないよ。まぁ気を悪くしないでね。キューちゃんは純粋に……まぁゲームを楽しんでるだけだから」
B.Bさんが放心状態の九曜さんを叩きながら笑う。このやり取りを聞いていたハナさんは、何かを閃いたようにカッと目を見開く。
「召喚獣の真名解放お助けセットを販売したらバカ売れ不可避?!!」
「聞いて分かる通り、私以外はヤベー奴しかいないから、うちのギルド」
肯定はできないが否定もできない――という言葉を飲み込みつつ、さてどうしたものかと考える。九曜さんがソレを目的にこの場所に来るのを許可してくれていたのなら、何らかのリターンを用意しないと気の毒かと思ったからだ。
体操座りをする九曜さん。
俺は恐る恐る声をかける。
「ほかに、そのほかに出来ることで可能な範囲ならですが、何かしましょうか?」
九曜さんは体操座りのまま俺の方を見上げ、しばらく「うーんうーん」と唸った後、嬉しそうに立ち上がった。
「なら今度のイベントで俺とガチろうぜ! これならどう?! いいよな!? な??」
「なんで私に聞くわけ?」
チラチラと俺達の方を見ながら、B.Bさんに耳打ちする九曜さん。
今度のイベントはPvPで、王国と帝国の全面戦争が内容。風の噂で九曜さんは帝国側につくと聞いたことがあるが……。
それくらいならいいかな?
俺は子供達を見下ろす。
ダリアがいち早く頷くのを見た。
「分かりました。大規模な戦闘だと思うので会えるかどうかは分かりませんが、当たった時は必ず全力で戦うことを誓います」
「そーかそーか!! うおおお燃えてきた!!」
先ほどの落ち込みはどこへやら――この狭い(失礼だが)工房の中で、喜びのあまり鋸型の剣を振り回す九曜さん。
それを笑顔を浮かべたB.Bさんが巨大な金槌で殴り飛ばした後、B.Bさんは何かのボタンを押す。
「と、いう訳で、今日はわざわざご足労かけて悪かったね。今後何か欲しいときはキューちゃん経由じゃなく直で私に連絡したほうがいいよ」
そう言って、フレンド依頼を送ってくれるB.Bさん。その流れで九曜さんとハナさんともフレンド交換を済ませると、同時に上のスチームパンク達が振動を起こし、動いてゆくのが見える。
なんだろう。
何が起こるんだ?
物に埋もれた床が光を放つ。
ダリアが俺の足にしがみついた。
「そいじゃまたね〜」
直後――俺達は空にいた。
はるか眼下に開いた小さな穴を見て、ようやく状況を理解した俺達は、なす術なく砂漠のど真ん中に落下していったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
吹き荒ぶ雪と、険しい道。
目指すは〝霊峰ノクトール〟の麓にある町――雪の町だ。
「皆、寒暖差で気持ち悪くなってないか? ガムの効果はどう? 効いてなかったら必ず言うんだぞ」
縮こまるように俺にへばりつく部長以外、むしろ雪景色を楽しむように駆け回っている子供達。特にアルデに変わった様子もないためひとまず安心して先へと進む。
「部長、大丈夫か? 寒い?」
『目に雪が、寝心地悪ーい』
どうやら睫毛が凍るのが気になって眠りにくい様子なので、俺はショップから『なりきり北極探検』シリーズの『隊員のゴーグル』を課金購入し、部長の頭にセットする。すると程なくして、部長はいつも通り寝息を立てて静かになった。
服を着せるのは嫌がるのにコレはOKらしい。
「皆! あそこに洞穴が見えるから、一旦あったかいシチューでも食べてから進もう!」
たしか、以前マイヤさんから貰ったシチューがまだ残っているはず。俺の言葉を聞いてダリア達は一斉に洞穴を目指して歩き出した。
未だにモンスターと遭遇してないのが気になるが、慣れない環境での戦闘は少し不安が残るから良しとしよう。いや、慣れない環境だからこそ練習したほうがいいのか――わからん。
遅れる形で洞穴に着いた俺は、なぜが子供達が入り口で固まっている事に気づく。
「ん?」
気になって洞穴の中を覗くと、そこには器用に焚き火をして暖を取る天使と包帯を巻いた少女の姿があった。
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