第九話 動き出した運命の環
部屋のパソコン画面を見ながら松三浦咲枝はため息をついていた。《アマテラスオオミカミ》のデータを復帰してから元フレンドからのフレンド申請がやって来ていちいち返すのにも面倒になっていた。あの事件を乗り越えた今、フレンドは全て取り消し、一人もいなかった。《ノア》でさえ取り消して誰とも繋がっていない。強いて言えば《ツクヨミ》と《人狼》とやりとりしているぐらいだ。
私は京都で生まれ育った。名家・松三浦の長女として生まれた。生まれた頃から武道を習ったり、勉強もさせられ、周囲の期待に応えたりと精神的に疲れていた。そしてパソコンゲームの世界に飛び込んだ。ただの気紛れだったけれど私にとっては運命を変えるような出来事だ。でも……あの事件が起こり、私は《アマテラスオオミカミ》を封印し、パソコンゲームの世界から去った。そして京都の実家から逃げ出し、東京のこの学校にやって来た。
その時、メールが入ってきた。《ツクヨミ》からでチェス対戦の申し込みだった。
(……私はずっと誰にも必要とされなくて私を見てくれなかった。でも……――。)
事件が起こったのはそれから三日後の5月の初めだった。
「え?今……何て?」
崇は鷹矢の言葉を疑った。今は放課後でパソコンクラブにいる。咲枝は居なくて二人だけだった。
「だから……《ツクヨミ》が消されてしまった。」
「……誰に?」
「《アマテラスオオミカミ》。」
鷹矢はそう言った。崇は何も言えずに下を向いた。
「あれ?鷹矢君は?」
鷹矢を帰し、咲枝が来るのを待っていた時だ。咲枝はドアの所で顔をだした。
「……《ツクヨミ》消したんだな。」
「……消した?誰が?」
「《アマテラスオオミカミ》が。」
崇の一言で咲枝は首を傾げた。そしてしばらくの沈黙が続いた。
「今日、正体明かそうとしたんだけど……。」
「え?お前が消したんじゃないのか?」
「うん。……《アマテラスオオミカミ》を名乗るのは二人。多分彼女だろうね。」
「二人?」
咲枝は頷いた。
「試しにカタカナで入力してみて。私はAMATERATH って書く方のアマテラスオオミカミ。最後のスペルが違うんだよね。」
崇は試しにパソコンを開いて入力してみる。確かにカタカナでやると2件ヒットした。ランクがとても高いのが《AMATERATH OMIKAMI 》で、そこそこのランクは《AMATERASU OMIKAMI 》だった。今まで二人いたとは。そして手が止まる。
「……誰か知ってるのか?」
「知ってるよ。……明日呼んどくから放課後4時半に葵ノ湖公園の展望台の茂みに鷹矢君を引っ張ってきて。」
てきぱきと指示され崇はこくこくと頷いた。