天使と包帯少女
焚き火を囲う、天使と包帯少女。
この組み合わせ、このシチュエーション。
生涯二度と目にできない光景だろう。
《シャルエル Lv.100》#NAMED BOSS
《ル・ナハ Lv.85》#NAMED BOSS
そしてこの二人、名持ちモブだ。
レベルからしてかなりの格上。
戦おうにも、挑まずとも勝敗など分かるこのレベル差に、俺も司令塔であるベリルも思考が止まっているようだった。
ベリルは二人を見て『あれ……掲示板の……?』と、相当動揺している様子。
その中でも唯一、物怖じせず動いたのはダリアだった。二人の名持ちモブを前に何食わぬ顔で焚き火の前へと腰を下ろし、無表情のまま尋ねる。
『シチュー、食べる?』
二人の名持ちは対峙した時こそ警戒している様子だったが、隣に同じくらいの女の子が座ったことで警戒心が和らいだのか、互いの顔を見つめ合い――ゆっくり頷いた。
流石、この中の誰よりも肝が据わっているだけある。
ダリアが俺の方を見る。
俺も遅れて動き出した。
「こんなに大勢だと足りるか分からないな」
持ち物を漁りシチューの入った鍋を焚き火の上に置くと、二人の名持ちは目を輝かせてシチューという食べ物に釘付けとなっていた。
相手がモンスターでも変わらないな。
カレー、シチュー、ハンバーグは共通して子供の大好物ということだ。
俺はついでにパンとバターを用意して子供達+天使と包帯少女に手渡してゆく。そして人数分の皿を用意し、均等に掬ってよそってゆく。
足りなそうだな。
俺の分も皆の分にして配るか――。
目の前に置かれたシチューとパンを、天使と包帯少女は睨むようにして凝視している。そしてダリア達が美味しそうに頬張る姿を見てか、二人もそれを食べ始めた。
俺は適当に、ダリアの非常食として持っていたウインナーを木の枝に刺して焚き火の周りに置いていく。
名持ちモブと食事するとはなぁ――。
ゲーム内で色々な経験をした俺だが、まさかモンスターと戦うのではなく、ご飯を食べることになるとは思わなかった。とはいえ、このビジュアルでは攻撃する気にもなれないが。
「ん?」
包帯少女が俺の服をくいくいと引っ張る。
気になってそちらを見ると、どうやら俺の分のシチューが無い事に気付いたようで、自分の残りのシチューを俺に渡したいようだった。
「優しいね。でも大人に遠慮しなくていいんだよ」
そう言って頭を撫でてやると、包帯少女は体をビクつかせて俺を見上げた。
いつものノリで子供は撫でるものだと体が慣れてしまった弊害か――とっさに手を離し「ごめん」と謝ると、包帯少女は自分の頭を2、3度撫でた後、指を口に咥えて物欲しそうに再び俺を見上げた。
撫でる方をおかわりか?
シチューは無理だがそれならあるぞ。
再び包帯少女の頭を撫でてやると、完食した様子の天使少女が俺の反対側にストンと座り、満面の笑みで自分の頭を指差した。
名持ちモブの二人の頭を撫でる俺。
なにこの時間――と思いながらハッとなり、子供達の方へ顔を向けると、特にダリアからの怨みのこもった視線に気付いた。
吹き荒ぶ雪を凌ぐ洞穴の中で、とりあえずお詫びを込めて順番に頭を撫でていく俺。
高難易度ダンジョンに挑みに来たのにこんなに平和でいいのだろうか? などと考えていると、屈指のコミュ力を誇るアルデが声を掛けた。
『ねえねえ。二人の名前は? どこから来たの?』
天使と包帯少女はそれに答えている様子だが、俺にその言葉を聞くことはできない。それを察してか、ベリルが翻訳してくれる。
『白い羽の子がシャルエルで、包帯の子がル・ナハ。色々なところを旅してるみたいです』
「ふうん、若いのに偉いなぁ」
我ながら年寄りみたいな返答である。
そこからアルデと二人はなにやら盛り上がっているようで、例の如く部長は寝ているが、そこにダリアと青吉も加わっている。
『そうなんだ。なら拙者達と一緒に来ればいいのに!』
そう提案したのは、人一倍優しいアルデ。
アルデさん?! 流石に名持ち二人を連れて歩いたら色々な所で被害でちゃうよ?
『二人は色々な人に攻撃されて、住む場所を転々としてるみたいですね。ル・ナハさんに悟らせないように、シャルエルさんはそれを旅と形容しているようです』
「……」
名持ちモブを専門に倒すマイさんとブロードさん達のギルドもある程だし、いくら見た目が可愛いからといえどモンスターはモンスター、か。
とはいえ、どうすることも――。
「あ、そうだ」
思い出した。
俺にはまだ召喚枠が二つあるじゃないか。
クラスアップの特典で得た完全蜃気楼と、召喚獣を多く連れ歩ける大家族のスキル、そして召喚枠を新たに2つ増やすボーナス。
青吉の前例を考えてみても、名持ちモブを召喚枠に迎え入れるのは可能なはず。しかしあの時は海竜神様の介入ありきでの加入だったからその辺に不安が残るが――。
『どうする?』
ダリアが二人に尋ねる。
二人は互いに顔を見合わせた。
ベリルが寂しそうに通訳する。
『まだ信じ切れないから、ごめんなさい。だそうです』
「そっか。まあ、そりゃ当然だよな」
大勢のプレイヤーから狙われて追いかけ回され続けていたのだから、たまたま害のない俺達と出会った所で信用できないのも無理はない。
せめてもの気持ちとして、俺は所持品にある食料を振る舞うくらいしかできなかった。シャルエルとル・ナハはそれを美味しそうに頬張っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
吹雪が止んだ雪山は幻想的な風景に変わる。
雪の中から顔を出すノンアクティブの兎を眺めながら、俺達はシャルエルとル・ナハに別れを告げる。
二人は洞穴にしばらく滞在するようだ。
吹雪が来れば他のプレイヤーからも隠れることができるだろうし、洞穴に置いた食糧を食べながらゆっくり休養してほしい。
『うう、本当にいいのか……?』
別れを惜しむアルデ。
ル・ナハはシャルエルを見つめ、
シャルエルは俺を見つめている。
ほどなくしてアルデは『さよなら』と手を振り、ダリア達もそれに倣うように手を振った。
聞こえないが、二人は結局〝さようなら〟を選択したのだろう。
「二人とも、またな」
俺は同じように手を振り、それだけ伝えると子供達を連れて霊峰へと歩き出す。その後、何度か振り返ってみたが、洞穴の入り口で二人はずっと俺たちに手を振っていた。




