表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/17

第8話 センチュリオンキャンサー3

 例のレーザーを撃つ溜めモーションに入ったのに、今度はすぐに何かを吐いた。

 すわ、モーション変化で即撃ちか!?と焦ったが、レーザーは飛んでこない。

 吐いたのは浮遊する巨大なシャボン玉だ。

 それがみっつ。

 ふわふわと私を目指す訳でもなく、その辺を漂う。

 なんだこれ?

 カニは訝しがる私を無視して横を向いた。

 なんだ?

 なんで?

 向いた先にはふよふよと漂う泡。

 その泡に向かって射撃モーションに入る。

 え?お前まさか?

 脳裏によぎるタコイカ姉妹のイカの方。

 泡を設置して魚雷召喚、魚雷は泡の間を転移しながら飛んで……あぶない!

 思った時には体が反応していた。

 泡に当たったレーザーが泡の内部で反射して別の泡へと飛び、そこでまた反射、私へと飛んできたレーザーがバク転する私のギリギリで飛び去る。

 それを目で追ってその先に泡があるのがちらりと見えた。

 げ。


「死んでたまるかクラムボン!」


 もうひと反射があった。

 あえてアバターの制御を手放して本来なら手で着地するところを転んだようにべちゃりと五体投地して落ちる。

 その上をレーザーが飛び去った。

 あぶな。

 なんてことを。

 これをされるとレーザーは極論後ろに向かって撃っても良い。

 口が狙えない。

 時間経過か?

 それとも口の中にダメージを与えると対策で発動?

 そう思っている私の前でまたカニが泡をみっつ吐いた。

 マジか。

 先に吐いたみっつはレーザーを反射して消えたので、どんどん数が増える訳ではない。それでもこれが常時みっつ漂っているのはちょっとキツい。

 いや、増える可能性もある。

 投擲で壊すのが安全策だけど、問題はもう投げるものがその辺の石しかない。

 試しに拾って即座に投げる。

 あー、そりゃ弾きますよね。

 スキルを乗せれば壊せるかもだけど、そのリキャストを待つ間に向こうもリキャストが切れる。

 正直モーション見切ってるレーザーはボーナスみたいなものだったのに、それが泡の位置を常に確認する必要が出てきて脳みそに対する負荷が上がる。

 って、こっち来んな!

 かっ飛んできたハサミの一振り目を躱し、タイミングが掴めたので二振り目をハサミへのダメージ狙いでカウンターでパリィする。

 角度が逸れて地面へと突き立ったハサミの変化に気が付く。

 私が何度も斬り付けて、鈍色の霧(ダメージエフェクト)が微妙に漏れ続けるようになったわずかな亀裂があった。

 それを見て、少しばかり息を吐いて、力を抜いた。

 落ち着け。

 思い出せ。

 カーテンコールでの戦いを。

 フォックスレインでの自分をイメージする。

 ここまでやってみた感じ、ダメージ判定はフォックスレインと変わらない。

 刀剣による斬撃の場合は、刃がどれだけの距離を敵の身体の上を走ったかによって、ダメージ倍率が変わる。

 刃の真ん中に当たっただけなのと、握った手元に近い部分から入って切先まで綺麗に刃が抜けた時では倍以上ダメージが変わってくる。

 結局、スキルというのは挙動の補助に過ぎない。

 スキルが通常攻撃よりも当てやすくなるのは、この当たり判定をスキルエフェクトが補強してくれるから。

 補強された分だけ倍率が上がって攻撃力が上がる。

 手数が上がる、バフがかかる、攻撃範囲が広がる。

 実際、刃が1ミリも当たっていなくても、スキルエフェクトがしっかり当たっていたら、ダメージは稼げる。

 そんなプレイでは、あの女狐は倒せない。

 必要なのは、あの無名技だった。

 私はそれを源流(オリジン)と呼んでいた。

 完璧な動作にシステムが見事と応えるように、フォックスレインではスキルじゃないのにエフェクトが発生する攻撃があった。

 綺麗な線を引く。

 虚空から入って、虚空へと出る。

 相手の身体は通過点に過ぎない。

 ゆるやかに刃が弧を描く。

 ストロベリーシェイクが一際赤く輝いた気がした。


畢竟(ドローアライン)


 と、今までと違う感触があった。

 あれ?スキルエフェクトは出てなかったよね?

 畢竟はフォックスレインで私が格好つけて呼んでただけだ。そんなスキルはケルベロスヘッズに存在しない。いや、存在してるかもしれないけど、少なくとも私はそんなものは覚えていない。

 それなのに放たれた斬撃は弾かれたようなそれではなく、確かに斬り通せたような確かな手応え。

 斬り飛ばせはしなかったものの、半ばから絶たれ、ぶらりとその腕が垂れ落ちた。

 大ダメージを示す、鈍色の霧(ダメージエフェクト)が大きく漏れ出す。


「おぉー!」


 来た!来たよ!

 マジか!

 次の一撃で絶てる!

 即座に蒔かれた者ドラゴントゥースウォーリアーを発動。自己バフでスケルトンのステータスにプラス補正が入る。さらにカインの末裔(グレンデル)を発動。こちらはオーガにプラス補正だ。

 もう一度やれって言われても、畢竟は絶対に失敗する!散々フォックスレインでやらかしてきたから分かる。あれはマグレだ。

 というか、もっと余裕のある時に検証すれば良い。

 今は素直に残してたスキルを動員する。


一房の髪(タナトス・セイバー)


 追撃の一撃、今までになかった充足感を持って放たれた斬撃は確かに左ハサミを断ち切った。今までの硬さが嘘みたいにさらりとした、それこそ長い髪を撫でたみたいななめらかさで。

 声なき悲鳴が聞こえた気がした。

 かつてない大ダメージに開いた口から大気を震わせる振動が漏れる。

 しかしここは死地だ。

 残った右ハサミが再度振られる。

 それをバク転で躱して。

 躱して?

 躱せず私の両足が絶たれた。

 痛みはない。フルダイブゲームにおいて、痛みというのは再現されない。

 人によっては現実の肉体に影響が出ることがあるという。だから痛みはフルダイブゲーム最初期にカットされた感覚だ。

 感じるのは熱。

 そこだけストーブに近づきすぎたみたいな熱を感じる。

 なんだそれ。

 なんだよそれ!

 これまでにも随分と初見殺しはあった。

 生き残れたのは純粋にフォックスレインで、同じメーカーの作ったゲームで見てきた敵の挙動、その対処経験からだった。

 そして食らった瞬間に思い出した。

 このカニの正体だ。

 アルケミストキャンサー。

 キュリオスゲーム社制作のロボゲーに登場した人類を一度絶滅寸前にまで追い込んだ魔獣。

 ハサミは燐光を放ち、そして振り回せばその斬撃は宙を飛んだ。

 間合いの外へと逃れたはずが、その間合いが伸びていた。今まで使ってこなかったのは、一定ダメージでの発狂モードだろうか。

 部位破壊判定を受けて私の両足が無くなる。

 損傷を直せる回復薬はない。これは状態異常と一緒で必要な対処をしないと治らない。

 私には現状、その対処法はない。

 ハサミを失ったカニが後ろへと退がっていく。

 遠距離からのレーザーか。

 不用意に近づいてこない辺り、良く出来たAIだこと。

 遠ざかるカニを追うように残った腕で這いずる。

 まだできることがある。

 そう信じて。

 カニから一番近い泡へと向かってレーザーが放たれる。

 泡に反射してこちらへと向かう。

 当たれば即死、そして躱そうにも膝から下がない。

 這いずる腕が落としたハサミに届く。

 これをインベントリに仕舞えばとりあえずの報酬は手に入る。

 良くやった。

 微笑む女狐の顔が思い浮かんだ。

 あ?

 決して軽くない、未だ燐光を放つハサミ、その断ち切った端を掴む。

 あーあ、仕方ない。

 ため息まじりに呟く。


空蝉(ヴォイド)


 目指すのは初見クリアだ。

 知らなかったから失敗しました?

 失敗してもまた挑めば良い?

 私はラストダンサー隊で何を学んだ?

 視界が切り替わる。

 指定した転移先はカニ、その眼前だ。

 肩が軽い。

 あの大袖、また作れると良いんだけど。

 暗室殺視アイ・オブスキュラ発動。

 視界が暗く、極端に狭まる。

 見えるのはレーザーを放ってこれ以上ないくらいに開かれたカニの口だ。

 その奥にハサミと同様に一際強く燐光を放つ、脈動するフジツボみたいな物が見えた。それがこのカニのレーザー放射器官なのか、それとも実際に別のモンスターが共生しているのかは知らない。

 はっきりと分かるのは狙うならこれしかないということだ。

 おっと忘れずにね。

 レアドロップを期待する以上にクリティカル倍率を上げてくれと願ってわずかな希望に縋る。

 箱に残りし希望(エルピス)

 そして口にする。


羊飼いから王へ(ダビデズ・スリング)


 これはただの羊飼いを王へと押し上げる、その最初の一歩。すでにこの手にゴリアテの剣はある。

 手にしたセンチュリオンキャンサーのハサミを投じる。

 暗室殺視、羊飼いから王へ、蒔かれた者、カインの末裔、今できる自己バフの全てを乗せて青白い燐光が煌めきを残して飛ぶ。

 それは狙いを過たずにフジツボへと直撃して、まるで花火みたいに綺麗に砕け散る。

 見えたのはそこまでだ。

 落ちる。

 演算された重力に従って地へと落ちる。

 着地も出来ずに潰れるように。

 どうなった?

 これでダメならもうおしまいだ。

 両の腕で体を押し上げ、巨大な威容を見上げる。

 目にしたのはあれほどまでに暴れ回った巨体が震える姿だった。

 身体中に走る燐光の筋が怪しく明滅し、ビシリと何かが割れる大きな音が響く。

 口から、そして身体中に生じた罅割れから炎のように吹き上がる青白色の光。

 震えながら巨大な目が私を見た。

 その目にも罅が入り、そして鈍色の霧と鮮烈な青白色の輝きを残して恐るべき魔獣は姿を消した。

 どさりと大きなハサミや刺々しい甲羅の欠片、歩脚の一部、燐光を放つ臓器じみた結晶を残して。

 まさしく宝の山だ。

 それを目にして覚えたのは喜びよりも先に、あのどうしようもないモンスターを倒したという満足感だった。

 戻ってきた。

 私は戻ってきた。

 私は誰だ?

 私は八月朔日ほづみ

 フォックスレインで多くの怪物を滅ぼした葉隠の八月朔日だ。

 ふと思い出したようにリプレースメントの適合率をチェックすると100%になっていた。

 長いこと覚えていた喪失感、それがようやく埋まった気がした。

ここまででプロローグが終了といった感じです。以降はキリの良いところまで進み次第、投稿しますのでよろしかったら作品のブックマークをお願いいたします。


※改稿=ダメージエフェクト描写。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ