(番外編)12話(プロローグ)
「これは、ルカ様の奥様。お初にお目にかかりますわ。私はリンデル伯爵家の次女、マリアンヌと申します。ご主人様とは何かと、お仕事の話をさせていただいておりますの」
「まあ、いつもありがとうございます。こちらこそ、主人が大変お世話になっているようで感謝しておりますわ」
(なんだか……とてもわざとらしい物言いだわ)
わずかに感じた違和感を隠し、わたくしは完璧な笑みを貼り付け返した。
すると彼女は、挑戦的な目をこちらに向け、言葉を続けた。
「確か、奥様はルカ様よりもずいぶんとお年が上だと伺っておりましたけれど……とてもそんな風には見えませんわね?」
白々しい、あからさまな言い方だった。
たぶん、わたくしたちの年の差についてルカが彼女に話したわけではないはずだ。
社交界の貴族たちは何より噂話が大好きだから。きっとわたくしとルカが結婚に至った経緯も、当時は興味本位に語られていたに違いない。彼女もそれをどこからか聞きつけたのだろう。
そんな悪意を感じながらも、わたくしは毅然とした態度で微笑んだ。
「まあ、ありがとうございます。きっとそれは、主人が年のわりにとても落ち着いているからだと思いますわ」
「おっしゃる通りですわね。ルカ様はお若いのに、とても堂々とされていて、その上いつも冷静ですもの」
彼女はさも当然のように頷いた。
「奥様、よろしければ次の曲、ルカ様をお借りしても構いませんかしら? ねえルカ様、私と一曲だけ踊ってくださいませんか」
「えっ……」
急な誘いに、ルカは一瞬驚いたように目を見開いた。どう対応すべきか困惑した様子でこちらを見てきた。
わたくしは胸のモヤモヤを押し殺した。
「どうぞ、踊っていらして。わたくしはお友達と歓談していますから」
そう答え、無理に笑顔を作り促した。するとルカはとても気まずそうに頷いた。
「……でしたら、一曲だけ」
そう答えるやいなや、彼女は嬉しそうにルカの手を取り、引っ張るようにしてダンスホールの中心へと連れて行ってしまった。
会場に音楽が響く中、残されたわたくしは遠ざかる二人の姿を見つめながらじっと考えてしまった。
彼女のあの若さと、あどけない愛らしさ。そしてわたくしとルカとの八歳という埋められない年の差。
この先、嫌というほど思い知ることになるのだと。
その上、『仕事』という正当な理由がある限り、これから二人が顔を合わせる機会は確実に増えていくのだという現実。
この得体のしれない不安と嫉妬が胸を締め付け、舞踏会の賑やかな話し声すらも、わたくしにはどこか遠くに感じられた。
──そう。この日を迎えるまでのわたくしたちは、間違いなく幸せの絶頂にいたはずだった。
この舞踏会に参加する前までの日常では……。




